河川堤防のあたらしい技術|河川堤防の基礎知識6

河川堤防の基礎知識

著者:芝浦工業大学 名誉教授 守田 優

前回は、堤防と水防活動について解説しました。これまで述べてきたように、堤防の決壊は、沿川住民の生命と資産に多大な被害をもたらします。堤防は、越水しない十分な高さを確保するように、過去の降雨・洪水の統計データをもとに築造されます(第3回)。堤防決壊の原因として、最も多いのは越水による決壊です(第4回)。しかし近年、気候変動が原因と思われる豪雨増加が顕著に認められるようになり、計画高水位を超える洪水も頻度の増加が予想されています。そのため、たとえ洪水が越水しても耐えられる強い堤防が望まれるようになりました。最終回である今回は、そのような強い堤防として新しく造られている超規格堤防(スーパー堤防)と粘り強い河川堤防について解説します。

第6回「河川堤防のあたらしい技術」を解説していきます。

基礎知識DL

1. 強い堤防とは

堤防が洪水防御の機能を果たすために要求されるのは、高さと幅が適正であること、そして、土構造である堤防が洪水の越水や浸透に対して十分な強度を持っていることです。後者の、堤防内部の土質構造について図1に示します。堤防は土を材料として築造されます。その理由の一つは、計画対象の洪水の規模が増大したとき、土を盛り加えることで嵩(かさ)上げできるからです(第1回)。

河川堤防の嵩上げと堤防の断面
図1:河川堤防の嵩上げと堤防の断面(引用:国土交通省、河川堤防の現状、P.4)

しかし、図1から分かるように、堤防は大洪水のたびに過去に嵩上げが何度も行われており、築堤履歴も複雑・不明確で、堤体への洪水の浸透に対する安全性は不確実です。そのため、堤防の裏のり面に漏水などが発生すると、水防団による堤防決壊防止の水防活動が行われます(第5回)。とはいえ、水防活動にも限界があり、堤防そのものを強くすること、特に越水に対しても強くすることが求められるようになってきています。

昭和61年(1986年)、国土交通省の河川審議会は、「超過洪水対策及びその推進方策はいかにあるべきか」について答申しました。超過洪水とは、計画規模および計画洪水流量を超える洪水です。これは、堤防を越水する洪水に対して何らかの治水対策を行うことを意味しています。その対策の一つとして提案されたのが、超規格堤防(スーパー堤防)です。超規格堤防とは、堤防の高さに対して、幅が通常の堤防の約30倍ある堤防です。そのため、たとえ越水しても堤防の決壊を免れることができます。

また近年、気候変動が原因と思われる豪雨の増加、洪水による被害の頻発化、激甚化が懸念されています。令和元年(2019年)の台風19号では、全国で142か所の堤防決壊が発生し、そのうち122か所が越水による決壊と推定されています。そのため、越水しても持ちこたえられる粘り強い河川堤防が検討され、その新しい堤防に関する技術開発が開始されました。

2. 堤防の新しい技術

堤防の新しい技術として、高規格堤防と粘り強い河川堤防について説明します。粘り強い河川堤防は、表面被覆型と自立型に分類されます。

・高規格堤防

高規格堤防は、堤防幅が広いために、超過洪水時において越水・浸透・侵食による決壊を防止し、壊滅的な被害を免れることができます。また、地震についても液状化などによる大規模な損傷を避けることができます。高規格堤防の断面を、整備前と整備後について、図2に示します。

高規格堤防の整備前と整備後1
図2:高規格堤防の整備前と整備後1(引用:国土交通省、高規格堤防の現状、P.3)

さらに、高規格堤防の利点として、洪水対策だけではなく、まちづくりの観点から住民の居住環境を向上させることもできます。市街地再開発や区画整理を同時に実施することにより、木造住宅密集地域や道幅の狭い道路などの問題を解消し、住民と共同して良好な住環境を創出することができます(図3)。

高規格堤防の整備前と整備後2
図3:高規格堤防の整備前と整備後2(参考:国土交通省、河川堤防の現状、P.10)

高規格堤防について、全てが連続的に完成しなければ機能を発揮しないという意見もあります。しかし、氾濫区域の一部でも整備されれば区域の堤防決壊リスクは軽減し、また災害時には周辺住民の避難場所、被災者救援活動の基地としての役割も担います。

ただし、高規格堤防建設の課題として、工事期間が長いこと、そして建設コストが高いことが挙げられます。そのため、国土交通省内において検討会を設置し、「高規格堤防の効率的な整備の推進に向けて」という提言をまとめています。そこでは、高規格堤防の意義を関係住民と共有し、住民の負担の軽減や投資効率性に関する議論がなされています。

高規格堤防は、工事期間や高コストという課題があるため、実施対象地域は限定されています。人口・資産が高密度に集中する首都圏・近畿圏の低平地、いわゆるゼロメートル地帯です。土地が海水面より低いため、堤防が決壊すると自然排水が困難になり、浸水が長期化します。避難場所となる高台もないため、人的・経済的被害は甚大なものとなります。例えば、対象の一つである東京都江戸川区には約70万人が居住しており、しかも、区の面積の約70%が海水面下にあります。堤防決壊を回避できる唯一の手法が、高規格堤防です。高規格堤防の整備区間は、当初、堤防決壊による甚大な被害が予想される約870kmでしたが、現在では荒川、江戸川、多摩川、淀川、大和川の5水系5河川におけるゼロメートル地帯などの約120kmが整備区間に絞りこまれました。

・粘り強い河川堤防

令和元年の台風19号による堤防の被害は、河川行政関係者に堤防の強化の重要性を深く認識させることになりました。この台風で、全国142か所の堤防が決壊しました。決壊の原因は、越水が86%、侵食が9%、浸透が1%、不明4%でした。このことから、強い堤防には、特に越水に対して強靭であることが求められます。この越水に対する堤防強化は、国土交通省においても重要な課題として認識され、令和2年(2020年)7月、社会資本整備審議会の「気候変動を踏まえた水災害対策のあり方について」という答申において、氾濫量の抑制として粘り強い堤防を目指した堤防強化が強調されています。

粘り強い堤防についての提言を受け、その後、国土交通省において技術検討会が設置され、令和2年8月には最初の報告書が提出されました。粘り強い堤防には、決壊しにくいことと、決壊することがあっても、それまでの時間を少しでも長くする特性が求められます。そのことによって避難の時間を確保することができ、浸水面積も減少させることができます。技術的な検討が進められる中、粘り強い堤防の構造として代表的な2つのタイプが想定されています。表面被覆型と自立型の2タイプです。

1:表面被覆型
表面被覆型は、計画高水位以下の洪水に対しては土堤として通常の機能を発揮し、それを超える洪水に対しては、土堤の表面をシートやコンクリートブロックで被覆することで、越水に対する抵抗性を高めるというものです(図4)。

表面被覆型の例
図4:表面被覆型の例(参考:国土交通省資料、越水に対して「粘り強い河川堤防」の検討、P.10)

このタイプには、アーマレビー(鎧で覆われた堤防)があります。河川堤防として既に実施済で、技術的に検討の蓄積があるものもあります。図5に、兵庫県加古川(昭和63年度~平成7年度:施工延長3.4km)の事例を示します。

粘り強い河川堤防「アーマレビー」
図5:粘り強い河川堤防「アーマレビー」(参考:国土交通省、越水による河川堤防の侵食メカニズム、P.7)

2:自立型
自立型は、土堤の盛土部分がなくても、堤防として自立部が自立する構造です。自立部の材料については、図6に示すような鋼矢板の例の他、コンクリート杭なども想定されており、水圧や土圧に対する壁体の安定性や、浸透に対する安全性が期待されています。

自立型の例
図6:自立型の例(参考:国土交通省、越水に対して「粘り強い河川堤防」の検討について、P.10)

また最近では、自立型として、民間会社から提案されているインプラント堤防もあります。鋼矢板や鋼管杭など、剛性の高い構造部材を地中に連続して打ち込むことで構築される堤防です。

粘り強い堤防には、上記、表面被覆型と自立型の2つのタイプを基本としてさまざまなバリエーションがあり、今後、行政機関と民間組織がともに協同して技術開発を進め、より低コストで工事期間を要しない、優れた粘り強い堤防の開発が期待されています。

3. 河川堤防の今後

続きは資料をダウンロードしてご覧ください!

全6回で下記の内容を解説しています。

  • 第1回 河川堤防とは
  • 第2回 堤防の種類
  • 第3回 堤防の高さの決定法
  • 第4回 堤防の決壊はどのようにして起こるのか?
  • 第5回 堤防と水防活動
  • 第6回 河川堤防のあたらしい技術

基礎知識DL

  • 資料ダウンロード

    これさえ読めば簡単に利用できる
    「3分でわかるイプロス無料出展会員」

  • 無料掲載

    イプロスで製品・サービスをPR
    無料掲載のお申し込みはこちらから