前回は、トランジスタについて解説しました。今回は、半導体の光デバイスへの応用を説明します。交通分野では、信号機用の光源として三色の発光ダイオードが使われています。太陽の逆光時の視認性も従来の白熱電球と比較して大きく改善され、光源の寿命も格段に延びました。また、照明分野では水銀を使った蛍光灯が、白色発光ダイオードに置き換えられています。さらに、インターネット光通信システムの光源には、光波長1.55μmの半導体レーザが使われています。これらの社会インフラを支える光半導体デバイスの実現には、日本の研究者が深くかかわっています。
第4回「フォトニクスを支える光デバイス」を解説していきます。
1. 発光ダイオード
発光ダイオードはLED(Light Emitting Diode)と呼ばれる半導体です。半導体の重要な性質の1 つとして、光の吸収や放出があります。しかし、全ての半導体が光るわけではありません。例えば、シリコンSi は発光しにくい半導体の代表例です。前回示した半導体のバンド構造を詳しく見ていくと、直接遷移型半導体と間接遷移型半導体に分類されます(図1)。半導体中の電子は、波の性質を示す波数k(波長の逆数)とエネルギーEによって区別されます。横軸を電子の波数k、縦軸を電子のエネルギーEとしたバンド構造を示します。
直接遷移型半導体は、価電子帯の上端と伝導帯の底が同じ波数の位置にあります。伝導帯の底の電子は、価電子帯の上端のホールと運動量(= 波数X プランク定数)のやり取りなく再結合することができ、バンドギャップに相当する光(フォトン)を放出することができます。発光ダイオードに用いられる半導体は、直接遷移型半導体になります。
間接遷移型半導体では、価電子帯の上端と伝導帯の底が異なる波数位置にあるため、励起された電子はフォノン吸収を介して伝導帯の底に遷移することになります。そのため、直接再結合をする確率が低くなることで、発光が非常に弱くなります。
半導体は、バンドギャップの大きさによって赤外領域から紫外領域までさまざまな光を吸収し、電子がホールと再結合することで発光します。発光ダイオードは、p 型半導体とn 型半導体を組み合わせたpn 接合の構造で作られています。順方向に電圧をかけたpn 接合では、負電極から電子が伝導帯に注入され、正電極からホールが価電子帯に注入されます。電子とホールはpn 接合部分の禁制帯領域で再結合し、バンドギャップに相当するエネルギーの波長で発光します。不純物準位が関与する発光として間接遷移型のリン化ガリウムGaP があり、窒素N をドーピングすることで発光するようになります。これは、等電子トラップによる発光として準直接遷移型に分類されています。
発光色は、半導体材料により変化します。図2は、可視光の発光ダイオードに用いられている化合物半導体と発光波長の関係を示したものです。
赤色の発光ダイオードは、ガリウムヒ素リンGaAsP のpn 接合構造で、アメリカの電気工学者・材料化学者であるニック・ホロニアックによって1962 年に発明されました。ホロニアックは、発光ダイオードはエジソンが発明した白熱電球を置き換えるだろうと予言しています。実現が非常に困難だと考えられていた青色発光ダイオードは、窒化ガリウムGaN を用いることによって、紫外域から緑色にわたる短波長領域の光源として実用化されました。日本の半導体工学者である、赤﨑勇、天野浩、中村修二の3 名は、この功績で2014 年にノーベル物理学賞を受賞しています。
白熱電球の置き換えには、光の三原色の混合などを利用したLED 照明が開発されています。青や紫外の発光ダイオードから放出される光を蛍光体に当てると、さまざまな色の蛍光を作り出すことができます。白色LED は、これらの蛍光を混ぜ合わせることで疑似的な白色光を作り出し、実用化されています。図3 は、発光ダイオードの基本的な構造と、白色を含む発光ダイオードを示したものです。LED は照明だけでなく信号機や大型ビジョン、車のヘッドライト、野菜工場の光源など幅広く応用されています。
2. 半導体レーザ
半導体レーザ(レーザダイオード:LD)の発光原理は、基本的にLEDと同じです。まず、レーザ発振(光の増幅作用)の原理について簡単に説明します。原子や分子は、基底状態と呼ばれるエネルギーの安定した状態を好みます。それが、外部から刺激を受けると励起状態になり、元の安定した基底状態に戻ろうとします。この時に光を放出します。この現象が自然放出です。
しかし、これは瞬間的な発光だけであり、光の増幅作用にはなりません。外部からエネルギーを加えて、高いエネルギー状態で電子をたまりやすくすることを反転分布と呼んでいます。反転分布した状態の原子や分子に種となる光が当たると、誘導されて発光します。これを誘導放出と呼びます。その発光が、さらに発光を誘導してますます光の強度が大きくなり、レーザ発振を起こします。
このように、誘導放出している物質を光の共振器に入れて、効率的に光増幅を行います。半導体レーザは、レーザ発振を起こすための光共振器を、半導体材料で構成したものです。図4 に、半導体レーザの模式図を示します。図の黒丸は電子、白丸はホールを表し、活性領域で再結合を起こし誘導放出を生じます。結晶のへき開面で共振器を作っています。
半導体レーザでは、pn 接合に真正半導体層(i 層)を挟んだダブルヘテロ(DH)接合構造をつくり、その活性層で種となる自然放出光の発生と誘導放出による光の増幅を行います。このような接合をpin 接合と呼んでいます。例えば、ガリウムヒ素GaAs とヒ化アルミニウムガリウムAlGaAs でpin 接合構造を作り順方向バイアスすると、自然発光が起こります。さらに注入キャリアを増加させると反転部分布が発生し、伝導帯から価電子帯への誘導放出が生じます。結晶端面を反射器として共振器(ファーブリペロー共振器)を形成すれば、コヒーレントな光、すなわちレーザ発振が起こります。このとき、レーザ発振を連続的にするために大電流を流すと、発熱効果のために構造が破壊されてしまいます。レーザ発振を起こすためには、しきい値電流(レーザ発振が始まる電流)を下げる必要があります。DH 接合構造では、ヘテロ接合のポテンシャル障壁によってキャリアの閉じ込めができることから、しきい値電流を下げることが可能になりました。
より高効率な半導体レーザの作製には、結晶成長の方法(第1 回、3 章)で説明した分子線エピタキシー法(MBE)を用いる量子井戸レーザがあります。DH レーザのレーザ発振領域(活性層)の厚さを数10nm まで狭くした量子井戸構造を作製し、より効果的にキャリアを閉じ込めてレーザ発振させるものです。量子井戸を重ねて作製したものは、多重量子井戸構造(MQW)レーザと呼ばれています。
一方、結晶端面を用いずに、基板結晶と垂直方向に光を取り出せる構造にしたものが面発光レーザです。このような面発光レーザは、光集積回路への応用が期待されています。光通信用半導体レーザの開発やその応用には、日本の多くの研究者(例えば末松安晴、伊賀健一、林厳雄)が大きな貢献をしています。
3. フォトダイオード
全6回で下記の内容を解説しています。
- 第1回 半導体とは
- 第2回 n型半導体とp型半導体
- 第3回 エレクトロニクスを支える電子デバイス
- 第4回 フォトニクスを支える光デバイス
- 第5回 半導体集積回路
- 第6回 社会を支えるさまざまな半導体の応用