前回は、体冷却の種類と効果を紹介しました。新型コロナウイルス感染症の流行により、三密(密閉、密集、密接)、不要な外出の回避、マスク着用、手指の消毒、テレワークの推奨などの感染予防対策を含め、新しい生活様式が求められるようになりました。今回は、感染予防対策による新しい生活様式が、夏の暑さ対策にどのように影響するのか解説します。
1. 感染症予防対策と暑熱障害リスク
感染症予防対策が暑さに関連するポイントを考えてみましょう。まず、密を避けるためには、換気の悪い密閉空間を作らないように対策をします。具体的には、窓や扉を開放して換気を行い、空気の流れを作ります。これは暑さ対策にもつながります。
一方、緊急事態宣言による外出自粛は、身体活動量の減少を招き、体力の低下を引き起こします。体力の低下は免疫機能も含め、暑熱耐性機能(暑熱ストレスに対する抵抗力)も低下させます。
さらに、夏季のステイホームは、冷房環境で長時間過ごすことになります。これにより、暑熱環境に暴露される機会が減り、発汗の機能を減退させます。また、ステイホームが明けた後は、十分に体が暑さに慣れていないため、最初の1週間は体を暑さに慣らす必要があります(第2回)。
2. 作業時のマスク着用における体への影響
マスクの着用は、感染症対策の基本です。しかし、作業時のマスクの着用は、身体への影響を十分に考慮する必要があります。
マスクには、医療用マスク、防塵(じん)用マスク、一般家庭用不織布マスクなど、さまざまな種類があります。医療用マスクや防塵・防毒(ガス)マスクは密閉度が高く、呼吸器系への負担が大きいため、作業の強度が高まると、酸素を十分に取り入れることが困難となり、呼吸機能障害を引き起こす可能性が大きいと考えられます。また、顔を広く覆う構造なので、顔面部の暑さ感も増大します。一方、家庭用の不織布マスクは、医療用マスクと比較して密閉度は高くありません。しかし、作業時の呼吸機能への負担は、同様に注意深く考える必要があります。また、顔面部の暑さ感が増すのも同じです。このようなことから、2020年6月に、厚生労働省は、家庭用マスクを使用する一般国民に対して、マスク着用による熱中症への注意喚起をしています。
筆者は、一般家庭用マスクを着用しているときの熱中症リスクについて検討を行いました。その結果を紹介します。気温25~35℃において、軽運動(心拍数110拍/分のウォーキング程度)を40分間行った場合の、体温、発汗、心拍数、温度感覚などを観察しました。その結果、気温が低い25℃では、顔面部の温度感覚はマスクをしていないときよりも高い暑さ感をもたらしました。しかし、気温が高くなるにつれて、マスクの有無による差は認められなくなりました。また、心拍数、体温変化、発汗量なども、いずれの気温においてもマスクの影響はありませんでした(図1)。
この結果から、筆者は、軽運動・作業時の不織布マスクの着用により、少なくとも熱中症リスクが高まるということはないという結論です。また、建設現場を想定した調査結果でも同様の傾向を示しています(図2)。ただし、建設現場では、作業負荷が高く、時間が長くなる場合には、マスクの影響が出る可能性もあるため、注意が必要です。
なお、マスクによる影響は、軽運動時には少ないとはいうものの、気温、湿度が高ければ、マスクの有無にかかわらず熱中症リスクは高いため、これまで述べてきたような暑さ対策が必要であることは忘れてはいけません。
3. その他の暑さ対策
全6回で下記の内容を解説しています。
- 第1回 暑熱環境下における暑さ対策の必要性
- 第2回 暑さ対策の基本~暑さに強くなる・日常生活における対策~
- 第3回 暑さ対策の基本~水分・塩分の補給、夏バテを起こさない食材~
- 第4回 体冷却の有効性~各種冷却グッズの使い方~
- 第5回 感染症流行下の暑さ対策
- 第6回 作業現場における暑さ対策管理法