新しい技術の活用|交通計画の基礎知識6

交通計画の基礎知識
著者:前橋工科大学 工学部 社会環境工学科 教授 森田 哲夫

前回は、高齢社会を迎えた日本における、市民社会の交通計画を紹介しました。今回は、最終回です。交通計画への新しい技術の活用について解説します。GPSなどの新しい技術を交通実態調査に活用することで、交通量や走行速度などの詳細なデータの取得が可能になりました。政府が推進している高度道路交通システムITSは、交通事故や渋滞、環境対策など、さまざまな課題の解決を可能としてきました。また、自動車の自動運転技術の開発には、人工知能AIが導入されています。

第6回「新しい技術の活用」を解説していきます。

基礎知識DL

1. 新しい交通実態調査

交通計画を策定するには、パーソントリップ調査などの交通実態調査を実施し、交通実態を把握する必要があります。情報通信技術(ICT:Information and Communication Technology)の進歩に伴い、さまざまな調査方法が開発され、実用化されています。また、インターネット環境が普及したことで、パーソントリップ調査、国勢調査などの社会調査には、Web調査が導入されるようになってきました。ここでは、プローブ調査、ITSスポットやETC2.0について説明します。

・プローブ調査

プローブには、調査、精査、探測などの意味があります。また、プローブカーとは、タクシーやバス、一般車両にGPSなどの測位計測機能を搭載し、時々刻々の道路交通情報を収集する車両をいいます。これにより、車両がいつ、どこに所在したかといった情報を収集できます。

近年の自動車の走行速度の調査(交通計画では、旅行速度といいます)では、タクシーやバスなどをプローブカーとして設定し、プローブ調査を実施しています。しかし、実走行による調査では、朝の通勤混雑時間帯の混雑方向といった、時間的にも空間的にも限られたデータしか得ることができませんでした。旅行速度は常に変化しています。混雑時間帯のみのデータでは、渋滞が終日発生しているのか、朝の時間帯だけ発生しているのか評価できません。

そこで、自動車メーカーやカーナビメーカーは、カーナビに搭載されたGPS機能を用い、一般車両のプローブ情報を取得し、ドライバーへのリアルタイムな交通情報(民間プローブ情報)を提供しています。

・ITSスポット、ETC2.0

ITSスポットとは、ETC2.0の提供のために道路脇に設置されている通信設備です。国土交通省では、2011年より全国の高速道路、国道、道の駅に、ITSスポットを設置してきました。市販されているETC2.0対応カーナビ搭載の車両がITSスポットを通過することで、車両の緯度・経度、通過時刻、加速度を収集できます。ETC2.0とは、料金収受や渋滞回避、安全運転支援などのサービスに加え、ITSスポットを通して集約される経路情報を活用した次世代型ETCです。2015年の道路交通センサスでは、ETC2.0を活用した旅行速度調査が実施されました。

ETC2.0プローブデータを用い、車両の走行履歴を収集することで、渋滞情報や旅行時間情報を、より精度を増して把握できるようになります(図1)。また、急ブレーキを踏むような現象が多く発生する危険箇所の特定も可能です。このように、ETC2.0プローブデータを用いることで、道路管理者は渋滞箇所や危険箇所の把握、道路改善計画の立案などを行うことができます。

ETC2.0の機能とデータの活用
図1:ETC2.0の機能とデータの活用(参考:国土交通省資料)

2. ITS を活用した交通計画

情報通信技術の進歩は、交通実態調査だけではなく、交通システムを構築するための技術にも活用され、新しい交通計画の方法を生み出しています。ITSとSociety5.0について説明します。

・ITS

ITS(Intelligent Transport Systems:高度道路交通システム)は、人と自動車と道路の間で情報を受発信するシステムです。最先端の情報通信などITS技術を活用することで、道路交通の最適化を図り、交通事故や渋滞を解消し、安全・安心な移動の実現や、シームレスで環境に優しいモビリティ社会の実現が可能になります。日本においてITSサービスが広く普及している例として、カーナビ、VICS(VehicleInformation and Communication System:道路交通情報通信システム)による交通情報提供、ETCによる通行料金自動収受などが挙げられ、道路交通を安全・便利で快適なものとする必須の社会インフラとして広く普及しています。

今後は、情報通信技術を活用した安全運転支援サービスなどの他、V 2 I( Vehicle-to-Roadside Infrastructure:車と道路)、V 2 V(Vehicle-to-Vehicle:車と車)、V2P(Vehicle-to-Pedestrian:車と歩行者)通信を活用した自動運転システムなどへ進化しつつあります。図2に、ITSサービスの展開を示しました。

日本のITSサービスの展開
図2:日本のITSサービスの展開(参考:国土交通省資料)

・Society5.0

Society5.0とは、2016年に内閣府によって閣議決定され、政府が策定した第5期科学技術基本計画の中で提起されている新しい社会概念です。Society5.0は、これまで人間がたどってきた、狩猟社会(Society1.0)、農耕社会(Society2.0)、工業社会(Society3.0)、情報社会(Society4.0)に続く、新しい人間社会の形態です。サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムによって、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会とされています。

Society 5.0の計画では、交通、医療・介護、ものづくりなどの分野ごとに事例が示されています。交通の分野では、各自動車からのセンサ情報と、天気などのリアルタイム情報などのビックデータを収集し、AIによって解析します。これにより、観光スポットや、移動方法、観光に適したホテルやレストランを提案することができるとしています(図3)。

Society 5.0における新たな価値の創造
図3:Society 5.0における新たな価値の創造(引用:内閣府、Society5.0「科学技術イノベーションが拓く新たな社会」説明資料2)

3. 新しい交通技術

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全6回で下記の内容を解説しています。

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