前回は、具体的なトラブル事例から、ばねと導通の実務知識を学びました。今回は、部品の固定に板ばねを用いることで、低コスト化を図るテクニック(はめ殺し)を伝授します。ねじは便利で確実に部品を締結できますが、コストパフォーマンスの観点では、最適とはいえない場合があります。例えば、組立や分解に、手間と時間がかかるなどの場合です。その解決手段の一つが、板ばねを活用した部品締結法です。
第6回「板ばねを用いた低コストな固定テクニック」を解説していきます。
1. ねじの代わりに板ばねで固定
取り付けに手間がかかるねじを使わず、一度固定したら取り外しができない「はめ殺し」にする固定手段は、設計の上級テクニックです。おもちゃや家電、AV機器など、グローバルな激戦市場にあり、低コスト化が必須の製品に、急激に使用されて発展した設計テクニックだと当事務所では推測しています。
はめ殺しは、本来、建築用語です。ガラス窓やアルミサッシの固定方法の一つで、その名称から推測できるように、一度施工したらガラス窓を開閉したり、取り除くことが基本的にできない構造です。安全や低コスト化のため、ホテルの窓や、ワンボックスカーや商用車の後部ウィンドウなどがはめ殺しになっている事例がよく見られます。機械設計の分野では、一度固定したら取り外しができない方法で、主にカバー類を固定する時に用いられます。機械設計におけるはめ殺しでは、取り付け後にどうしても外したい場合には、マイナスドライバや専門工具を使用すれば外すことができます。
図1の左を見てください。従来、ねじ4本で固定していたステンレス製のプレートを、はめ殺しの設計テクニックで、ねじを2本に減らし低コスト化を実現した例です。使用目的や用途によっては、ねじを一切使わず、はめ殺しだけで固定している事例も数多く存在します。
この場合のプレートには、当事務所では板厚0.3~0.8mmで、ステンレスなどのばね性のある材料を推奨しています。ばね性に優れていない一般的な鋼板でも、問題はありません。板金の戻り返しの先端エッジが、樹脂素材に一度食い込んでしまえば、プレートは樹脂の土台から簡単には外れなくなります。材料のばね性不足で戻り返し部の角度がへたったとしても、樹脂にエッジが食い込んでいる限り、プレートの抜けにくさは保持されます。
2. 一般鋼板のばね性を利用した固定方法
ねじを一本も使わずに、鋼板のばね性を利用してはめ殺しにした例を紹介しましょう。図2上段は、樹脂フレームの下部に板金ケースを取り付けた例です。樹脂フレームの中には、電子回路の部品が実装されます。樹脂フレームだけでは電波妨害の懸念があるため、鋼板のケースがシールドボックスとして取り付けられています。板金ケースはシールド効果と同時に、薄肉樹脂のフレーム強度を補強する役目も果たしています。
前述の一般的な鋼板として、かつてはSPCCがよく使用されていました。近年では、SPCCに電気亜鉛めっきを施したSECCが代替使用されています(参考:第5回)。この板金は電磁特性に優れるため、電子機器のシールドボックスやフレームに多用されています。
この事例では、樹脂フレームに板金ケースを取り付ける際に、図2中段のように板金をたわませ、樹脂フレームに部品を差し込む必要があります。そのため、設計段階でフレームの高さ(図2中段のH)と幅(同W)、板厚を適切に設計するとともに、鋼板のばね性が必要不可欠となります。ばね用の材料ではなく、一般的な鋼板にばね性があるのかと疑問に思う人もいるかもしれません。しかし一般鋼板の中にも、十分なばね性を発揮するものがあります。ばね材料でない鋼板のばね性を確認するには、表1にある縦弾性係数と、降伏点の値を参考にします。特に降伏点は、後述するばね限界値に相当する、重要な材料特性です。
3. おもちゃの導電部における板ばねの活用例
全6回で下記の内容を解説しています。
- 第1回 ばねの種類と特徴
- 第2回 板ばねの種類と加工方法
- 第3回 ばねトラブルのランキング
- 第4回 ばねの材料と特性
- 第5回 ばねの導通不良と対策
- 第6回 板ばねを用いた低コストな固定テクニック