水質の法令(第3回)で定められた有害物質の処理方法や除去方法を見ていきましょう。第6回の物理化学的処理法や、第7回の生物処理法だけではなく、それ以外の高度処理法を求められる場合も多々あります。つまり、有害物質の処理は、物理化学的処理法、生物処理法と高度処理法の組み合わせでできるものと考えてください。
第8回「有害物質の処理技術」を解説していきます。
第8回もくじ
1. 有害物質処理方法の分類
有害物質処理方法を大きく分類すると、4つの基本的な方法に分けられます。
・水溶性のものから難溶性(沈殿現象)のものに変えて、固形物として分離する方法
・有害物質を化学的に分解し、無害な物質への変換(酸化分解が多い)する方法
・吸着、イオン交換により分離(活性炭による吸着、イオン交換法など)する方法
・高度活性汚泥法などの生物分解による方法
前半で処理技術を横通しの視点で整理し、後半で個別の有害物質の除去技術を解説します。
2. 有害物質の共通の処理技術
有害重金属や有害無機・有機化合物を含む排水の高度処理法の共通の技術を整理します。
重金属の排水処理の共通留意事項
表1に重金属排水処理をする場合に留意すべきことをまとめます。対象排水の状態観察や成分分析をしていることが前提です。
水酸化物法
水酸化物法とは、カセイソーダや消石灰を添加して重金属排水をアルカリ性にすると、水酸化物が析出し沈殿させる処理法です。水酸化物法の特徴は、多くの重金属の処理が可能で、薬剤制御はpH計で可能であり(厳密な pH制御は不要)、処理薬剤は汎用薬品で良いのでランニングコストも安いことです。金属水酸化物の沈殿と高pH側での両性金属の水酸化物の再溶解は、溶解度積と錯イオン形成時の平衡定数で表し、理論溶解度は容易に計算できます(第6回参照)。
共沈法
重金属は、pHとともにほぼ溶解度曲線に沿って沈殿しますが、ある種の共存金属の存在下では、理論溶解度より1~2低いpHで沈殿します。これが共沈現象です。共沈剤を使用することで、処理pH領域は広くなります。共沈剤としては、二次公害の心配がなく、凝集性や沈降性に優れ、凝集pHの広い化合物から選定します。一般的には塩化鉄Fe(III)が多く使われます。適用pHが中性であればアルミニウム塩、アルカリ性であれば鉄Fe(II)塩が使用されます。特定の重金属対象では、クロムCr(III)、塩化亜鉛ZnCl
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も使用されます。
置換法
重金属含有排水中にキレート剤や分散剤が多く混入している場合、 pH調整のみの水酸化物法では重金属は処理しきれなくなります。これは重金属がキレート剤で封鎖されているためで、封鎖されている重金属を他の無害な元素で置換し、置換され外れた重金属を水酸化物として沈殿させる方法が置換法です。置換法には、マグネシウムMg塩法と鉄Fe+カルシウムCa塩法の2つがあります。キレート剤を含む排水の処理計画では、使用薬品の種類や最大濃度、流入工程などの事前調査や予備試験が必要です。キレート剤の濃度を低く保つよう、排水の均一化や濃厚液の分別が必要となります。排水中に含まれる代表的なキレート剤には、アミノボリカルボン酸錯体(EDTAなど)、クエン酸、エタノールアミン錯体などがあります。
硫化物法(難溶性硫黄化合物生成法)
重金属の硫化物は、水酸化物の溶解度と比べると極めて溶解度が低く、pH中性領域での処理が可能など、硫化物法は、有害金属処理法として優れた一面があります。しかし、薬剤硫化水素の毒性、強烈な臭気、腐食性のため、排水処理に適用されている例は少ないですが、例外的に水銀の例があります。完全な硫化物にするためには、少し過剰の硫化ナトリウムが必要です。しかし、元々凝集性の悪い硫化物は、過剰の硫化ナトリウムの存在下では、多硫化物を生成し再溶解を起こすので、硫化物法では、無害な重金属(例えば鉄塩)を添加して、過剰な硫化物イオンを硫化鉄FeSとして固定し、同時に生成する水酸化物の共沈効果により、凝集性の向上を図っています。
フェライト法・鉄粉法
フェライト法とは、フェライト生成反応を利用する方法です。鉄(II)イオン(Fe(III)ではないこと)を含む溶液にアルカリを加え酸化処理を行うと、強磁性であるマグネタイト(フェライト固溶体の総称)が生成します。他の重金属が共存しても同じ反応が起こり、除去でき、磁気で分離除去もできます。従って、フェライト処理は各種金属の一括処理が可能です。フェライトの結晶構造に取り込まれた重金属は、溶出しにくいなどの優れた特徴を持ちます。
鉄片を酸性溶液に接触させると表面が溶解し活性に富んだ金属面が現れます。共存する重金属は、イオン化傾向の差により金属表面に還元析出します。鉄粉法は、この金属鉄の還元作用と溶出した鉄イオンの共沈作用を利用したものです。多孔性で、比表面積の大きい特殊鉄Fe粉の使用により、還元処理が困難と考えられていた亜鉛Zn 2+ 、カドミウムCd 2+ 、ニッケルNi 2+ なども処理可能となっています。なお、上記の2つの方法は、排水量の少ない有害物質を含む研究室・実験室排水の処理に適しています。ただし、通常の凝集沈殿法に比ベて、汚泥発生量が多くなる欠点があります。
オゾン処理法(酸化処理)
オゾンは、酸化剤としてのオゾンは塩素より酸化力が強く、水中残留性がない、水中の有機物と結合して有害な副生成物が生成しにくいなどの特徴があります。ただし、オゾンの製造コストが高いこと、鉄Fe、金Au、銀Agのシアノ錯体の分解処理はできないという欠点もあります。オゾンは、浄水処理におけるカビ臭物質の除去や、排水処理時の有機物色度、臭気物質の除去に用いられます。
活性炭吸着法
活性炭吸着法は(第6回参照)、基本的には非金属の処理方法として可能です。有機りん(農薬系)排水、PCB(ポリ塩化ビフェニル)排水、有機塩素系化合物排水にも有効です。金属の中でも水銀Hg(II)やクロムCr(VI)など、一部については有用です。ただし、セレンSe(Ⅵ)には効果はほとんどありません。
イオン交換法、キレート樹脂による吸着法
イオン交換樹脂:イオン交換樹脂の吸着量は、原水質(主に濃度)に関係なくほぼ一定です。その適用は、対象イオンの濃度が低く、排水量が大きいときに有利です。一般にイオン交換樹脂は比較的高価なので、再生使用が前提です。重金属の高度処理で使う場合、イオン交換樹脂塔やキレート樹脂塔は、ろ過装置で前処理して大きな異物を除去することが重要です。
キレート樹脂による水銀吸着法:目的とする重金属イオンだけを選択的に除去するために開発されたのがキレート樹脂です。水銀キレート樹脂は、一般的に硫黄系の官能基を有しています。コロイド状水銀は、イオン化してから水銀キレート樹脂へ吸着させます。なお、以下の特定元素、ヒ素As、ホウ素B、フッ素Fの選択性キレート樹脂が市販されています。
3. 有害物質の処理方法各論
全9回で下記の内容を解説しています。
- 第1回 水質汚濁物質の発生源と排水ルート
- 第2回 水質汚濁指標と汚濁メカニズム
- 第3回 有害物質の種類と健康への影響
- 第4回 水質汚濁防止法とは?
- 第5回 排水処理プロセスの選び方
- 第6回 汚水処理技術の種類
- 第7回 生物処理法の種類
- 第8回 有害物質の処理技術
- 第9回 工場の排水処理の事例