前回は、ターボポンプの比速度と、その特性曲線について解説しました。今回は、ターボポンプがタンクから液体を吸い上げるときの性能を評価するための「ポンプのキャビテーション」について、これに関連する「NPSH」という用語を含めて解説します。
第9回「ターボポンプのキャビテーションと吸込み性能」を解説していきます。
1. キャビテーション係数
インペラの羽根入口などで、流れが高速・低圧な箇所が生じ液体の飽和蒸気圧に達すると、ポンプはキャビテーションを引き起こします。キャビテーションについての基礎的な概要は、第2回を参照してください。ここでは、ターボポンプの性能を悪化させ、騒音や振動を誘発するキャビテーションの評価について解説します。
ターボポンプでは、キャビテーション発生を表す指標としてトーマのキャビテーション係数σが用いられます。これは、後述のNPSHを全揚程Hで除した値です。
また、トーマのキャビテーション係数σと比速度n s には、次式の関係があります。
上式でK c は、片吸込形と両吸込形ポンプにおいて、実験によって以下のとおり求められる係数です。
図1は、トーマのキャビテーション係数σを変化させたときの、軸流ポンプの特性曲線です。横軸には流量係数Φをとり、縦軸には揚程係数ψ、軸動力係数ν 、無次元ポンプ効率η*をとって実験結果を示しています。それぞれの無次元数は、以下のとおりです。
ここでは、Qは吐出し量[m 3 /s]、A 2 はインペラ出口面積[m 2 ]、u 2 はインペラの羽根代表直径での周速度[m/s]、Hは全揚程[m]、L s は軸動力[W]、ρは密度[kg/m 3 ]、ηはポンプ効率、η max はポンプ効率の最高値です。図中の実線は、通常運転の場合であり、トーマのキャビテーション係数σを減少させるにしたがって、これらのポンプ特性は劣化していくことが分かります。
2. NPSHとは?
では、NPSH とは何を意味するのでしょうか。
ターボポンプ内のキャビテーションの発生状況を何らかの方法で予期できれば良いとはいえ、実際にインペラ内の圧力や飽和蒸気圧を測定することは困難です。そこで、「吸込側でのキャビテーションが、どの程度で生じるか否か」を表す余裕の指標が NPSH です。NPSH とは、Net Positive Suction Head の略で、「正味の正値での吸込みヘッド」と直訳されます。
NPSH にはいくつかの呼称があり、JIS B0131 で定義されています。有効吸込ヘッドの NPSHA(Net Positive Suction Head Available)は、実際の運転で「このポンプは、これだけの吸込ヘッドに利用できる」という値です。NPSHA は、吸込み側タンク、ポンプと吸込液面との高さ位置、吸込配管、液温など、ポンプの据付け状態で決まり、ユーザー側によって求められます。
これに対して、必要吸込ヘッドの NPSHR(Net Positive Suction HeadRequired)は、ポンプの運転状態において、キャビテーションによる性能低下を避けるためのポンプとして必要な有効吸込ヘッドであり、「ポンプがインペラに液体を押し込むために、これだけの吸込ヘッドが必要である」という値を示します。NPSHR は、吸込み比速度やトーマのキャビテーション係数、あるいは実験により想定し、メーカー側が指示します。NPSHR の一種に NPSH3 があります。NPSH3 とは、「ポンプ(もし多段ポンプであれば、その 1 段目)の全揚程が 3% 降下するときに、キャビテーションが無い状態から初生すると仮定した、必要有効吸込ヘッド NPSHR である」と定義されています。以降の章では、NPSHAおよび NPSHR について解説します。
3. NPSHA(有効吸込ヘッド)
4. NPSHR(必要吸込ヘッド)
5. 吸込全揚程
全10回で下記の内容を解説しています。
- 第1回 ポンプとは
- 第2回 ポンプのための流体力学の基礎
- 第3回 ターボポンプの構造と分類
- 第4回 ターボポンプの仕様
- 第5回 ターボポンプの選定
- 第6回 ターボポンプの効率と動力損失
- 第7回 ターボポンプの性能と運転
- 第8回 ターボポンプの比速度と特性曲線
- 第9回 ターボポンプのキャビテーションと吸込み性能
- 第10回 ターボポンプの理論揚程