撹拌装置の設計で最も重要なのは、最適な撹拌翼の選定と、運転条件である撹拌速度の決定です。最適な撹拌翼の選定は非常に難しい問題です。類似したプロセスで使われていた撹拌翼を参考にできればよいですが、参考にできるプロセスがない場合、選定は特に困難です。実際のプロセスで使われている撹拌翼の情報は、非常に限られています。実際には、かなり特殊な撹拌翼が使われている場合も多く、それらが選定された理由はほとんど公開されていません。そのため、最適な撹拌装置の設計とスケールアップには、技術者の実力が問われます。本連載では6 回にわたり、技術者に求められる撹拌の基礎知識を紹介します。第1 回は、撹拌装置を取り上げます。
第1回「撹拌装置の基本構成」を解説していきます。
1. 撹拌の目的
撹拌装置は、単にかき混ぜて濃度や温度を均一にするだけではなく、反応を行う反応装置や結晶を生成する晶析装置などとしても広く使われています。図1に、高分子重合、微生物培養、晶析操作に使われる撹拌装置の例を示します。
撹拌の目的には、物質移動、熱移動、反応速度の促進などがあります。そして、撹拌の速度と、物質移動、熱移動、反応のそれぞれの速度との兼ね合いが、撹拌槽の設計を難しくさせます。撹拌翼の回転により作り出される流動や応力が、撹拌槽内の混合や分散を支配することになります(表1)。濃度や温度を均一化する混合には、撹拌翼の回転による吐出流が作り出す循環流が大きな役割を果たします。気泡、液滴、固体粒子を含む系の場合、撹拌翼の回転による剪(せん)断力(場所によって変化する速度の大きさである剪断速度γ =Δv/Δy によって作り出される力τ∝Δv/Δy)も、気泡、液滴、固体粒子の分散にとって重要な要素となります。
2. 撹拌装置の基本構成
図2に、撹拌槽の標準構造を示します。標準構造とは、最適な構造を意味するのではなく、撹拌翼の性能比較の際に基準とする構造という意味合いです。
注意しなければならないのは、撹拌装置の性能は、撹拌翼の種類と撹拌速度だけで決まるのではないことです。バッフル(邪魔板)の取り付け、槽底の形(皿型など。ちなみに、実験室規模の装置では平底がよく使われます。しかし、実際のプロセスで平版が使われることはほとんどありません)、撹拌翼の撹拌槽の底からの距離(クリアランス)など、撹拌翼と槽の全体のデザインで混合特性は決まります。
撹拌槽内において、代表的な撹拌翼である平羽根ディスクタービン翼により生じる混合について説明します。図3 は、撹拌槽内の流動(壁へ向かう放射流と壁あるいはシャフト(撹拌軸)に沿った軸流)を表します。
フラットディスクタービン翼による撹拌槽内の流動パターンは、撹拌翼の回転により放射(半径)方向に流動が起こり、その流れが撹拌槽壁に衝突し上下の循環流(軸流)に変化します。上方流は自由表面に達し、シャフト(撹拌軸)に沿って流下します。一方、下方流は底に達し、底部に沿って流れ、槽の中心付近で上昇流になります。
図4 は、撹拌翼の平羽根近くにおける吐出流力と剪断力を表します。
撹拌翼の回転により、半径方向に強い液の吐出流が起こります。それと同時に、翼近くでは大きな液流動速度変化、つまり剪断速度(速度勾配γ =Δv/Δy)が起こり、剪断応力(τ∝Δv/Δy)が作用します。
バッフルには多くの種類があり、撹拌翼により形成される液流が撹拌翼と供回りするだけの流れを乱すことで、槽内の混合を強化する役割を持ちます。図5 に、バッフルによる流動の乱れと、バッフルがない場合の流動を示します。シャフトを中心とする自由表面に形成されるボルテックス(くぼみ)も、バッフルを挿入することにより消えます。
バッフルと槽壁の接合部分に淀(よど)みができると、微生物の死滅や、高分子重合でのポリマーの付着トラブルが起こるため、槽壁と隙間を空けて取り付ける場合があります。バッフルには、平板ではなく棒状などさまざまな種類があり、挿入の仕方も多様です。
3. さまざまな撹拌方法
一般的に撹拌翼は、撹拌槽の中心軸に垂直に投入します。ただし、傾斜させて投入する場合、側面、あるいは底面から投入する場合もあります。中心撹拌、偏心傾斜撹拌、側面撹拌、底部撹拌、ポンプによる撹拌の5つの撹拌方法について紹介します(図6)。
・中心撹拌
標準的な構成で、槽の中央に上部から垂直に撹拌翼が挿入されます。左右対称の流動が得られます。
・偏心傾斜撹拌
撹拌翼が斜めに挿入されます。バッフルを付けなくてもボルテックスができない操作が可能です。
・側面撹拌
槽下部にプロペラ翼を水平に挿入し、プロペラ翼の軸方向の流れにより大きな循環流を作ります。大容量の低粘度流体の混合に適します。原油貯蔵タンクにおけるスラッジ(汚泥)堆積防止などに利用されます。
・底部撹拌
撹拌翼を槽底部から挿入し、粒子の沈降防止に適しています。主に、変・減速機が大型で撹拌装置の上部に取り付けられない場合や、撹拌シャフトが長くなりすぎる場合などに用いられます。無菌撹拌向けのマグネットによる自己浮遊形翼も底部に設置されます。
・外部循環(ポンプ)による撹拌
ポンプにより流体を外部循環させます。ジェット流として槽内に噴射し、槽内に循環流を作ります。
最近は、配管内に混合を促進するエレメントを入れるだけのラインミキサーの活用が注目されています(図7)。
図の黒と白の矢印は、2 流体が混合されていくプロセスを示しています。湾曲したエレメントにより流れが分割され、それと同時に流体がねじれる形で放射方向に混合されます。そうすることにより、エレメントを通過するごとに混合されていきます。
撹拌がうまくいかないと、撹拌槽内で混合が全く起こらないデッドゾーン(死空間)ができたり、原料が供給されても混合されずすぐ出口から排出されてしまうバイパス(短絡)が起こることがあります(図8)。
・デッドゾーン
混合がなく停滞している部分をいいます。停滞することにより、実質の装置容積が小さくなります。微生物培養している場合は、菌体の死滅が起こることもあります。
・バイパス
供給された原料が十分に混合せずに流出することをいいます。連続操作(原料と製品が連続的に流入し流出する操作)で問題となり、原料の供給場所が大きく影響します。液面ではなく撹拌翼の近くに供給すると原料は一般的に良好に分散します。
不完全な混合があると、高分子重合における重合度や晶析における結晶粒径の分布が大きくなるため、良好な混合を得るための最適な撹拌装置の設計が重要です。
いかがでしたか? 今回は、撹拌装置の基本構成として、撹拌の目的と撹拌装置の構成、撹拌方法の種類を紹介しました。次回は、撹拌翼の選定を取り上げます。お楽しみに!
全6回で下記の内容を解説しています。
- 第1回 撹拌装置の基本構成
- 第2回 撹拌翼の選定
- 第3回 撹拌に必要な動力
- 第4回 撹拌装置の設計
- 第5回 撹拌装置のスケールアップ
- 第6回 撹拌操作におけるトラブルと解決法