免震層の設計方法|免震の基礎知識4

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2025.01.29

基礎知識

免震層の設計方法|免震の基礎知識4

免震の基礎知識

 
著者:福岡大学 建築学部 教授 高山 峯夫

前回は、包絡解析法により、免震装置の性能と免震建物の地震時の挙動の関係を説明しました。今回は、免震層の設計について解説します。免震建物の免震性能は、建物の上部構造はあまり関係なく、免震層の性能に大きく左右されます。免震層の性能は、アイソレータとダンパーの組み合わせで決まります。つまり、アイソレータとダンパーを適切に設計し、組み合わせることができれば、建築物は適切な免震性能を持ちます。

第4回「免震層の設計方法」を解説していきます。

 

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1. 免震層の設計手順

免震建物では、免震層であるアイソレータ・ダンパーの性能によって、地震時の応答が決まります。そのため、設計者が適切に免震建物の性能を設定し、その性能が得られるようにアイソレータ(積層ゴム)の配置やサイズ、個数などを設計することで、必要な免震性能を得ることができます。免震層の設計手順を図 1 に示します。具体的な進め方を見ていきましょう。

免震層の設計手順
図1:免震層の設計手順

1:免震周期と変位の目標値を設定
想定される地震動から、必要な免震性能(ベースシア係数や最大変形量)を設定します。その際、包絡解析法などで免震周期Tfや変位の目標値(設計変位)δdsgn を計算します。免震建物が何に使われるのか、地盤はどうかなどを考慮し、必要十分な免震性能を設定します。

2:積層ゴムの材質・形状を決定
積層ゴムの材質や形状を決定します。考慮すべき代表的なパラメータは、2 次形状係数 Sとゴムのせん断弾性率 G です。2 次形状係数 Sは積層ゴムの座屈性能に影響するパラメータで、ゴム直径 D/ ゴム層厚で計算できます。5 程度あれば、座屈(圧縮したときにある荷重から急激にたわむ現象)が起こりにくくなります。ゴムのせん断弾性率 G は座屈応力度や積層ゴムの水平剛性に関連します。柱軸力(積層ゴムの鉛直方向に働く力)により形状や材質を変化させる必要がある場合、2 次形状係数 Sとゴムのせん断弾性率 G を考慮する必要があります。

積層ゴムの最小径 Dmin も決めます。積層ゴムの直径 D は、D/δdsgn=S/γの式が成り立ちます。γはせん断変形率で、250% 以下であれば積層ゴムが線形範囲内にあると考えられます。2 次形状係数 Sを 5 に設定すると、Dmin≧2δdsgnとなり、積層ゴムの変位δは直径 D の 1/2 程度となるように設計する必要があることが分かります。

3:平面計画の検討
平面計画とは、平面図を用いて建物の形状や各部屋の配置などを検討することです。平面計画の検討で大切なパラメータは、建物の平均面圧σave(全体の力を接触面積で割った値)です。平均面厚は下記の式で表され、最初に設定した免震周期 Tf を満たす必要があります。g は重力加速度です。

4:積層ゴムの設計
積層ゴムの直径 D を設定します。積層ゴムの直径 D は最小径 Dmin 以上とします。設定した直径 D から積層ゴムの面圧σを算出し、面圧σを考慮しながら 2 次形状係数 Sとせん断弾性率 G を決定します。

その後、個々の積層ゴムの水平剛性 KH を算出し、免震層全体の水平剛性ΣKH を求めます。中心孔径が小さい場合、積層ゴムの水平剛性KH0=(π/4)×D×S×G で略算できます。

5:設計値と目標値を比較
免震層全体の水平剛性ΣKH を用いると、設計時の免震周期 Tf0 を計算できます。

W は建物の全重量です。設計の免震周期 Tf0 と目標の免震周期 Tf を比較し、値が離れている場合は再設計を行います。

6:ゴム厚とゴム層数の決定
積層ゴムの 1 次形状係数 Sを用いて、積層ゴムのゴム厚 tR とゴム層数n を決定します。1 次形状係数 S= ゴムの拘束面積(受圧面積)/ ゴム1 層の自由表面積(側面積)で計算され、S≧3σ/(G×S) を満たす必要があります。積層ゴムメーカーのカタログに 1 次形状係数 Sの値が載っているため、設計仕様を満たす製品を選択します。

7:ダンパーの設計
アイソレータ(積層ゴム)の他にダンパーを設置する場合、ダンパーの設計が必要です。免震建物の性能に必要な減衰量を求め、必要な性能・個数のダンパーを配置します。

8:免震部材回りの設計
免震部材の周囲にある基礎構造や柱は、水平方向のせん断力が働くため、軸力とせん断力を適切に伝達できるようにしなければなりません。また、アイソレータには、偏心による曲げモーメント M が加わるため、躯体(くたい)側に曲げ剛性を持たせてアイソレータに重大な曲げ変形が生じないようにします。偏心曲げモーメントは M=Q×H+P×δ/2で計算できます。Q は積層ゴムのせん断力、H は積層ゴム中心からの高さ、P は柱軸力、δは水平方向の変形量です。

9:免震部材の配置・調整
積層ゴム(アイソレータ)の設置は柱下に 1 体の設置が基本です。柱軸力が大きい場合や、積層ゴムの直径が大きくなりすぎる場合は、アイソレータを 2 体以上設置することもあります。また、免震層の剛心と上部建物の重心が一致するようにダンパーを配置し、免震層がよじれないようにします。

以上で免震層の設計は完了です。積層ゴムを利用する際には、性能評価や品質管理の観点から、サイズや形状を統一することが好ましいです。しかし実際には、それぞれの積層ゴムが受ける軸荷重は等しくありません。そのため、軸荷重を多く受ける積層ゴムは性能を良くする必要があり、材質や 2 次形状係数を変える必要があるでしょう。

2. 免震設計の例題

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全6回で下記の内容を解説しています。

  • 第1回 免震構造とは
  • 第2回 免震構造と耐震構造の違い
  • 第3回 包絡解析法による免震層の評価
  • 第4回 免震層の設計方法
  • 第5回 免震効果の調査
  • 第6回 免震のメリットと展望

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