前回は断熱設計の進め方を、具体的な数字を用いながら解説しました。今回は最終回です。断熱設計や断熱施工で見落としがちな点を紹介します。これらを理解できていると、顧客の満足度向上にもつながります。
第7回「断熱の盲点」を解説していきます。
第7回もくじ
1. 実際の住環境を考慮した設計
地域ごとに断熱基準は 8 つに区分されています。しかし、住宅の立地によって温熱環境はさまざまです。断熱基準を満たせばいいというスタンスではなく、それぞれの立地や住む人に合わせた断熱設計が必要です。具体例を 5 つ挙げました。
1:マンションと戸建てで外気の影響は異なる
マンションから戸建て住宅に引っ越した人は、戸建て住宅の方が、寒暖が厳しいと感じるのではないでしょうか。同じ断熱性能であれば、マンションの方が快適です。マンションのほとんどの住戸は他の住戸に上下左右を囲まれ、外気に面しているのはバルコニー側と廊下側の 2 面しかありません。しかも、囲まれた住戸が冬であれば暖房、夏であれば冷房を入れるため、上下左右の四面は外気の影響を受けません。一方、戸建て住宅は 6 面全てが外気にさらされています(図 1)。
2:戸建て住宅の環境で日射量は異なる
2 階建て住宅ばかりの中に 3 階建て住宅が建ったら、3 階部分は太陽の影響をより受けます(図 2)。住宅密集地の住宅は屋根だけしか太陽が当たらず、郊外の点在する住宅は全ての部位に太陽が当たります(図 3)。西日が当たる家には西面の開口部や断熱を重視した設計が必要です。住宅にはさまざまな立地環境があり、その違いを考慮した断熱設計を行う必要があります。
3:地域区分が同じでも気温は異なる
東京都千代田区と大阪府大阪市は地域区分 6 に分類されています。そこから電車でほぼ1時間の兵庫県姫路市と茨城県つくば市は、地域区分 5 です。5 の地域も 6 の地域も、暖房の目安となる外皮熱貫流率の基準値は同じです(日射取得量の基準は違います)。しかし、表 1 を見ると、4 都市の1月の最低気温には大きな違いがあります。つくば市は最低気温が低いので、他の都市より住宅の断熱性能を高めた方がよさそうです。断熱基準を満たした上で、実際の気温を考慮した設計が求められます。
4:仕様規定をベースに、性能基準で考える
1999 年次世代省エネルギー基準(平成 11 年基準)では、トレードオフという仕組みがあり、多くの住宅会社が使っていました。これは、基準値緩和を認めた制度です。具体的には、建物全体で断熱性能が維持できれば、サッシなどの断熱性能を上げる代わりに天井断熱の厚みを半分にすることが認められていました。この仕組みで建てられた住宅は、天井の断熱性能が本来欲しい性能の半分(平成 5 年基準の厚みと同じ)なので、2 階は暑いままという住宅ができました。屋根の断熱性能は大切なのです。
現在の性能基準ルートは、屋根や天井、外壁ごとの基準は設けず、住宅全体としての基準値を示しているに過ぎません。すると、屋根や天井の断熱がおろそかになりやすく、断熱性能を効果的に発揮できない家(高断熱でも夏は暑く冬は寒い家)になりやすいのです。一方、仕様基準ルートでは各部位の断熱材の厚みが示されています。設計時は、仕様規定ルートで示された断熱材の厚みをベースにした上で性能基準ルートのツールをうまく使い、一部の部位だけが過度に薄くならないように断熱材選定をバランス良く行うことが肝要です。
表 2 は、熱抵抗の基準値例です。使用基準ルートの基準値をベースにしているため、屋根と天井の断熱材厚みを多く設定できていることが分かります。
5:住む人のことを考える
暑さが苦手な人が住む家は屋根・天井断熱・開口部の断熱を重視した設計、寒さが苦手な人が住む家は床断熱を重視した設計が求められるでしょう。断熱性能は、基準を満たすためのものではなく、居住者が快適に生活できるためのものです。人に合わせた細かな配慮ができてこそ、真の断熱設計といえます。
2. 断熱の施工不良によるトラブル
全7回で下記の内容を解説しています。
- 第1回 なぜ、断熱が必要なのか
- 第2回 断熱とは?遮熱とは?
- 第3回 住宅における断熱
- 第4回 断熱材の種類と断熱の工法
- 第5回 断熱の基準値と断熱設計の基本
- 第6回 断熱設計の手法
- 第7回 断熱の盲点