真空機器の取り扱い・保守|真空の基礎知識6

真空の基礎知識

著者:大阪市立大学大学院 工学研究科 准教授 福田 常男

前回は、真空用材料と部品を説明しました。今回は、いよいよ最終回。真空機器の取り扱い方について解説します。また、機器の設計製造や使用者の立場から、真空機器を安全に取り扱うための注意点をお話しします。真空機器を使う上で欠かせない機器の保守の考え方や、点検の勘所についても述べます。最後に、現在喫緊の課題になっている環境保全への取り組みの技術トレンドもご紹介します。

第6回「真空機器の取り扱い・保守」を解説していきます。

基礎知識DL

1. 真空機器を取り扱う際の注意点

真空機器を取り扱う際に、どのような点に注意したらよいのでしょうか。真空内での放出ガスを最小限にすること、フランジやシールに汚れや傷がないようメンテナンスすること、また真空機器の日々の変化に気付くことも重要です。

・放出ガスの低減
真空排気は、どのようにすれば必要とする圧力領域に速く達することができるでしょうか。排気速度の大きい真空ポンプを用いることは経済的ではありません。第5回で説明したように、速く圧力を下げるためにはできるだけ放出ガスを減らすことが重要になります。そのため、真空機器を取り扱う上では、容器の中にガス放出の元になるようなものを持ち込まないことが鉄則です。

・容器の洗浄、乾燥
中真空以下の圧力で使用する場合、真空容器内に挿入する部品などは、あらかじめ有機溶剤や洗剤で脱脂した後よく乾燥させておきます。組み立て作業に用いる工具は、真空専用として他の工具と区別し、あらかじめ洗浄して油分を除去しておきます。鉄製の工具は、油分がなくなるとさびが生じるので保管に注意します。また、真空容器や真空中で使われる部品を素手で触れると、手の油脂が付着してガス放出源になるので、作業には手袋の着用が必要です。真空容器を真空から大気圧に復圧するときに乾燥ガスを用いることで、容器内の水の吸着を減らすことができます。

・真空フランジ、Oリング
真空フランジやクランプ形継手、Oリングゴム(図1)は、ほこりや傷がつかないように取り扱いに注意します。Oリングは、高真空用グリースを薄く塗布して気密性を保ちます。グリースを塗布した後はほこりが吸着しやすくなるので要注意です。Oリングは、装着時に傷がないかどうか目視で確認する癖をつけましょう。フランジ溝などのOリングのあたり面は、斜めからライトで照らして傷がないかの確認が必要です。

真空フランジの例。左が旧JIS真空フランジ(VG50)、右がクランプ形継手(NW25)。写真の黒い部分がゴムのOリング
図1:真空フランジの例。左が旧JIS真空フランジ(VG50)、右がクランプ形継手(NW25)。写真の黒い部分がゴムのOリング

・日々の記録、管理
真空機器の運用で重要なのは、記録することです。通常、大気圧から排気を始めて必要な圧力に達するまでの時間は、毎回ほぼ一定です。この時間と圧力を記録しておくと、取り続けた記録を見て、ある日を境に急に排気に時間がかかるようになったり、到達圧力が下がらなくなったりした場合、リークを疑います。真空装置の導入時には問題がなくても、使っているうちにゴムが劣化したり、さびが貫通してリークが発生し、知らず知らずのうちに排気時間が長くなっていることがあります。また、後で説明する真空ポンプのメンテナンス時期になり、作動油が劣化して脱ガスが増えたり、排気速度が小さくなっている場合もあります。このようなことに気が付くためには、日々の運用できちんと記録を取り、それを保管管理して、作業者が誰でも見ることができるようにしておくことが重要です。そうすることで、装置劣化や故障の早期発見につながります。

2. 真空機器の保守と安全対策

まず、真空機器の保守の基本的な考え方について述べます。真空機器も、一般的な機械類と同様に故障が発生します。一定期間内に故障する確率を故障率といいます。多くの場合、機器導入後の故障率の経時変化を表すグラフは、バスタブ型になることが知られています(図2)。これは、導入直後に起きる初期故障が時間とともに減少し、ある一定の故障率になった後で、今度は機器の摩耗劣化などによる故障率が増加するためです。

故障率曲線
図2:故障率曲線

機器の故障は生産ラインの停止に直結するため、企業にとって致命的です。そこで、このような故障率を少しでも下げるために、故障しそうな部品をあらかじめ交換しておくのが予防保全です。真空関係では、主に真空ポンプやバルブの定期的なメンテナンスを行います。例えば、油回転ポンプの作動油の交換、油回転ポンプやドライポンプのシャフトシールの交換などです。ターボ分子ポンプでも定期的に潤滑油やグリースの交換が必要な機種もあります。また、ポンプやバルブなどでは、摺動部分のOリングの交換を行います。このような予防保全の周期は、各メーカーが経験に基づき、定期保守として実施されることがほとんどです。また、定期的なメンテナンス以外に、機器が故障する前兆をとらえて、警告する予知保全もあります。ドライポンプなどでは、モータ電流をモニタして、ポンプが摩耗劣化して過負荷になりポンプ電流が一定以上増加すると警告し、事前に故障を防ぐことができるものもあります。

事故による労働災害は、使用者にとっても、従業員にとっても大きな損失になり、企業活動に大きなダメージを被ることにもなります。また、物的な損害は企業経営に直結する問題を引き起こします。このような事故を未然に防ぐことは、社会全体にとって非常に重要なことです。

それでは、真空技術の中で起きる事故にはどのようなものがあるでしょうか。真空装置の製造や設置、保守作業で遭遇した労働災害についての事故例は、大きく分けると6つあります。重量物による挟み込み、大気圧に復圧していない装置による意図しない機器や部品の作動、ガラス破損による裂傷、感電、やけど、化学物質による中毒や皮膚障害の6つです。(参考:一般社団法人日本真空工業会、作業員が遭遇した危険な事例集、日本真空工業会環境・CS委員会編、2004年)※非売品。

真空装置は、大気圧との差圧による大きな力を受けても壊れないように頑丈に作られています。重量も一般的な機械類より重くなります。真空機器の運搬や設置時には、まずこれから運搬・設置しようとする装置類の重量を知ることが大切です。その上で、運搬や設置方法を検討します。

真空技術特有の事故には、装置の一部が大気圧に復圧していない、または機器の一部に圧縮空気を利用していて大気圧になっていないことが原因になることがあります。大型の油回転ポンプのモータと、ポンプ本体をつなぐ駆動ベルトが、ポンプを大気に復圧したときに急に動き、指がプーリとベルトの間に挟まれた事故例があります。また、圧空のゲートバルブが、作業中に駆動用の空気が抜けてゲートが閉まって指を挟まれた、といった事故例もあります。いずれの場合も、真空装置の保守や点検時には、可動部分を固定したり、全ての部分が完全に大気圧に復圧したことを確認してから作業を始めるのが原則です。

その他、真空装置にはガラスののぞき窓がある場合が多いのですが(図3)、外からの大気圧には耐えることができても、真空容器内が大気圧より高くなって中から力が加わった時に破損することがあります。そのため、真空容器にガスを導入して大気圧にするとき、大気圧を越えないように注意が必要です。また、ガラスが破損した場合の飛散防止のために、透明フィルムなどを貼っておくことをお勧めします。

のぞき窓(ビュ ーイングポート)の例
図3:のぞき窓(ビュ ーイングポート)の例

真空機器には、電気や冷却水、各種のガスなどのユーティリティーが使われています。これらがストップした時、装置がどのような状態になるかを知っておくことは重要です。油回転ポンプが停止すると、吸入口が真空、排気口が大気圧なので、排気口と吸入口の圧力差のために中の作動油が大気圧で押されて吸入口から真空容器に向かって流れ出ます。最近の油回転ポンプでは、吸入口に電磁バルブを設けて、停電時に自動的にバルブが閉まる構造のポンプもあります。

ターボ分子ポンプでは、停電で止まっても慣性力で回転し続けている場合が多いので、停電が復旧した時、いきなり空気を導入すると、高速回転しているターボ分子ポンプの動翼に過大な力がかかり、ポンプが故障する原因になります。磁気軸受のターボ分子ポンプでは、停電時に内蔵バッテリーや回転している動翼の慣性力で回生電力を得て、浮上したまま回転を続けます。その後、回転が遅くなってから磁気浮上が停止し、動翼の回転軸が軸受に落下して軸受との摩擦で回転が停止します。これをタッチダウンといいます。回転が停止したターボ分子ポンプは吸入口と排気口の圧力が等しくなるので、停電時には、真空容器との間を適当なバルブで締め切っておかないと、容器の圧力が上がってしまいます。

3. 真空機器のグリーン化

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全6回で下記の内容を解説しています。

  • 第1回 真空とは?
  • 第2回 低・中真空の作り方
  • 第3回 高真空・超高真空の作り方
  • 第4回 真空の測定方法
  • 第5回 真空用材料と部品
  • 第6回 真空機器の取り扱い・保守

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