前回は、環境心理的なひろさ感を紹介しました。今回は、食の空間、キッチンを取り上げます。
第3回「キッチン空間を考えよう」を解説していきます。
第3回もくじ
1. 使い方に応じたキッチンスタイル
キッチンは、専門的にはキッチン・ワークトップと呼ばれます。まさに調理のための作業台です。既製のキッチンは、調理のための基本所作に基づき設計されています。
しかし、注文住宅の場合、クライアントの要望に沿って設計を行います。そのため、各所の寸法取りに留意しなければなりません。まず、ワークトップの高さです。日本産業規格(JIS)では、800・850・900・950mmを基準高として扱っています。平均的な日本人の身長を考慮すると、850mmを標準とし、使う人の身長だけでなく使用感も考慮しながら、800~950mmの域で調整することが一般的です。調整単位は、必ずしも50mm刻みである必要はありません。例えば、筆者の知る事例として、身長169cmの女性クライアントは920mmのワークトップ高を「ちょうどよい」として、毎日使用しています。
ワークトップのスタイルには、最もオーソドックスなI型、L型のほか、U型やアイランド型などさまざまな種類があり、それぞれ使い勝手のよさや特徴があります(図1)。
1人で調理する場合に最も効率がよいのは、冷蔵庫、シンク、コンロが一直線に並んだI型です。冷蔵庫から食材を取り出し、シンクで洗ってまな板で刻み、コンロで煮炊きするという、一連の動作がリニア(直線状)に展開できます。対してアイランド型では、調理時に効率的なリニア挙動はできません。代わりに、2、3人が同時にキッチンに立ち、同時にダイニングカウンターと相対しながら会話できるなど、家族全員による調理と食事のひとときを楽しむことができます。
近年の住宅設計では、特にキッチン空間の充実を求める声が多く聞かれます。これは、共働き世帯の増加や働き方改革などにより、自宅にいる時間を大切にしようと思う現代人の心の表れと考えられます。また、生涯健康でいるためには、毎日の食生活への配慮も重要です。自(おの)ずと料理のレパートリーも増え、さまざまな調理器具の収納についても考える必要があります。
U型キッチンは、一見すると隅(すみ)部が多く、使い勝手が悪いように思われます。しかし、ワークトップ上に広く調理台スペースを確保できます。コーヒーメーカーや電気ケトルなど、日常的によく使う調理家電製品の置き場にも困りません。深い下部収納には、大型のパスタ鍋や中華鍋なども収納できます。そのため、調理器具の多い生活スタイル向きということができ、狭小住宅などではキッチン空間全体の省スペース化にも寄与します(図2)。
2. キッチンの作業動線と空間サイズ
全6回で下記の内容を解説しています。
- 第1回 住居・空間の「ひろさ」について
- 第2回 空間の心理的な「ひろさ感・心地よさ」
- 第3回 キッチン空間を考えよう
- 第4回 空間の明るさについて考えよう
- 第5回 空間の色彩について考えよう
- 第6回 商業空間について考えよう