前回は、騒音・振動の防止設計と、遮音構造の落とし穴になる事例を紹介しました。今回は、室内音場を取り上げます。コンサートホール、テレビスタジオ、教会、会議室、大型スタジアムなど、空間の用途に応じて、残響と反響を設計する必要性とその方法を学びましょう。
第6回「室内音場とは」を解説していきます。
第6回もくじ
1. 室内音場とは
室内音場とは、床・壁・天井などによって閉ざされた室内空間における、音の振る舞いです。特徴的な現象に、残響(Reverberation)と反響(Echo)が挙げられます。
残響とは、室内で音を出した時、その音を止めた後も響きがしばらく残る現象(音のエネルギーが滑らかに減衰)です。コンサートホールで、音楽を潤い豊かに聞くためには、不可欠です。しかし残響が多くなると、一般的に音の明瞭性が悪くなります。そのため、講堂や会議室など、人の会話を聞くことが主途となる室内では、過度な残響は使い勝手を悪くしてしまいます。
反響とは、短い音を出した時に、その音に遅れて、1 つまたは連続した多数の反射音が分離して聞こえる現象です。馴染みのあるところでは、山びこも反響の一種です。室内で、特に反射面が平行している場合には、その間で反射が繰り返され、連続的なエコーが生じます。これをフラッターエコーといいます。天井に荘厳な竜の絵が描かれた日光東照宮の薬師堂では、絵の真下で手をたたくと起こるフラッターエコーを鳴き竜と称し、名所となっています。しかしホールや会議室、教会など、音響特性が重視される室内では、音響障害となるため、極力防ぐ必要があります。
2. 吸音と室内音場
室内の残響の長さを表す指標として、残響時間(Reverberation Time)があります。残響時間とは、音の響きの長さを示す量のことです(図1)。室内音場として拡散音場(音のエネルギー密度がほぼ均一で、かつエネルギーの流れが等方的な音場)を仮定した時に、室内で音源から音を出し、音のエネルギー密度が定常状態になった後に音源を停止させ、エネルギー密度が1/10 6 (100 万分の1、-60dB)に減衰するまでの時間です。拡散音場の仮定に基づけば、残響時間は吸音材の配置、音源点・受音点の位置によらず、一定になります。実際には、音場の拡散の程度によって、多少変化します。
残響時間を示す式はいくつかあります。ここでは、アメリカの物理学者ウォーレス・クレメント・セイビン(以下Sabine)の残響式を図2 に示します。
このSabine の残響式には、2 つのポイントがあります。1 つ目のポイントに、室内空間の室容積が大きいと、必然的に残響時間は長くなることが挙げられます。第2 に、平均吸音率と室内空間の総表面積を乗法した等価吸音面積(吸音力)が大きいと、残響時間は短くなることです。つまり残響時間を短くするためには、第1 に室内空間の室容積を小さくし、第2 に吸音率の大きい材料を床・壁・天井などの表面に多く配置することが必要となります。
残響時間は、室内空間の過渡特性(入力の変化に対して、出力が追従する特性)を表す基本的な指標であると同時に、室内の響きや余韻の程度など、聴感的印象を表す指標としても広く使われます。残響時間の最適値は、室の用途、規模によって異なります。複数の建築音響研究者により、コンサートホール、教会、会議室などの各用途別に、最適な残響時間が提案されています(図3)。
また残響時間にも周波数特性があり、なるべく平坦(へいたん)になることが望ましいとされています。一般的に、低音域でやや長め、高音域で短めとなる傾向があります。
残響時間を用いた室内音場の検討は、コンサートホールや会議室、教会など音響特性が重視される室内だけでなく、教室、体育館、食堂、宴会場など、より日常的な空間でも実施した方がよいでしょう。室内の吸音処理を考慮することにより、適切な室内音場の空間を構築できるからです。
3. 室内音場の問題が起きやすい3 事例
全7回で下記の内容を解説しています。
- 第1回 音とは?防音とは?
- 第2回 吸音の仕組みと吸音材料
- 第3回 遮音の仕組みと遮音材料
- 第4回 防振の仕組みと防振材料
- 第5回 騒音・振動の防止設計
- 第6回 室内音場とは
- 第7回 音響測定の方法