前回は、プレス加工の概要と3 要素(金型、プレス機械、被加工材)を解説しました。今回は、3 要素から被加工材を取り上げ、その特性を3 つの切り口で解説します。
紙を切るのと、金属を切るのとでは、明らかに異なります。切る対象(被加工材)によって、利用する道具も異なります。このように、プレス加工製品の設計や加工を行う前に、製品となる被加工材を知ることは大切です。
第2回「被加工材の特性」を解説していきます。
第2回もくじ
1. 弾性と塑性
弾性と塑性は、身近な金属板を手で曲げることで実感できます。例えば、厚さ1mm の短冊状のアルミニウム板にわずかな力を加えると、板は曲がります。力を取り除くと、アルミニウム板は元の真っすぐな状態に戻ります。この戻る特性を、弾性といいます。材料が元の形状に戻ろうとする力です。ところが、さらに大きな力で曲げると、力を取り除いても板は元の真っすぐな状態には戻りません。このように、変形し元に戻らない性質を、塑性といいます。
次に、弾性と塑性が生じる流れを、引張試験(材料を引っ張って材料特性を検証する試験)を用いて解説します。図1に引張試験の概念図を、図2 に引張試験で得られる荷重、伸び曲線を示します。
ここで押さえておきたいのは、塑性変形は、弾性変形が生じた後に起きる現象です。つまり、塑性変形を利用してプレス加工された製品には、弾性変形が含まれています。そのため、プレス加工が終了した製品が、元の形状に戻ろうとします。この現象(スプリングバック:弾性回復)は、プレス加工で作りたい形状の金型を作っても、金型と100% 同じ形状の転写が難しい要因になります。また、プレス加工現場におけるトラブルにつながる場合もあります。
2. 加工硬化
引張試験において引っ張り続けると、必要な力が増加します。例えば、引っ張り当初に1mm を伸ばすときと、10mm 伸ばした後に1mm を伸ばすときとを比較すると、後者の方が明らかに大きな力を必要とします。このように、加工するにつれて材料が硬くなる現象を加工硬化といいます。硬くなった材料を変形するには、より大きな力が必要です。
実際に、引張試験の前後で硬度を測定してみると、加工後の硬度は上昇します。また、材料は硬くなるともろくなる傾向があります。身近な例として、針金を手で切断できることが挙げられます。そのため、形状を作るために力ずくで加工すると、もろくなることも、出来上がった製品は考慮しなければなりません(図3)。
3. 体積一定の原則と異方性
全9回で下記の内容を解説しています。
- 第1回 プレス加工とは?プレス加工の3要素とは?
- 第2回 被加工材の特性
- 第3回 プレス機械のトルク能力、公称能力、仕事能力とは?
- 第4回 金型とは何か?なぜ金型が必要か?
- 第5回 プレス加工の種類
- 第6回 せん断加工とは?
- 第7回 曲げ加工とは?
- 第8回 絞り加工とは?
- 第9回 プレス加工の安全対策