前回は、焼結のメカニズムを説明しました。今回は、拡散について解説します。一般的な金属やセラミックスでは、原子やイオンがない穴(空孔)が移動することで拡散が起きます。また、拡散は、拡散が起きる場所によって分類されます。例えば、結晶内部で起きる拡散を体積拡散、結晶粒界で起きる拡散を粒界拡散といいます。温度が上昇すると、空孔の数が増えるので拡散速度は上昇します。セラミックスの拡散は雰囲気にも影響され、例えば酸化物セラミックスでは酸素分圧が影響します。
第5回「拡散のメカニズム」を解説していきます。
1. 拡散のメカニズム
焼結における拡散とは、原子やイオンがない穴(空孔)が移動することで起きる現象です。図1は拡散の模式図で、左から右に向かって空孔が移動しています。最初と最後の図を比較すると、空孔が左から右に移動しています。原子やイオンが右から左に移動するのと同じ結果です。実際には、原子やイオンはランダムに動いており、左から右側に拡散しているように動いています。
拡散のしやすさには原子の動きやすさだけでなく、空孔の量が関係します。原子やイオンが密に詰まっていない物質では、原子同士の隙間(格子間サイト)に原子が入り込み、この原子(格子間原子)が拡散を起こす場合もあります。空孔や格子間原子は点欠陥と呼ばれます。点欠陥は温度の上昇に伴って急激に増加し、点欠陥の量は材料によって異なります。一般的に融点が高い材料は原子やイオンの間の結合が強く、欠陥が生成しにくい傾向があります。そのため、高融点材料の焼結では、高温になるまで加熱する必要があります。
物質の拡散に適用できる基本法則にフィックの法則というものがあり、拡散を数学的に表す際によく使用されます。フィックの第1法則は、拡散による濃度が時間に関して変わらない時、拡散流束は濃度勾配に比例するという法則であり、下記の式になります。Jiは物質iの拡散量を示す流束(単位時間当たり単位面積当たりに流れる物質の量)、Ciは物質の濃度(単位体積当たりの物質量)です。dCi/dxは、場所が変わったときにどのくらい濃度が変わるのかを示し、濃度勾配と呼ばれています。Diは、その物質の拡散しやすさを表し、物質iの拡散係数といいます。
物質の流束を、濃度の代わりに化学ポテンシャルという物質の持つ化学的エネルギーで表すと次式が導かれます。μiは物質iの化学ポテンシャル、Rはガス定数、Tは絶対温度です。この式で、点欠陥の拡散を考えます。点欠陥の拡散では、点欠陥の濃度が重要であることが分かります。ある物質の空孔が拡散するとき、その拡散方向と逆向きに物質が拡散します。従って、物質の拡散では空孔の濃度が重要になるのです。
拡散係数Diは温度の関数として、下記の式で表されます。Qは活性化エネルギーです。logDiとTの逆数が、負の傾きで比例することが分かります。
2. 拡散の分類
拡散は拡散が起きる場所により、体積拡散、粒界拡散、表面拡散、界面拡散の4つに分類できます(図2)。体積拡散はバルク拡散や格子拡散とも呼ばれ、結晶内で拡散が起こります。粒界拡散は結晶間の粒界で、表面拡散は物質の表面で、界面拡散は異なった物質の間の界面で、それぞれ拡散が起こります。
粒界拡散、界面拡散、表面拡散は面で拡散が起きます。このとき、透過断面積が少ないので、拡散する原子やイオンの総量はあまり多くありません。粒界、界面、表面は、結晶の並び方が乱れているので、拡散が起きやすい場所です。これらの経路は高速拡散経路と呼ばれています。温度を上げても、結晶内部のように点欠陥が大きく増えません。体積拡散と比較して、粒界拡散や表面拡散は、拡散の大きさの温度依存性が低くなります。図3は、体積拡散、粒界拡散、表面拡散の温度依存性を表したグラフです。粉末粒子が非常に細かくなると、表面や粒界の粒子は相対的に増えます。ナノ粉末を利用して焼結を行う場合、表面拡散や粒界拡散の影響は大きくなり、低温でも焼結しやすくなります。
3. セラミックスの拡散
全7回で下記の内容を解説しています。
- 第1回 焼結とは
- 第2回 焼結に用いる粉末
- 第3回 成形工程
- 第4回 焼結のメカニズム
- 第5回 拡散のメカニズム
- 第6回 焼結方法の分類
- 第7回 焼結体の評価