前回は、量子コンピュータのインパクトや具体的な用途を紹介しました。今回は、量子コンピュータのハードウェアの開発状況と、課題について説明します。
第5回「量子コンピュータのハードウェア開発」を解説していきます。
1. 量子コンピュータのさまざまな開発方式
現在、世界では、さまざまな方式で量子コンピュータ開発が進められています。最も有名なのは、GoogleやIBMなどが採用している「超伝導回路」方式です。この方式では、電気回路のチップを極めて低い温度に冷やし、電気抵抗ゼロの超伝導状態にすることで、量子コンピュータとして動作させます。IBMは2021年に、超伝導回路で127量子ビットを搭載した量子コンピュータを開発したことを発表しています。
超伝導回路方式は、現在最も主流であり、研究も進んでいます。しかし、実際には他にもさまざまな開発方式があり、今後全く新しい方式が台頭してくる可能性もあります。量子コンピュータ開発はまだスタートラインに立ったばかりで、例えるなら山登りの1 ~2合目付近です。どの方式が本命とも定まっていない状況です。
現代のコンピュータは、トランジスタという電気スイッチのONとOFFでビットの0か1の情報を表し、それをたくさんつなげて制御することで、加減乗除などの計算を行う装置です。同様に、量子コンピュータを作るには、トランジスタの代わりに、何らかのものを使って「0と1の重ね合わせ」である量子ビットを表現し、制御するような装置を作らなくてはなりません。
量子ビットを表すには、重ね合わせになるもの、つまり、量子なら何でも候補になり得ます。量子には、原子や電子、光の粒である光子など無数の選択肢があり、どれを選ぶかによって、見た目も動作の仕方も全く異なるさまざまな量子コンピュータを作ることができるのです。代表的な方式としては、超伝導回路方式、イオン方式、半導体方式、光方式の4つがあります(表1)。どの方式にも特有の利点や欠点があり、万能な方式はありません。
2. 量子コンピュータ開発の難しさ
量子コンピュータの開発方式は、多数あります。ただし、どのような開発方式を選んだとしても、量子コンピュータの開発は困難を極めます。その共通する理由は、量子がとてもデリケートで、エラーに弱いということです。現代のコンピュータでビットの情報を表すトランジスタは、エラーに強い設計になっており、多少の雑音や製造誤差などがあってもONとOFFがひっくり返って情報が損なわれてしまうことはありません。
一方で、量子は周囲からのちょっとした雑音や制御の不完全性を受けると、簡単に情報が損なわれてしまい、正しい計算ができなくなります。量子コンピュータを作るということは、世の中のものの最小単位である量子一つ一つを、雑音のないクリーンな環境に置き、量子ビットの情報を持たせ、精密に制御して計算をさせるということです。これを実現するには、人類史上ない究極のテクノロジーが必要です。
これまで数十年の研究の歴史の中で、人類は量子の持つ情報を壊さないよう、守りながら正確に操るノウハウを少しずつ蓄積してきました。この結果、冒頭で述べたように、最近は最大で約100個の量子を同時に操れる装置、すなわち100量子ビット級の量子コンピュータが生み出されています。
皆さんは、「100個の量子ビットを搭載したマシンが作れるなら、それをたくさんつなげていけば大規模な量子コンピュータが作れるのでは?」と思うかもしれません。しかし、残念ながら話はそれほど単純ではありません。量子ビットを増やすほど、雑音が混ざりやすくなったり、正確な制御が難しくなったりして、正しい計算を行うことは加速的に難しくなります。今の技術の単なる延長では、大規模な量子コンピュータは作ることができません。
3. 量子コンピュータにはエラー訂正が必須
全6回で下記の内容を解説しています。
- 第1回 量子コンピュータ入門
- 第2回 量子コンピュータの歴史と計算の仕組み
- 第3回 量子の重ね合わせとは
- 第4回 量子コンピュータがもたらす未来
- 第5回 量子コンピュータのハードウェア開発
- 第6回 量子コンピュータ開発の実態