前回は、水質汚濁指標と汚濁メカニズムについて、解説しました。今回は、水質汚染の原因となる有害物質の種類と、それが私たちの健康や周囲の環境へ与える影響を説明します。
第3回「有害物質の種類と健康への影響」を解説していきます。
第3回もくじ
1. 水質汚濁物質・有害物質
汚濁物質・有害物質とは具体的には何でしょうか? どんな化学物質が有害なのかを見るために、健康有害項目や生活環境悪化項目を表1にまとめました。読者の皆さんは、いろいろな化学物質を扱っているでしょう。この表から該当するものがあるかどうかを推測してください。ただ、化学物質の種類は、さまざまな法令の中で膨大な数に上り、ここでは「水質悪化」に関わるもののみに限定していることに留意してください。法令の基準や規制事項については、次回連載で解説します。また、環境基本法と水質汚濁防止法では、補欠項目も設定されています。(参考:環境省ウェブサイト )
2. 人の健康への影響
表1に示した有害物質が、人の健康に与える影響について解説します。各化学物質が実際に有害であるかどうかを左右するのは、物質の性状(有害性/ 有害物質の単位量あたり)とばく露量(瞬間的な摂取量とその継続時間による)が主な要因です。そのほかに、急性毒性、慢性毒性、毒性の多様な因子、化学種の相違、経路の違い、複合汚染、微量必須元素、生物学的半減期などの要因があります。有害物質であっても、量が少なければ、症状は起こりません。従って、これから説明する症状や生理学的障害などは、さまざまな要因によることを念頭に置いて、読んでください。
金属類汚染の人への健康影響
カドミウムCd
の健康影響には、具体的症状として、腎臓障害や骨軟化症、カルシウム代謝損傷があります。人体内での生理学的症状として、大量のカドミウムを呼吸器系、または消化器系ばく露により吸収して起こる急性中毒と、長期間微量のカドミウムのばく露によって起こる慢性中毒があります。主に肝臓と腎臓に蓄積され、主に近位尿細管機能の異常による腎障害があります。経口摂取では、大部分がふん中から排せつされます。イタイイタイ病の原因になった物質です。
鉛Pb の健康影響には、具体的症状として、低色素性貧血、いわゆる鉛中毒があります。人体内での生理学的症状としては、慢性中毒があります。食欲不振、便秘に続いて、鉛せん痛が起こることがあります。鉛の消化管からの吸収は約10%に対し、吸入では約40~50%が気道および肺胞に沈着し、血液に移行します。
クロムVI(六価クロム) の健康影響には、皮膚潰瘍、鼻中隔湾曲、皮膚炎、胃・肺がんがあります。人体内での生理学的症状として、生体への蓄積性があります。主に六価クロムに起因し、肝臓腎臓障害、内出血、呼吸障害を発症します。六価クロムを含む空気やダストを吸引すると、鼻中隔穿孔や肺活量の減少などの呼吸器障害を起こします。六価クロム化合物は一般に、三価クロム化合物より毒性が強い。
水銀Hg の健康影響には、腎臓障害があります。人体内での生理学的症状として、金属水銀Hgは、赤血球ではカタラーゼによりHg 2 +に酸化されます。Hg 2 +は大部分が血しょうに分布し、腎臓に高い蓄積を示します。腎臓に取り込まれたHg 2 +はメタロチオネインと結合します。
有機水銀(アルキル水銀、メチル水銀) の健康影響には、神経系統を侵す、四肢のふるえ、運動失調、視野狭さくがあります。人体内での生理学的症状として、メチル水銀は種々の臓器に分布し、血液脳関門を通過して脳にも高い蓄積性を示します。主な特徴は、ハンター・ラッセル症候群といわれる中枢神経症状です。メチル水銀は、水俣病の原因になりました。フェニル水銀は、水俣病のような症状を示しません。
ヒ素As の健康影響には、肝臓障害、皮膚色素沈着、皮膚がんです。ヒ素の慢性中毒では、色素沈着、皮膚炎や烏脚(うきゃく)病が知られています。人体内での生理学的症状として、ヒ素自体は毒性が弱いですが、3価のヒ素化合物は毒性が強いのが特徴です。また、無機ヒ素は、体内で有機化されてメチルアルソン酸(モノメチルアルソン酸やジメチルアルソン酸)などのメチル化ヒ素化合物となります。これらの毒性は、むしろ無機ヒ素よりも毒性が低く、しかも尿中に溶けて体外に排出されやすい特徴があります。廃鉱山排水の被害(宮崎県土昌久館山)、 森永ミルク事件(1955年)はヒ素が原因で起こっています。
無機、半金属類の人への健康影響
セレンSeの健康影響には、胃腸障害、貧血、克山病があります。人体内での生理学的症状は、欠乏症によって、動物に肝臓の壊死肝障告筋ジストロフィーなどを発症します。人に対しては心筋症を起こす克山病がよく知られています。
シアンおよびその化合物CN(多くは遊離シアン) の健康影響には、呼吸酵素系統の破壊があります。人体内での生理学的症状は、血液中でシアノヘモグロビンを生成し、ミトコンドリアの電子伝達系のチトクロムオキシターゼ阻害を起こして、組織での酸素の消費が阻害されて窒息が起こります。遊離シアンは経気道・経口および皮膚経由から容易に吸収されます。河川への流出事故が繰り返し発生しています。
有害有機化合物の人への健康影響
害昆虫防除用農薬の有機りん剤
の健康影響には、神経系統の障害があります。血清コリンエステラーゼ活性が低下します。人体内での生理学的症状として、皮膚からの浸透力が強く、中毒症状は急性的でまひ、運動失調を伴い死に至ります。これらの中毒症状は、副交感神経の伝達因子であるアセチルコリンを分解するアセチルコリンエステラーゼの活性を、有機りん系農薬が阻害するため、アセチルコリンが異常に蓄積し、コリン作動性神経である副交感神経が過度に刺激されることに起因しています。1972年にパラチオンほか3 種の農薬が製造・使用と禁止されました。
ボリ塩化ビフェニルPCBs の健康影響には、黒色の色素沈着、塩素ざ瘡の症状があります。人体内での生理学的症状として、水に難溶、油溶性のため、置換塩素数の多いものほど肝臓で代謝されにくく生体内残留性が高くなっています。ただし、肝障害や腎障害などを伴わないことです。熱、化学的に安定、絶縁性、接着性、伸展性が優れます。熱媒体やコンデンサーやトランスの絶縁体、感圧紙、塗料溶剤として利用されています。
トリクロロエチレン、テトラクロロエチレンなどの低分子有機塩素化合物(9種類) の健康影響には、肝臓障害、発がん性の疑いがあります。近年、トリクロロエチレン(トリクレン、TCE)やテトラクロロエチレン(パークレン、PCE)、1-1-トリクロロエタンなどの、低沸点有機塩素系化合物の地下水汚染や土壌汚染問題あります。これらの化合物は、天然由来では存在しません。PCE は血液中に入ると脂肪に分布しやすいです。PCE、TCE ともにIARC(国際がん研究機関)によって「人に対する発がん性の可能性あり」のグループ2Aに分類されています。
1、3-ジクロロプロぺン の健康影響には、発がん性の疑い、腹痛、おう吐、肺水腫などがあります。
農薬は、その使用目的によって、殺虫剤、殺菌剤、除草剤などに区分されます。また有効成分の化学構造から、有機塩素系、有機りん系、カーバメート系、有機水銀系や天然物系農薬などに分類されます。
有機塩素系農薬 は、構造式の中に塩素を含んだ化合物で、DDT(ジクロにジフェニルトリクロロエタン)、HCH(ヘキサクロロシクロヘキサン)、アルドリン、ディルドリン、PCP(ペッククロロフェノール)、クロルデン類などがあります。これらの農薬は環境中で分解されにくく、水や土壌中に長く残存するため、食品に残留し、食物連鎖によって生物濃縮されます。人体に蓄積されて慢性中毒の可能性が問題となり、全面使用禁止となっています。HCHのα、β、γ、δの異性体の環境残留性はそれぞれ異なります。そのほかにも、チウラム、シマジン、チオベンカルブ、ベンゼンなどの物質があり、発がん性の疑いがあります。
3. 一般環境への影響
全9回で下記の内容を解説しています。
- 第1回 水質汚濁物質の発生源と排水ルート
- 第2回 水質汚濁指標と汚濁メカニズム
- 第3回 有害物質の種類と健康への影響
- 第4回 水質汚濁防止法とは?
- 第5回 排水処理プロセスの選び方
- 第6回 汚水処理技術の種類
- 第7回 生物処理法の種類
- 第8回 有害物質の処理技術
- 第9回 工場の排水処理の事例