前回は、n 型半導体とp 型半導体を説明しました。今回は、電子回路の信号処理に欠かせないトランジスタについて解説します。トランジスタの発明によって、その応用範囲は真空管を大きく超えて広がっていき、ついには1 つのチップに数億個のトランジスタが集積されるまでになりました。また、近年では情報通信の高度化に伴う電波の周波数資源の開拓に、高周波トランジスタの存在が必要不可欠となっています。
第3回「エレクトロニクスを支える電子デバイス」を解説していきます。
第3回もくじ
1. トランジスタの発明
1904 年、イギリスの物理学者、ジョン・フレミングによって2 極真空管が発明されました。2 極真空管は、カソード電極とアノード電極から構成され、無線通信機の検波器(ダイオード)として用いられました。その後、アメリカの発明家、リー・ド・フォレストが、増幅・検波・整流作用を行うグリッド電極を組み込んだ3 極真空管(トライオード)を発明します(図1)。この3極真空管は、信号処理を行うアンプやラジオなど、電子回路にとって不可欠な部品となったものの、寿命が短く、消費電力が大きいといった欠点がありました。こうした課題を克服するため、半導体を用いた固体デバイスを創り出す研究が始まります。
真空管と同じ機能を持つ半導体デバイスのアイデアは、1925 年、ドイツの物理学者、ユリウス・エドガー・リリエンフェルトによって提唱されています。それは、半導体の表面に電場をかけることで半導体内部の電荷濃度に変化を起こし、電気伝導を変化させるという、電界効果型の固体増幅素子の提案でした。しかし、残念ながらその後の研究に結びつくような内容ではありませんでした。後の1936 年、アメリカのベル電話研究所(通称・ベル研)では、マービン・ケリー(後にベル研の所長となり、トランジスタの父と呼ばれます)が真空管に代わる新しい半導体デバイスの増幅器を夢見て、ショクレーを初めとする科学者をスカウトし、研究所内に半導体グループの体制を整えます。ここから、ゲルマニウムとシリコンを用いた固体増幅素子の実現への挑戦が始まりました。
ジョン・バーディン、ウォルター・ブラッテン、ウィリアム・ショクレーの3 人は、金属電極と半導体の間の空間に発生する電界によって半導体表面近傍の電気伝導度を変化させる、電界効果型の半導体素子の実現に向けて研究を進めたものの、うまくいきませんでした。そこでバーディンは、半導体表面に存在する電子のトラップ準位の存在を仮定し、このような表面の欠陥により入力電位の変化が半導体内部に伝わりにくくなると考えました。そして1947 年、バーディンとブラッテンは、酸化したゲルマニウム表面に金のリング状電極を付けたサンプルを調べていたとき、偶然にその酸化膜を壊してしまいます。それでもなお実験を続けたことで、予想もしなかった実験結果を見いだしました。これが、「点接触型トランジスタ」として知られているものです(図2)。このように、研究に没頭しているときにたまたま起こる出来事で、意図せず重大な新発見をすることをセレンディピティと呼び、点接触型トランジスタの発明はその代表例といえます。
これとは別に、ショクレーは「接合型トランジスタ」の提案をします。これは、不純物濃度の少ないn 型半導体の領域を、2 つのp 型半導体の領域でサンドウィッチ状に挟む構造を作れば増幅作用が現れる、という理論的な予想でした。その後、高純度のゲルマニウム結晶の生成が可能になったことから接合型トランジスタが作られ、その動作が実証されました。この業績によって、ショクレー、バーディン、ブラッテンは、1956 年にノーベル物理学賞を受賞します。ちなみに「トランジスタ」の名前は、同僚のピアースが提案し研究所内の投票で決められました。
世界最初のトランジスタやその後の集積回路は、ゲルマニウムで作られています。これは、ゲルマニウムの結晶が入手しやすく加工が容易であること、電子やホールの移動度が大きかったことによります。しかし、ゲルマニウムのバンドギャップは0.67eV と、シリコンの1.1eV に比べて小さいことから、温度に弱いという難点がありました。従って、温度の上昇に伴いトランジスタの性能が低下してしまいます。その後、結晶成長技術の進展により、また工業的な大量生産の観点からも、半導体材料はゲルマニウムからシリコンに移っていきます。そして「トランジスタの発明」は、従来の真空管からの置き換えだけではなく、さらに重要な「集積回路」へと発展していきます。
2. 電界効果トランジスタ
前回、電流の担い手(キャリア)には、電子とホールの2 種類があることを述べました。「電界効果トランジスタ(FET)」は、このうちどちらか1 種類のキャリアを用いるユニポーラトランジスタに分類されます。半導体表面に縦方向から電界を印加して、半導体表面を横方向に流れるキャリアを制御する方式から、その呼び名があります。FET には、さまざまな種類があります。シリコン(Si)集積回路では、MOS トランジスタが使われます。一方、高周波を扱う化合物半導体では、MESFETやHEMT(後述)といったトランジスタが使われています。FET の動作原理は、前述したショクレーによって提案され、さまざまなトランジスタ解析の基礎となっています。ここでは、電子をキャリアとする「n チャネル接合型電界効果トランジスタ」を例に、その動作原理を説明します。
FETの構造は、n型半導体をp型半導体で挟んだサンドイッチ構造になっています(図3)。FET では、電子が流入するソース電極と電子が流出するドレイン電極が付けられ、中央の両側に電子の流れを制御するゲート電極があります。ゲート電極直下のpn 接合に負の電圧を加えると空乏層が広がり、電子が流れる空間が狭くなることが分かります。このようにして、ゲート電極はゲート電圧を変化させることで電子の流れを制御します。電流は、電子とは逆にドレインからソース電極に向かって流れます。電界効果トランジスタの性能は、微小なゲート電圧の変化に対するドレイン電流(ドレインからソース電極に向かって流れる電流)の変化分で表され、「相互コンダクタンス(gm)」と呼ばれます。優れたトランジスタほどこのgm が大きくなります。
Si 集積回路で使われるMOS トランジスタには、電子が伝導に寄与するn チャネルと、ホール(正孔)が伝導に寄与するp チャネルがあります。チャネルとは、電子やホールが流れる通路を意味しています。MOS とはMetal・Oxide・Semiconductor(金属・酸化膜・半導体)の頭文字で、このMOS 構造がゲート電極に使われます。金属と半導体の間に電圧を加えると、空乏層を発生させることができます。さらにゲート電圧を大 きくすると、Si 半導体表面のフェルミ準位が伝導帯側に動いて、酸化膜とSi 界面に反転層が形成され、伝導電子が現れます。この伝導電子の流れを制御することで、スイッチング素子として用いられます。
一方、高周波トランジスタとしては、ガリウムヒ素(GaAs)などの化合物半導体が用いられます。GaAs では、Si に対する二酸化ケイ素(SiO2)のような良質なゲート酸化膜がないことから、ゲート電極に金属を用いた「金属半導体電界効果トランジスタ(MESFET:MetalSemiconductor FET)」が用いられます。また、MOS 構造の代わりに、バンドギャップの異なる半導体であるヒ化アルミニウムガリウム(AlGaAs)とGaAs のヘテロ接合を用いた「高電子移動度トランジスタ(HEMT:High Electron Mobility Transistor)」があります。HEMT は、ヘテロ接合界面に生ずる2 次元電子ガスを制御する構造を持ち、その優れた低雑音性能から衛星放送の受信機などに使われています。
3. バイポーラトランジスタ
全6回で下記の内容を解説しています。
- 第1回 半導体とは
- 第2回 n型半導体とp型半導体
- 第3回 エレクトロニクスを支える電子デバイス
- 第4回 フォトニクスを支える光デバイス
- 第5回 半導体集積回路
- 第6回 社会を支えるさまざまな半導体の応用