堤防と水防活動|河川堤防の基礎知識5

河川堤防の基礎知識

著者:芝浦工業大学 名誉教授 守田 優

前回は、堤防の決壊について説明しました。堤防は、洪水から人々の生命や財産を守るために築かれます。しかし、堤防は越水、堤体への浸透や洗堀・侵食によって決壊することもあります。そのため、安全性を第一に築造される堤防であっても、必ず守ってくれると過信することはできません。そこで、住民も洪水氾濫から自らを守るための行動をとる必要があります。行政が実施する事業が治水であるのに対して、住民が自ら行う水害対策を水防といいます。治水と水防は、水害をなくすという共通の目的を持ちます。前者は行政が主体であり、後者は住民自らが主体です。今回は、堤防と、この水防活動について解説します。

第5回「堤防と水防活動」を解説していきます。

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1. 治水と水防について

台風の接近、あるいは前線の停滞によって豪雨が予想される場合、河川では洪水氾濫の危険性が高まります。このとき気象庁は、国土交通省あるいは都道府県知事と共同で、指定河川を対象に指定河川洪水予報を発表します。指定河川とは、水防法第10条、第13条によって指定された河川のことです。国土交通大臣が管理する109水系・275の河川と、それ以外で相当の被害が予想される河川を含む320区域(令和2年8月6日現在)が対象となります。洪水予報は、氾濫注意情報→氾濫警戒情報→氾濫危険情報→氾濫発生情報と、氾濫の危険性が高まるに従ってレベルが上がっていきます。洪水予報のレベルによって、住民も洪水氾濫への備えが求められます。

では、住民はどのように洪水氾濫に備えたらよいのでしょうか。もちろん、まず避難行動や家庭用品の移動などの減災行動が必要になります。もう一方で不可欠なのが、水防団による水防活動です。水防活動は、特に堤防決壊の危険性が高まったとき、地元の水防団によって実施されるものです。水防活動とは、後述する伝統的な水防工法によって堤防の決壊を防ぐ活動であり、住民の避難など一般的な減災行動(以下「水防行動」と呼びます)とは区別されます。

水防団とは、水防法第5条の規定によって設置される、水防に関する防災組織です。水防団の団員は、非常勤の特別職地方公務員であり、国土交通大臣、都道府県知事、市町村長から命令を受け、水防団長の指揮のもと、堤防その他の治水施設の決壊によって被害が拡大することを防ぎます。河川の洪水氾濫の危険が高まったときに発表される指定河川洪水予報と並行して、水防警報が発表されます。この水防警報に対して、水防団は待機→準備→出動→警戒→解除というプロセスで活動を進めます。図1に、指定河川洪水予報と水防予報のレベル、そして洪水水位の名称を示します。また、水防情報の連絡系統を、図2に示します。

洪水水位情報と水防警報
図1:洪水水位情報と水防警報(参考:国土交通省 中部地方整備局、水防技術研修テキスト、P.2)
水防警報の連絡系統
図2:水防警報の連絡系統(参考:国土交通省 中部地方整備局、水防技術研修テキスト、P.2)

2. 堤防と水防工法について

洪水時には、河川管理者によってあらかじめ定められた河川巡視者が堤防の点検を行います。もし、漏水やひび割れなど決壊の兆候を発見したときは、即座に水防団に伝え、水防活動に入らなければなりません。堤防の決壊のメカニズムについては、前回、解説しました。決壊の原因は、洪水流の越水による決壊、洪水の堤体への浸透による決壊、洪水の堤防侵食・洗掘による決壊の3つに分けられます。さらに、堤防裏法面の亀裂拡大による崩壊もあります。水防工法は、これらの原因に対応し、決壊を防ぐためのものです。ここでは、積土のう工、月の輪工・釡段工、木流し工(竹流し工)、亀裂対策工など、4つの主な伝統的水防工法の概要について、堤防決壊の原因に対応して解説します。

積土のう工:洪水流の越水による決壊に対応
積土のう工とは、決壊に対処するため、土のうを積み上げ、堤防をかさ上げする方法です(図3)。河川の水位が上昇し、堤防の天端を超えてあふれるようになると、水が堤防の上面や堤内地側の斜面を削り、決壊の危険性が生じます。積土のう工は、水防工法の中で最も基本的なものであり、越流水深に応じて、3段積・4段積・5段積があります。強度を増すために、河川側の土のうに鋼杭を打ち込む場合もあります。洪水位が計画高水位を超える、あるいは堤防が未整備であるとき、堤防高が不足します。そのとき、土のうによってその不足分を補い、越流による決壊を防ぎます。

積土のう工
図3:積土のう工(引用:国土交通省 中部地方整備局、水防技術研修テキスト、P.8)

月の輪工・釡段工:洪水の堤体への浸透、パイピングによる決壊に対応
月の輪工は、漏水の噴出口に土のうを半月型に積み、釡段工は、噴出口を中心に土のうを同心円状に積み上げていく方法です(図4)。両者とも、いったん土のう内に水を蓄えることにより、水圧による噴出を抑えます。堤体への浸透による破壊には、2通りのケースがあります。1つは、浸透によって堤体内の水位が上昇し、裏法面が崩壊するケース、もう1つは、堤体の下部にパイプ状の水みちができるケースです。いずれの場合も、堤体を浸透した水は、堤防の裏法面の下部、居住地側に漏水として噴き出します。漏水口の拡大を止めるため、漏水口を土のうで囲んで水を溜めます。これによって、河川水位と漏水口の水位差を小さくし、堤体の土砂の流出を防ぎます。図4に、堤体の浸透メカニズムと水防工法の対応関係を示します。漏出口が堤体の裏法面の法尻のときは月の輪工、法尻から離れているときは釡段工を採用します。近年、利根川や荒川でも堤体の漏水が発生しています。図5に、平成13年9月の台風15号による出水時の、月の輪工と釡段工の水防活動の様子(利根川:埼玉県加須市)を示します。

堤体の漏水と月の輪工・釜段工
図4:堤体の漏水と月の輪工・釜段工(参考:国土交通省 中部地方整備局、水防技術研修テキスト、P.15、19)(参考:国土交通省、浸透による破堤のメカニズム )
平成13年9月の台風15号出水における大規模漏水箇所の様子、利根川:埼玉県加須市
図5:平成13年9月の台風15号出水における大規模漏水箇所の様子、利根川:埼玉県加須市(参考:国土交通省、浸透による破堤のメカニズム )

木流し工(竹流し工):洪水の堤防侵食・洗掘による決壊に対応
木流し工(竹流し工)とは、急流部において流水を和らげるために、木や竹に土のうの重しを付けて川の中に投げ込む工法です(図6)。激しい洪水によって堤体の河川側が削り取られ、さらに深掘れが進むと、堤体破壊の危険性が生じます。特に急流部では、流水の流れを緩和して、流水が堤体を削る力を抑える必要があります。木流し工(竹流し工)では、保護したい場所に樹木を設置することにより、流速の低減や流向の改善を図ります。

堤防の洗堀に対処する木流し工
図6:堤防の洗堀に対処する木流し工(引用:国土交通省 中部地方整備局、水防技術研修テキスト、P.33)

・亀裂対策工:堤防の亀裂拡大による斜面の崩れに対応
亀裂対策工とは、堤防の裏法面の亀裂拡大を抑えるため、提体に杭(くい)を打ち込み、竹などで補強する伝統的な工法です。堤防の裏法面に亀裂が入ると、亀裂拡大による崩壊の危険性が高まります。代表的なものに篭止め工(かごどめこう)や五徳縫い工(ごとくぬいこう)などがあります。篭止め工は、杭を数列打ち込み、各杭の根元を鉄線や割り竹で結んで、亀裂の拡大や法面の崩れを防ぎます。五徳縫い工も、同様に竹の弾力性を利用して亀裂拡大を防ぎます。

以上、伝統的な水防工法について、決壊原因と関連づけて説明しました。こうした伝統的な工法以外に、現在では、土のうやブロックをバックホーなどの重機で移動させる工法や、堤防の洗堀防止にビニールシートを張る工法も採用されています。しかし、何よりも重要なのは、水防団という組織が堅実に編成されていること、平常時の訓練を怠らず、いざというときに機敏に対応できることです。

3. 水防の今後

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全6回で下記の内容を解説しています。

  • 第1回 河川堤防とは
  • 第2回 堤防の種類
  • 第3回 堤防の高さの決定法
  • 第4回 堤防の決壊はどのようにして起こるのか?
  • 第5回 堤防と水防活動
  • 第6回 河川堤防のあたらしい技術

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