水質汚濁物質の発生源と排水ルート|水質汚染対策の基礎知識1

水質汚染対策の基礎知識

著者:株式会社プリディクション郷事務所 兼 化学工学会SCE・Net 郷 茂夫

水は誰でも使います。それは同時に使った水をどこかに捨てていることでもあります。その捨てられる水が本連載の主題です。捨てられた水(排水)は放置されているわけではなく、コストをかけて処理されています。事業者や工場が自分で処理する場合や、下水道に流し込まれた下水を終末処理場(水再生センター)で処理することが基本です。しかし、適切な処理無くして、川、池、湖や海域に放流されたり、または漏えいして地下に浸透していく部分があります。それが水域の汚染・汚濁の主原因となっているのです。この基礎知識では、9回にわたり、排水や汚水の法令規制や無害化処理法を解説します。1回目は、水質汚濁による公害の歴史や汚濁の発生源などを解説します。

第1回「水質汚濁物質の発生源と排水ルート」を解説していきます。

基礎知識DL

1. 水質汚濁による公害と行政の取り組みの歴史

日本の公害の歴史については、「環境と公害の基礎知識」の第1回目で、四大公害の歴史や原因などを解説しました。公害には、水質に絡む事件が他にも数多くあります。表1に「環境と公害の基礎知識」第1回で紹介していない水質公害事件、表2に水質環境への行政の取り組みの歴史などをまとめました。

環境と公害の基礎知識第1回以外の主な水質公害事件
表1:環境と公害の基礎知識第1回以外の主な水質公害事件
水質環境に関わる行政の取り組みの歴史
表2:水質環境に関わる行政の取り組みの歴史

2. 水に関わる用語

上水、中水、下水
水には、上水、中水、下水の3種類の呼び方があります。本連載の主題は、下水です。上水と下水は身近なものですが、中水という言葉はなじみが薄いかもしれません。中水とは、水洗トイレの用水や公園の噴水など、飲用には適さないが、雑用、工業用などに使用される水道のことです。一般用語であり、きちんと定義された用語ではありません。下水または使用済み中水を処理して中水用にリサイクルする技術は第5回で若干触れますが、「中水」と言う用語は本連載の中では使いません。

排出される水の種類・呼び方
排出される水の呼び方に、排水、排出水、下水、汚水などがあります。一般用語とやや混同がありうるので、解説と定義をしておきます。

排水 :排出される水の一般総称です。生活排水のように、他の言葉と接合すると意味が明確化されます。
排出水:同様に一般用語です。しかし、法令では「排出水とは,特定施設から公共用水域に排出される水」のように、限定されて定義される場合があります。
下水 :下水は法令の中でも使われる用語で、汚水と雨水を含みます。下水道法においても同様です。下水は言い換えれば、排水ともいえますが、下水の方が明確に定義されています。排水は漠然とした一般用語です。なお、下水と下水道は意味が異なります。下水という用語の範囲は広く、下水道を流れる下水はその一種に過ぎません。
汚水 :生活排水(炊事、洗面所、洗濯、風呂などからの排水、ビルやオフィスも含む)、し尿、事業場や工場からの排水、農業・牧畜の排水を含むものと定義されています。
雨水 :雨水は空中で浮遊汚染物質を溶かし込み、地上に降り落ちて、さまざまな汚物を流し込んでいく汚れた雨水が問題になるので、下水の一種です。

水環境と法令上の水
一般に「水環境」という場合は、水の供給側(水の源泉)、排水側(下水道の水、生活排水、事業場や工場の排水、地下への排出浸透水)、地下水、土壌内の水、公共用水域(川、湖沼、閉鎖性海域)の水、外海洋など、広く人間の利用する水の状況を指します。本連載の対象は、排水側、地下水、土壌内の水、公共用水域が主体となります。

一方、水質規制関連法令(水質汚濁防止法など)で水という場合は、公共用水域(下記参照)の水と地下水を加えたものを指します。これらは水源でもあり、排水先ともなっていますが、水質規制関連法令では、排水先として意識したものになっています。また、水質汚濁防止法には下水道は含まれません。下水道は、下水道法(水質公害対策法令の一つともいえます)の管轄です。

公共用水域
「公共用水域」は水の種類ではありませんが、頻繁に使われるので、ここで加えておきます。河川、湖沼、港湾、沿岸海域など、公共の用に供される水域およびこれに接続する公共溝きょ、かんがい用水路など、公共の用に供される水路をいいます。上述のように、下水道は含まれません。

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3. 排水ルートと法規制

下水(排水)発生のルートと、排水規制法令のカバー範囲を図1に示しています。水汚染源の排出者には生活者、オフィス事務所、事業場(工場)、農業、畜産業、面源負荷、自然的原因などがあります。主な規制法令は、水質汚濁防止法と下水道法です。それ以外に、土壌汚染対策法があります。そして、法令規制にもかかわらず、不適切処理、または処理なし汚水の放流や汚水の漏えいにより地下へ浸透する水などが存在し、それらが実際の汚染源になるわけです。

排水の発生源、排出ルートと法令カバー範囲
図1:排水の発生源、排出ルートと法令カバー範囲

4. 水質汚濁物質の発生源

下水(排水)の水質汚濁物質の発生源と、処理後の放出先をもっと細かく見ていきましょう。

水質汚濁物質の発生源と放出先
汚濁物質発生源とその処理排水の放出先を表3 に示します。発生源とともに、どこに排出、放流されるのかということも学んでください。

汚濁物質の発生源と放出先
表3:汚濁物質の発生源と放出先

水質汚濁物質の事業所や工場からの排出
ここでは、読者のみなさまの業種、事業所、工場との関係で見てください。また、連載第3回の人の健康への影響と併せて見ると、原因と結果の理解の参考になるでしょう。

生活環境項目の排出量の多い代表的な業種
表4:生活環境項目の排出量の多い代表的な業種
有害物質の発生源と代表的な業種
表5:有害物質の発生源と代表的な業種

(補足)現在問題となっている豊洲市場の地下の水などの分析結果が取沙汰されています。有毒物質シアン、クロム、ヒ素、ベンゼンなどの発生源については上表にも記していますので参考にしてください。ただ、上表は典型的な発生源を記したものですから、今回の豊洲市場のたまり水などを直接的に記述したものではありません。ちなみに、ヒ素は猛毒物質と言われますが、この地球上の地殻(土壌)の中には、どこにでも、およそ2wt-ppm程度のヒ素は存在します(単位:1wt-ppmとは 1kg=1リットルの水の中に 1mg存在することをいう)。海水中には0.001wt-ppmくらいです。健康な貴方の身体中にも、0.05wt-ppm程度は入っていることを認識してください。

いかがでしたか?  今回は、水質汚濁による公害の歴史や汚濁物質の発生源について説明しました。次回は、水質汚濁指標と汚濁メカニズムを解説します。お楽しみに!

全9回で下記の内容を解説しています。

  • 第1回 水質汚濁物質の発生源と排水ルート
  • 第2回 水質汚濁指標と汚濁メカニズム
  • 第3回 有害物質の種類と健康への影響
  • 第4回 水質汚濁防止法とは?
  • 第5回 排水処理プロセスの選び方
  • 第6回 汚水処理技術の種類
  • 第7回 生物処理法の種類
  • 第8回 有害物質の処理技術
  • 第9回 工場の排水処理の事例

第2回~第9回の続きはこちらより資料をご覧ください!

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