溶接は自動車や船舶、建築物の鉄骨のような大規模構造物から、金型や機械部品のような精密部品まで広く使われています。一方で、溶接技術は作業者の勘・コツに頼ることが多く、作業者の技能によって品質がばらつきます。そのため、溶接技術・技能について学び、品質を高めることが大切です。9 回にわたり、技術者に必要な溶接の基礎知識を解説します。
第1回「アーク溶接と溶接棒の種類」を解説していきます。
1. 溶接とは?溶接法の種類は?
溶接とは、2個以上の部材の接合部に熱や圧力、金属材料などを加え、連続性を持つ部材にする作業です。エネルギーを利用して、2つ以上の部材を冶金(やきん)的に接合します。冶金とは、原子間引力を利用して、金属を接合する技術です。
冶金的な接合方法には、融接、圧接、ろう接の3種類があります(表1)。融接は、接合部を加熱・溶融し、凝固させることによって接合する方法です。圧接は、接合部に熱エネルギーを加えた後に機械的な圧力を加えて接合する方法です。ろう接は、接合材の隙間に母材よりも融点の低いろう材を溶融・充填することによって接合する方法です(図1)。
2. 融接・圧接・ろう接の特徴
融接・圧接・ろう接の特徴をまとめました。板厚や母材の種類によって使える溶接の種類は異なります。溶接不良を起こさないためにも、確認しておきましょう。
1:融接の特徴
融接は、板厚が厚く接合強度が必要な場合によく用いられます。融接が開発される前は、強度が必要な接合には機械的接合法(ボルト・リベット接合)を使っていました。機械的接合法と比較した融接の特徴は以下のとおりです。
長所
・重ね代を考える必要がなく、継手の設計が簡単である
・製品の重量が軽い・継手効率(材料強度に対する継手強度)が高い
・工程数が少なく、製作時間を短縮できる
・板厚の制約をほとんど受けないため、大型の構造物を製作できる
・気密・水密性を持たせられる
短所
・局部的に加熱・冷却するため、ひずみが発生する
・母材と異なる材料(溶接金属)ができる
・溶接熱によって溶接金属の周辺に異なった性質の部位(熱影響部)ができる
・残留応力が発生し、継手強度に悪影響を及ぼすことがある
・溶接作業者の技量によって、溶接の品質がばらつく
・溶接部の良否確認が困難である
2:圧接の特徴
圧接は薄板の溶接によく使用されます。しかし、強度が必要な厚板には対応できません。また、電極に棒状のものを使用した場合にはスポットでしか溶接できないため、気密性が必要な場合には不向きです。電極に円盤を使用したシーム溶接は気密性のある溶接ができる反面、装置が大掛かりで大きな電源が必要です。
3:ろう接の特徴
ろう接は、2 枚の板の間に融点の低いろう材を流し込んで溶接します。
母材を溶かさないため異なる母材を溶接することができます。例えば、ステンレス鋼と銅を溶接する場合、融接では接合部に割れが発生してしまうため、ろう接が適しています。ろう接のデメリットは、厚い板材の接合で強度が確保できない点です。
今回は融接の中から、原点である被覆アーク溶接を取り上げて説明します。
3. 被覆アーク溶接法とは
被覆アーク溶接とは、被覆剤が塗布された溶接棒を電極として用い、母材との間にアークを起こして溶接する手法です。アーク溶接法で最初に実用化された溶接法で、全て手作業で行われます。図2 に、被覆アーク溶接機の構成を示します。
被覆アーク溶接では、被覆アーク溶接棒を電極として、その先端から高温のアーク(約5,000~6,000℃)を発生させます。被覆アーク溶接棒とは、金属の棒(心線)に被覆剤(フラックス)を塗布したものです(図3 右)。高温で母材が溶融し、溶融金属だまり(溶融池)ができます(図3 左)。心線も溶けて金属粒(溶滴)になり、溶融池で母材と融合・冷却・凝固して溶接金属を作ります。溶融によって溶けた被覆剤と酸化物が溶接金属表面に浮上し、溶接金属表面に出てきます(スラグ)。被覆剤に含まれているでん粉などが燃えて CO₂が発生し、空気の混入を防ぎます。空気と溶融金属の反応を防ぐガスのことを、シールドガスといいます。
高温下ではCO₂が分解し、酸素O₂が発生します。酸素O₂と、被覆剤中のマンガンMnやケイ素Siが反応して、酸化物(MnO、SiO₂)を形成します。そのため、被覆アーク溶接により作られる溶接金属は、脱酸・精錬された優れた金属となります。また、スラグにより冷却速度が遅くなり、良好な溶接ビード形状(溶接後に金属が盛り上がった形状)ができます。
4. 被覆アーク溶接棒の種類
被覆アーク溶接棒にはさまざまな種類があり、鋼材の種類などで使い分けます。被覆アーク溶接棒は、JIS Z 3211 軟鋼、高張力鋼および低温用鋼用被覆アーク溶接棒で規定されています。被覆アーク溶接棒の代表的な区分記号を図4 に示します。
一般的に使用されている溶接棒は、E4319、E4303、E4313、E4316、E4327 などです。それぞれの特徴をまとめました。
・E4319
E4319(イルミナイト系)は、日本で発達し、取り扱いが容易で機械的性質も良好な溶接棒です。
・E4303
E4303(ライムチタニヤ系)は、E4319(イルミナイト系)よりも取り扱いが容易で、ビード外観も良好な溶接棒です。E4319(イルミナイト系)に比べて溶け込みが浅いため、放射線透過試験で品質確認を行う場合があります。
・E4313
E4313(高酸化チタン系)は、アークが安定しているため、スパッタが少なくビード外観も良好な溶接棒です。溶け込みが浅いため、薄板の溶接に適しています。機械的性質が劣るため、強度が必要な部位では使用しません。
・E4316
E4316(低水素系)は、溶接金属中の水素量が少なく、機械的性質が良好な溶接棒です。強度が必要な部位や硬く割れやすい部位で使用されます。ただし、溶接開始時にブローホール(金属内に生じる小さな穴)が発生しやすく、アーク切れ(アークが消滅して溶接が中断される現象)も生じやすいため、取り扱いには訓練が必要です。
・E4327
E4327(鉄粉酸化鉄系)は下向きの部位への溶接や、水平すみ肉溶接(直角に組んだ鋼鈑を溶接する方法)に用いる溶接棒です。安定したアークと良好なビード形状がメリットです。
それぞれの溶接棒を用いた溶接形状の断面写真を図5 に示します。
溶接棒は吸湿しやすく、ブローホールや割れの原因になるため、使用前に乾燥させる必要があります。乾燥条件は、E4316(低水素系)では乾燥温度300 ~ 400℃、乾燥時間30 ~ 60 分です。E4316(低水素系)以外では乾燥温度70 ~ 100℃、乾燥時間30 ~ 60 分です。
5. 鉄鋼の材料と溶接
アーク溶接法で接合する金属材料には、軟鋼や高張力鋼、ステンレス鋼、耐熱鋼、アルミニウム合金などが用いられます。
純鉄に炭素 C、マンガン Mn、ケイ素 Si を入れて強度を高めた金属を鋼といいます。炭素 C、マンガン Mn、ケイ素 Si に、不純物のリン P、硫黄 S を含めた5 つの元素を、鋼の5 元素と呼びます。鋼は、炭素 Cの量によって呼び方が異なります。低炭素鋼(軟鋼:C<0.3%)、中炭素鋼(0.3≦C≦0.5%)、高炭素鋼(0.5<C<2.0%)、鋳鉄(2.0<C<4.5%)などです。一般的に炭素の量が増加すると、引張強度や硬さは増すものの、伸びやじん性(ねばり強さ)は低下します。炭素の多い材料は溶接性が悪く、焼き割れなどの欠陥が発生するため、溶接には低炭素鋼(軟鋼)が使用されます。よく使われるのは、引張強度が400N/mm²のSS400(一般構造用)、合金成分の規定が厳しいSM400(溶接構造用)、不純物である硫黄量の規定が厳しいSN400(建築構造用)です。合金元素を加えて引張強度を490N/mm² 以上に向上させた鋼材を、高張力鋼と呼びます。
軟鋼は溶接性が良く、急冷しても焼き割れが生じません。一方、中・高炭素鋼や高張力鋼などの合金鋼は溶接性が良くありません。溶接時の入熱量が少ないと冷却速度が速くなって焼き割れが生じます。入熱量が多いと冷却速度が遅くなり、焼きなましのように軟らかくなって強度が低下します。これらは、溶接部周辺の熱影響部、特にボンド部に現れます(図6)。ボンド部とは、部材と溶融部との境目のことです。
入熱が鋼材に及ぼす硬さへの影響は、炭素当量C eq で見積もります。炭素当量C eq は、炭素当量式で計算できます。各値には、ミルシート(材料に含まれる成分表)に記載された元素の含有量を用います。
炭素当量C eq (%)=C+1/6Mn+1/24Si+1/40Ni+1/5Cr+1/4Mo+1/14V
炭素当量C eq が0.35% 以上では、急熱・急冷した場合に焼き割れが生じます。この場合、予熱処理(溶接前に材料をあらかじめ温めておく処理)や、後熱処理(溶接後の冷却速度を遅くさせてねばりを生じさせる処理)を行う必要があります。
炭素当量の多い材料では、溶接直後には割れが発生していなくても、後から割れが見つかることがあります。原因の多くは水素であり、低水素系溶接棒を使用することで対策が可能です。また、高張力鋼は、熱処理や結晶粒の大きさを調整して強度を高めています。この場合、入熱量によって割れが発生したり、強度が低下したりするため、軟鋼に比べて溶接が困難です。
いかがでしたか? 今回は、溶接の基本である被覆アーク溶接法と溶接棒・鉄鋼材料の種類を解説しました。次回は、溶接記号の使い方を取り上げます。
全9回で下記の内容を解説しています。