
前回は、製材や木取りの手法、製材の種類を取り上げました。今回は、木材の品質管理上の重要なポイントになる乾燥について解説します。天然乾燥と人工乾燥による仕上がりの違い、JAS による製材の含水率の規格などを学びましょう。
第5回「木材の乾燥」を解説していきます。
第5回もくじ
1. 木材乾燥のメカニズムと収縮
木は含んでいる水分が抜けることによって、収縮します。製材の場合、この水分量をコントロールすることが寸法精度を高めるために重要なポイントになります。木材の乾燥のメカニズムと、木目の方向による収縮率の違いを解説します。
1:木材の含水率と乾燥のメカニズム
生きている木は、たっぷりと水分を含んでいます。それが伐採されて丸太や製材品になると、内部の水分が少しずつ蒸発し、乾いていきます。木に含まれている水分量は、含水率で表します。含水率は、木そのものの質量に対する水分の割合を示したものです。例えば、重さ 800kgの 木 に 300kg の 水 分 が 含 ま れ て い る 場 合、含 水 率 は 300÷(800-300)×100=60% となります。針葉樹の場合、伐倒直後の含水率は、100% を超えていることが珍しくありません。特に水分の多いスギは、含水率が 200%、つまり木そのものの重さの倍も水分が含まれていることがあります。
木には、2 種類の水分が含まれています。細胞の空隙に入っている自由水と、細胞壁に含まれている結合水です。木が乾く際には、まず自由水が抜けていきます。自由水が抜けきった状態を、繊維飽和点と呼びます。この時の含水率は、30%程度です。その後、結合水が抜け始めると、木は収縮を開始します。そして外部の温湿度環境と釣り合った状態になると、乾燥・収縮が止まります。この時を気乾状態といい、日本の一般的な気候下(雨に当たらない場所の場合)では、含水率が 15% 程度になります。気乾状態時の含水率を、気乾含水率あるいは平衡含水率といいます。
2:乾燥に伴う木材の収縮度合い
木材の乾燥に伴う収縮の度合いは、木目の方向によって異なります(図 1)。年輪に接する方向(接線方向・板目材)、年輪に直角の方向(半径方向・柾目材)、立木時の高さ方向(繊維方向)の順に小さく、その比率は 20:10:1 程度です。つまり、半径方向になる柾目材は、接線方向の板目材よりも、収縮率が半分ほどになります。この違いが、柾目材の寸法安定性の高さにつながっています(参考:第 4 回)。

ただし、1 つの製材品の中にはさまざまな年輪の方向が混在しているので、乾燥が進むと、収縮度合いの違いによって内部に応力が発生し、木材が反ったり、ねじれたり、割れが入ることがあります。そのため、よく乾いていない木材を建物や木工品の材料に使うと、完成後も乾燥が進み、収縮に伴う変形によって隙間が開いたり、くぎが浮く不具合が生じます。それを避けるためには、木材をよく乾かし、変形した部分を削り落とすなど、寸法精度を高めた上で使用することが必要です。
2. 木材の乾燥方法
乾燥させた製材品を、乾燥材と呼びます。乾燥材は、乾燥方法の違いにより、2 種類に大別できます。日に当てたり、外気にさらして自然乾燥させた天然乾燥材と、蒸気を吹きかけたり、電磁波をかけて強制的に水分を蒸発させた人工乾燥材の 2 つです。それぞれの方法と特徴を、詳しく見ていきましょう。
1:天然乾燥
天然乾燥では、材面によく風が当たるように隙間を空けて製材品を積み上げ(桟積み)、ゆっくりと乾かします(図 2)。この方式ならエネルギーコストはかからず、自然素材らしい風合いや色つやも損なわれません。ただし乾燥に時間がかかり、柱や梁(はり)といった断面の大きなものでは、少なくとも 1 年以上は必要というデメリットがあります。また、収縮に伴う割れが発生しやすい難点もあります。

2:人工乾燥
人工乾燥の場合は、密封された装置(乾燥機)の中に製材品を入れ、工業的な処理を施します(図 3)。乾燥機の導入コストやランニングコストはかかりますが、乾燥期間が短く、乾燥品質を管理しやすいことから、現在、市場に流通している乾燥材は、人工乾燥材が主流です。
人工乾燥の処理方法にはいくつかの方式があり、最も一般的な蒸気乾燥の場合は、処理温度によって低温乾燥(40 ~ 60℃程度)、中温乾燥(80 ~ 90℃程度)、高温乾燥(100℃以上)の 3 種類に大別されます。高温乾燥の場合、柱や梁のような断面の大きな製材品でも、1 ~ 2 週間程度で必要な状態にまで乾燥させることができます。また、処理工程の初期段階で 120℃ほどの高温の蒸気を吹きかけて表面を一気に乾かして硬化させ、割れを生じにくくする技術も開発されています。

ただし高温で処理すると、変色は避けられない上、木材の香りが飛んでしまうなど、自然素材としての風合いを、ある程度犠牲にすることになります。また高温で処理し続けると、表面は割れなくても、内部に割れが発生する場合もあります。そこで最近は、内部割れや変色を抑えるために、高温で表面を固めた後は 80 ~ 90℃程度まで温度を下げたり、乾燥機内部の圧力を低下させることで沸点を下げ、それほど高くない温度で処理するなど、さまざまな工夫が施されています。
伐倒した木をしばらくの間、そのままの状態で林内に寝かせ、水分をある程度蒸発させる方法もあります(図 4)。これを葉枯らし乾燥と呼び、多くの場合は、含水率が比較的高いスギに対して行われます。水分が抜けて軽くなれば扱いが楽ですし、製材する前にある程度乾かすことで、乾燥期間を短縮させ、コストを下げる効果も見込めます。ただ、葉枯らし乾燥を施した木材は、高温で表面割れを防ぐ効果が得づらくなるとされ、多くの場合、天然乾燥の前処理として行われています。

3. 製材品含水率の JAS 規格
全8回で下記の内容を解説しています。
- 第1回 木材の種類と用途
- 第2回 木材の特徴
- 第3回 木材の強度・耐熱性・耐久性
- 第4回 製材の方法と規格
- 第5回 木材の乾燥
- 第6回 木質建材の種類と特徴
- 第7回 木材の弱点を補う処理方法
- 第8回 木材の流通と環境問題