撹拌に必要な動力|撹拌の基礎知識3

撹拌の基礎知識

著者:東洋大学 理工学部 応用化学科 名誉教授 川瀬 義矩

前回は、撹拌翼の選定基準を紹介しました。今回は、撹拌所要動力、混合時間、循環流量について解説します。これらは、撹拌槽の設計で使用する重要なパラメータです。

第3回「撹拌に必要な動力」を解説していきます。

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1. 装置に関連するパラメータ

撹拌翼の回転により、剪(せん)断力(気泡、液滴の破壊と分散などに重要)と、吐出流力(循環流の生成を担う)が生じます。作り出される剪断力と吐出流力は、目的に適した性能を発揮するものでなければなりません。このときの、撹拌翼の性能を表すパラメータが、撹拌所要動力、混合時間、循環流量(液循環量)です。

目的に合った最適な撹拌翼の設計や、スケールアップで重要となる混合のパラメータとその無次元数を、表1にまとめました。撹拌に関する重要なパラメータである撹拌所要動力、混合時間などのデータは、これらの無次元数を使って相関されます。

撹拌装置に関連するパラメータとその無次元数
表1:撹拌装置に関連するパラメータとその無次元数

2. 撹拌所要動力:撹拌に必要な動力

撹拌所要動力Pは、撹拌槽内の流体を撹拌するのに使われるエネルギーで、撹拌操作で最も重要なパラメータです。より大きな撹拌所要動力は、より強い撹拌能力を生むと考えられます。このとき、加えられたエネルギーは、有効に使われなければなりません。運転コストの観点から考えると、必要最低限に抑えなければならない値です。また同時に、目的を達成するために、最低必要な撹拌を確保しなければなりません。

その最低必要な撹拌所要動力を求めるには、撹拌速度Nと撹拌所要動力Pの関係を知る必要があります。撹拌翼の種類と邪魔板(バッフル)の設置により、その関係は異なります。図1に、撹拌速度Nと撹拌所要動力Pの関係を表す代表的な線図を示します。

撹拌所要動力の曲線曲線線図(BC:バッフルが設置されている場合、NBC:バッフルが設置されていない場合)
図1:撹拌所要動力の曲線曲線線図(BC:バッフルが設置されている場合、NBC:バッフルが設置されていない場合)

図1の線図は、層流域(Re≤10)と乱流域(Re≥10 4 )に分けられ、以下の関係があります。

層流域:N P =k 1 /Re・・・Re≤10
乱流域:N P =k 2 ・・・Re≥10 4

なお、図1の縦軸は動力数N P そのものではなく、バッフルの影響を考慮するためフルード数(Fr=DN 2 /g)が導入され、φがN P (=P/ρN 3 D 5 )の代わりに使われています。ただし、バッフルが付いている場合、φ=N P であり、グラフの形はN P vs Reの関係を表しています。

撹拌レイノルズ数は流動状態を表す無次元数で、Re=ND 2 ρ/μ(Nは回転数、Dは撹拌翼直径、ρは液密度、μは液粘度)と定義されます。動力数はN P =P/ρN 3 D 5 と定義される動力Pの無次元数です。表2に示すように、層流域と乱流域の式における係数k 1 、k 2 の値は、撹拌翼の形状によって大きく変わります。層流域と乱流域の中間(10<Re<10 4 )は遷移域です。しかし、この領域におけるN P vsReの関係は複雑で相関式はありません。

層流域と乱流域の式における係数k1、k2の値(4枚のバッフル付き:b/T=1/10)
表2:層流域と乱流域の式における係数k1、k2の値(4枚のバッフル付き:b/T=1/10)

図1は対数目盛であることを考えると、撹拌翼の形状によって大きく動力数が変わります。このことから、図1、あるいはさまざまな本に出ている同様の線図は、参考にはなるものの、実際の撹拌所要動力を計算するのには使えないことが分かります。ほとんどの場合、実際に使用する撹拌翼と撹拌槽の形状は、線図を作成したものとは異なるためです。

実際に使用する撹拌装置の撹拌所要動力は、実測するしかありません。撹拌所要動力の測定は、シャフトにトルクメータを取り付けて測るのが正確です。この場合、実験室規模の小さな撹拌装置であれば測定可能です。しかし、実機などの大きな撹拌装置には適用できないため、精度は落ちるものの、消費電力から計算するのが簡便で現実的です。特に、スケールアップにおいて、撹拌所要動力の測定は重要になります。これは、単位(液)体積当たりの撹拌所要動力が等しくなるようにスケールアップするためです。表3に単位(液)体積当たりの撹拌所要動力P v (=P/V:Vは(液)体積)の値の例を示します。実績のない撹拌槽の設計で、運転条件を決める際に参考になる値です。

混合の度合いと単位体積当たりの撹拌所要動力P<sub>v</sub>(バッフル付き撹拌槽)
表3:混合の度合いと単位体積当たりの撹拌所要動力P v (バッフル付き撹拌槽)

表4には、撹拌所要動力Pの典型的な値が利用分野ごとにまとめてあります。

利用分野と典型的な撹拌所要動力の値
表4:利用分野と典型的な撹拌所要動力の値

図2に、2段ラシュトンタービン翼の撹拌所要動力に対する翼間隔sの影響を示します。翼径はDです。液高さが槽径Tより大きい場合や、大きくなくても半回分操作で液高さが変化する場合には、1段の撹拌翼ではなく、多段の撹拌翼にする場合があります。これらの撹拌翼の形は、全て同じとは限りません。特に気液系の場合には、スパージャー近くの最下段の撹拌翼は高剪断翼で、上の段には気泡の上昇速度を抑え、滞留時間を長くするために下方流を作る翼の組み合わせなどが採用されます。その際、翼同士の距離が槽径Tより小さいと、個々の撹拌翼により作られる流動同士が干渉し合うため、各撹拌翼の撹拌所要動力の和より小さくなります。

2段ラシュトンタービン翼の撹拌所要動力に対する翼間隔の影響(s:翼間隔)
図2:2段ラシュトンタービン翼の撹拌所要動力に対する翼間隔の影響(s:翼間隔)

aでは、翼により形成される流動が1段とほぼ同じです。bでは、翼により形成される流動が干渉しあい、cでは、翼により形成される流動が1段ずつ独立していることを表します。動力は1段の2倍になります。

3. 混合時間:完全混合に必要な時間

4. 循環流の強さ:循環流量

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全6回で下記の内容を解説しています。

  • 第1回 撹拌装置の基本構成
  • 第2回 撹拌翼の選定
  • 第3回 撹拌に必要な動力
  • 第4回 撹拌装置の設計
  • 第5回 撹拌装置のスケールアップ
  • 第6回 撹拌操作におけるトラブルと解決法

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