前回は、さまざまな圧電超音波センシングデバイスを紹介しました。今回は、パワー超音波を取り上げます。超音波の応用には、センシングや計測の他に、そのエネルギーを利用するパワー応用があります。これはパワー超音波とも呼ばれ、高い音圧や大きな振動加速度が発生します。また、それに伴って生じるキャビテーション現象による機械的、化学的な効果は、さまざまな分野の製造技術で利用されています。
第5回「パワー超音波の性質と応用」を解説していきます。
第5回もくじ
1. 高強度超音波による現象
パワー超音波の応用はバラエティに富んでおり、空中、液中、固体といった応用先により、利用目的も技術内容も異なります。
液中の超音波を利用する超音波洗浄は、パワー応用の代表例です。町の眼鏡店から、病院、精密機械工場、半導体分野まで広く使われています。液体には大気圧(1気圧=100,000Pa)が常に加わっています。これに超音波を加えると、圧力は大気圧を中心に超音波周波数で繰り返し変化します。超音波洗浄ではその変化幅が大きく、瞬時音圧が負の瞬間には圧力0に迫ります(図1)。
このとき、液体に溶けていた気体がにじみ出します。にじみ出た気体は、圧力の周期変化によって小さな泡に成長し、あるとき押しつぶされます。その際、瞬間的に大きな圧力が発生し、これが洗浄効果をもたらします。超音波洗浄器が発するシャーという音は、多数の空洞が壊れる音です。
このように、液中に泡や小さな空洞が生じる現象をキャビテーションと呼びます。キャビテーションは、アルミホイルに多数の小さな穴を開けるほどの破壊力があるので、超音波強度を適切に調節して洗浄を行う必要があります。通常の超音波洗浄には、数10kHzの周波数が使われます。半導体材料など繊細な製品の洗浄には、キャビテーションの起きにくい1MHz程度の高周波を使うこともあります。液体に溶けている気体が多いと、低い音圧でキャビテーションが起きてしまうので、気体量のコントロールが重要です。
洗浄効果は、液体の振動(粒子速度)によってももたらされます。粒子速度は、音圧を液体の音響インピーダンスで除した量です。音響インピーダンスは密度と音速の積として計算されます。水の音響インピーダンスは、1,000 [kg/m 3 ]×1,500[m/s] です。音圧の片振幅が1気圧(100kPa)の場合、水の粒子速度の最大値は67mm/sです。この値は、それほど大きいとは感じられないかもしれません。しかし、超音波は周波数が高いので、粒子速度に角周波数を掛けた加速度は、非常に大きくなります。例えば、40kHzで音圧1気圧の場合、加速度は重力加速度の1,700倍にもなります。超音波洗浄では、この巨大な加速度により、付着した汚れが振り落とされます。
通常の音響理論は、大気圧よりもずっと小さな音圧範囲を仮定して作られたものです。そのため、ここで述べたような強力な超音波を起こすと、通常の音響理論では起きない現象を目にすることができます。例えば、超音波洗浄器の中では水が激しく動いています。これは機械的に撹拌(かくはん)しているわけではなく、強い超音波により水に流れが生じています。これを音響流といいます。
2. パワー超音波振動系
約100kHzまでのパワー超音波応用では、振動源にボルト締めランジュバン振動子(BLT:Bolt-clamped Langevin Transducer)が使われます(第2回参照)。中型以上の超音波洗浄器では、洗浄槽の底面にBLTを配置したものが使われます。また、空中でのパワー超音波応用や、超音波加工でも、BLTは利用されています。この場合、必要な振動振幅を得るため、BLTと目標物の間に、ホーンと呼ばれる振動振幅変換器を接続します(図2)。
ホーンはアルミニウムや鉄を削り出して作られ、ボルトによって強固にBLTに接続されています。断面積を長さ方向に変えることで、振動振幅をBLT側よりも目標物側で増大させます。数10μmの振動変位振幅が必要な応用では、振動速度は数m/sにも達します。振動子やホーンで振動振幅が0になる場所は振動の節と呼ばれ、応力が大きくなります。パワー超音波応用では、応力が非常に大きくなるため、振動の節における応力の集中が過度にならないようなホーン形状が選ばれます。
空中でのパワー超音波応用では、十分な強度の超音波を放射するために、面積の大きな振動板をホーンの出力端に接続したものが使われます。振動板は正負に変位するたわみ振動をします。しかし、この場合、正面方向に出る超音波は正負で打ち消されてしまいます。そこで、半波長の段差を設けることで、この距離差で放射される超音波の正負を補償します(図3)。強力な超音波を目標に集中させるために、パラボラ反射器を用いる場合もあります。
空中での音圧は、騒音など可聴音の測定方法に合わせ、dB(デシベル)で表示することがあります。20dB増えるごとに音圧は10倍になります。可聴音では、静かな室内は約40dB、雑踏は約80dBです。100dBを超えると、かなりうるさく感じられます。空中のパワー超音波応用では、160dB以上の音圧の超音波を用いることもあります。
3. 機械加工・接合などへの応用
全6回で下記の内容を解説しています。
- 第1回 超音波とは
- 第2回 超音波の発生と検出
- 第3回 超音波計測・センシング
- 第4回 圧電超音波センシングデバイス
- 第5回 パワー超音波の性質と応用
- 第6回 超音波アクチュエータ