前回は、堤防の高さはどのように決められるかについて解説しました。さて、堤防の目的は、洪水の氾濫から人々の生活を守ることです(第1回参照)。そのため、本堤をはじめ、さまざまな種類の堤防を組み合わせながら、洪水防御のための治水事業が実施されてきました(第2回参照)。堤防がその機能を果たすためには、堤防の高さを洪水の流量に対して適正に決める、工学的な検討が必要となります(第3回参照)。しかし、洪水が計画高水流量を超え、堤防の天端を越水してしまうと、堤防決壊という悲劇的な事態となります。今回は、この堤防の決壊について解説します。
第4回「堤防の決壊はどのようにして起こるのか?」を解説していきます。
第4回もくじ
1. 堤防決壊というリスク
堤防の決壊は、破堤ともいいます。台風や前線によって降雨が続くと、河川の水位が上昇し洪水になります。多くの場合、洪水は堤防を越えることなく、降雨後には水位が低減していきます。しかし、規模の大きい台風では、数日にわたる長時間、多量の雨が降ります。すると、河道から堤防本体に浸透する水量が増え、再び洪水位が堤防を越えるようになります。堤防決壊は、そうしたとき起こります。それによる被害は甚大であり、堤防近辺の民家を押し流し、農地に大きなダメージを与えます。
近年、しばしば報道される都市部の内水氾濫(大量の雨に対して排水機能が追い付かずに、処理しきれない雨水で土地や建物が水に浸かってしまう現象)による洪水では、床上・床下浸水によって民家の資産に大きな被害が及ぶものの、建物の破壊や生命の危険が生じる可能性は低いといえます。しかし堤防決壊では、氾濫流が民家を襲い、破壊し、住民を氾濫流に巻きこんで多くの犠牲者が出ます。
図1は、堤防決壊の瞬間をとらえたものです。昭和51年9月12日(1976年9月12日)、長時間の降雨が続き、長良川の堤防が、岐阜県安八郡安八町大森で決壊しました。右岸の天端は道路になっており、堤防の亀裂に生じた穴から水が一気に噴出し、後述する「堤体への浸透による決壊」によって洪水が怒涛のごとく流れ出しています。洪水の濁流は、安八町と隣接する墨俣町全域を襲い、水防活動をしていた区長一人が死亡、3,536世帯が床上浸水の被害を受けました。被害総額は両町で約130億円に達し、岐阜県史上最悪の河川の決壊となったのです。
氾濫流は、堤防近辺だけにとどまりません。破堤した地点から、さらに下流へ向かって流れていきます。図2は、有名な昭和22年(1947年)9月のカスリン台風発生時における利根川の氾濫流です。埼玉県の栗橋地点、堤防は右岸で決壊し、氾濫流は埼玉平野を下って東京にまで及びました。そして、家屋の浸水30万戸、家屋流失・倒壊2万3,000戸、死者1,000名という甚大な被害が生じたのです。首都圏では、利根川だけでなく、荒川の堤防決壊も懸念されています。もし、荒川右岸の堤防が決壊した場合、その氾濫流は東京都中央区銀座でも数mの浸水となり、さらに地下鉄などの浸水も懸念されます。
近年、気候変動によって想定を超える豪雨が長期的に増加する、という指摘があります。過去の降雨の統計を元に計画高水流量を決めても、それを超える豪雨が発生することが極めて現実的なものとなりつつあります。そして、堤防決壊というシナリオは、ますますそのリスクを増大させています。
2. 堤防決壊の原因
堤防決壊の原因は、洪水流の越水による決壊、洪水の堤体への浸透による決壊、洪水の堤防侵食・洗掘による決壊の3つに分けられています。このうち洪水の堤体への浸透による決壊はさらに、パイピングによる破壊と、浸透破壊の2つに分かれます。
1:洪水流の越水による決壊
洪水越水による決壊のしくみを、図3に示しました。洪水流量が増加すると洪水位が高くなり、やがて堤防の天端を乗り越えるようになります。この越水によって、土でつくられた堤体の斜面や裏のりを越流水が洗い、堤体が侵食されます。この侵食が進行することで、最終的に堤体の決壊を引き起こします。堤防決壊はこのタイプが最も多く、その意味でも、洪水を安全に流すための計画高水流量と、計画高水位の決定は非常に重要になります。
2:洪水の堤体への浸透による決壊
洪水の堤体への浸透による決壊は、パイピングによる破壊と浸透破壊の2つに分類できます。この2つについて説明します。
・パイピングによる破壊
パイピングとは、堤体の下部にパイプ状にできる水みちをいい、この現象が堤体へ浸透し、破壊の原因となります。図4に、そのしくみを示します。堤防の下部が砂など透水性の高い土層で構成されている場合、洪水がそこに浸み込んで水みちが徐々に広がることで堤体が沈下し、その箇所に洪水が越流して堤防が決壊します。越流を起こさなくとも、堤体が不安定になり堤体の破壊へと結びつくことがあるので、注意が必要です。
・浸透破壊
堤体への浸透によるすべり破壊のしくみを、図5に示しました。降雨が堤体の上から浸透、また高い洪水位によって河川水が堤体内に浸透することで、堤体の中の水位が上昇します。堤体の中の高い水位によって、土の強度(せん断強度)が低下し、堤防の裏のり面がすべって、最終的に堤体が破壊します。その過程で洪水が越流すると、このすべり破壊を加速します。
3:洪水の堤防侵食・洗掘による決壊
河川を縦断方向に線でとらえるとき、特に河川が曲流している場合、洪水流がより強く堤体に当たる部分(水衝部)があります。洪水位が、まだ堤防高より下であっても、このような箇所では、堤体の河川側の下部が侵食、あるいは洗掘されます。この侵食・洗掘によって堤体が削られていき、最終的に堤防決壊に至ります。図6に、侵食と洗掘による決壊のメカニズムを示します。近年では、堤防の護岸や水制などを適切に整備するなど、対策が進んでいます。
以上、堤防の決壊のメカニズムについて説明しました。こうした典型的なケース以外にも、堤体内の構造物に起因する堤防決壊があります。例えば、堤体に樋門といった取水や排水のための構造物が設置されているとき、その構造物と堤体との間に空隙ができ、そこを水みちとして河川水が流れることで、最終的に堤防決壊に至るというケースです。また、地震による堤防のひび割れに起因する決壊があることも忘れてはいけません。
3. 堤防の安全性と維持管理
全6回で下記の内容を解説しています。
- 第1回 河川堤防とは
- 第2回 堤防の種類
- 第3回 堤防の高さの決定法
- 第4回 堤防の決壊はどのようにして起こるのか?
- 第5回 堤防と水防活動
- 第6回 河川堤防のあたらしい技術