前回は、半導体集積回路の基礎を解説しました。近年では脱炭素社会に向けた再生可能エネルギーとして、太陽光を利用した発電(光電変換)や、廃熱を利用した発電(熱電変換)がますます重要になっています。あわせて、効率的な節電を実現するネガワットに向けたパワーエレクトロニクスも日々進化しています。最終回となる今回は、こうした社会インフラを支えるさまざまなデバイスへの、半導体の応用について紹介します。
第6回「社会を支えるさまざまな半導体の応用」を解説していきます。
1. 光を電気に変える太陽光発電デバイスへの応用
太陽光発電とは、シリコン(Si)半導体などに光が当たると電気が発生する現象を利用し、太陽の光エネルギーを太陽電池(半導体素子)により直接電気に変換する発電方法です。シリコン太陽電池は、1954年にアメリカのベル研究所のダリル・シャピン、カルビン・フーラー、ゲラルド・ピアソンの3名により発明され、エネルギー変換効率が6%の太陽電池として試作されました。太陽電池は、乾電池や蓄電池と異なり、電気を蓄積する機能を持たないため、それまでは光起電力電池と呼ばれていました。しかし、後に実用的なデバイスとして太陽電池(SolarCell)と表現されるようになりました。現在、Si太陽電池の最高効率は24%を達成しています。
太陽電池の基本構造は、第2回で解説したpn接合です。Si太陽電池に太陽光が照射されると、Siのバンドギャップ以上のフォトンが吸収され、Si内部に電子とホール(正孔)が多量に生成されます。そして、電子がn型側に、ホールがp型側に流れることにより、光電流が発生します。太陽電池の2端子間に負荷抵抗を接続すれば、両端に電圧が発生することになります。太陽電池はダイオードなので、光を照射しない暗状態では、通常のダイオードの電流―電圧(I-V)特性を示します(図1)。ここに光を照射すると、光による生成電流が逆方向に流れます。
この図では、ダイオードに流れる順電流方向と光電流の向きを逆にとっています。光を照射しているときに、短絡状態で流れる電流を短絡電流(I SC )、開放状態で発生する電圧を開放電圧(V OC )と呼びます。エネルギーの変換効率は、これらの積(I SC ・V OC )に曲線因子(FF)を掛けた数値と、入射エネルギーの比で表されます。単結晶シリコン太陽電池の最も理想的な変換効率は、32.9%と計算されています。
太陽電池の効率を向上させるためには、太陽光のスペクトルに合わせて吸収係数が大きく、光励起された電子―正孔対が半導体中で失われることなく外部に引き出されることが必要です。このような高効率を達成するために、太陽電池に用いる半導体にはSi系の他に、化合物系のものがあります。化合物系には、III-V族半導体のガリウムヒ素(GaAs)やII-VI族のテルル化カドミウム(CdTe)、I-III-VI族カルコパイライト半導体のCIS:CuInSe 2 などがあります(図2)。
図3は、太陽光スペクトルと、代表的な太陽電池に用いる半導体材料の吸収スペクトルを示しています。
太陽光発電は、発電機を必要とする風力発電や水力発電に対して、光から直接発電できることが魅力です。再生可能エネルギーの需要が高まっている中、高効率で安価な太陽光発電半導体の開発と普及はますます重要視されています。
2. 熱を電気に変える熱電変換デバイスへの応用
一般に、熱エネルギーと電気エネルギーをお互いに変換する作用を熱電効果と呼んでいます。特に、熱エネルギーを直接電気エネルギーに変換するのがゼーベック効果です。物質の両端に温度差があれば、その温度差に比例して直接電圧に変換されます。この比例係数がゼーベック係数Sです。1821年、エストニアの物理学者トーマス・ゼーベックが、金属棒に温度勾配があるとその両端に電圧が発生することを偶然発見したことから、そう呼ばれています。実用的な観点からは、熱電材料としては金属よりも半導体が有望です。
1977年に打ち上げられた宇宙探査機ボイジャー2号の原子力電池には、半導体の熱電変換が採用されています。n型半導体では、高温であるほど高エネルギーの電子が増加し、高温側の電子の分布は、低温側と比べて高エネルギー側に偏ります。高エネルギーの電子は、温度差によって高温側から低温側に移動し、電流が生じることになります。p型半導体では、電子がホールの分布になり、ホールが移動することで電流が生じます。図4は、p型半導体とn型半導体を組み合わせた、熱電変換素子の模式図です。熱電変換素子では、高温側を共通にして低温側にキャリアが移動します。低温側で負荷をつなぐことで電流が流れます。
熱電材料としては、さまざまな種類のものが開発されています。図5は、各種熱電材料の開発の経緯を示します。熱電材料の性能はゼーベック係数Sだけでなく、材料特有の電気伝導度σ(sigma)や熱伝導率κ(kappa)に依存するために、それらを組み合わせたZ(=S 2 σ/κ)で表されます。また、熱電材料の性能は使用する温度Tにも依存するため、無次元の性能指数ZTが用いられます。
半導体の中で、シリコンゲルマニウム(SiGe)や鉄シリサイド(β-FeSi 2 )は、1,200Kの高温で熱電材料として使用でき、その性能指数は、SiGeでZT=0.6(1,000K)、β-FeSi 2 ではZT=0.2程度です。単独の半導体材料では、その半導体に固有な物性値によってゼーベック係数Sが決まってしまいます。そこで、さまざま半導体を組み合わせて人為的に原子配列を制御する超格子構造や、量子井戸(QW)構造を作製することによって、単独の半導体では達成できない性能向上が研究されています。超格子構造と量子井戸構造は、異なる2種類の半導体超薄膜を積層したヘテロ構造です。その結果、電子やホールがナノメートルオーダーで閉じ込められて量子効果が発現されます。電子、正孔が非常に狭い領域に閉じ込められている場合と、いない場合では、異なる性質を示す可能性があり、それが性質向上に影響しています。
SiGeとSiを組み合わせた超格子構造では、ZT=3以上の大きな性能指数が報告されています。熱電発電は、核燃料廃棄物などの排熱や、自動車の排熱などを利用した発電の可能性など幅広い有効利用が考えられることから、ますます期待される発電方法です。
3. 大電力トランジスタへの応用
全6回で下記の内容を解説しています。
- 第1回 半導体とは
- 第2回 n型半導体とp型半導体
- 第3回 エレクトロニクスを支える電子デバイス
- 第4回 フォトニクスを支える光デバイス
- 第5回 半導体集積回路
- 第6回 社会を支えるさまざまな半導体の応用