前回は、特許出願の際に知っておくと得する特殊な手続きを紹介しました。最終回となる今回は、はじめに「外国出願」について解説します。日本で取得した日本の特許権は、日本国内のみで有効です。このため、他国の特許権を取得したい場合は、他国で特許出願を行う必要があります。次に、特許に関連する他の制度として「実用新案」と「意匠・商標」について解説します。実用新案は、特許とほとんど同じ制度と思っている方が多いですが、実は大きく異なります。意匠法や商標法は、デザインやマークについて独占的に使用する権利を与えて保護する法律です。
1. 外国出願
特許は国ごとのものですから、日本の特許権は日本国内のみで有効です。したがって、特許権を利用してアメリカでビジネスを行いたい場合は、日本ではなくアメリカの特許権を取らなければなりません。
日本人が、日本にいながらアメリカの特許権を取ることは可能です。1つの発明について、日本とアメリカの2カ国に出願することもできます。2カ国に限らず、何カ国でも特許出願が可能です。特許を取りたい各々の国へ出願すれば良いのです。このように、特許を取りたい各々の国に対して1つ1つ特許出願することを「直接出願」といいます。
とはいえ、多くの国に直接出願を行うのは手続きが大変です。例えば、5カ国に特許出願しようと思った場合、5カ国それぞれの特許制度に則った形式の書類を用意して、出願手続きを行う必要があります。これには相当な労力がかかります。このような場合には「国際出願」が便利です。国際出願を1回行えば、世界各国に同時に特許出願をすることができます。国際出願は、PCT国際出願や、PCT出願ともいわれます(PCT:Patent Cooperation Treaty /特許協力条約)。
直接出願と国際出願を比べた場合、国際出願の方が費用が高くなる傾向があります。この点は、国際出願のデメリットといえます。しかし、国際出願の場合は、出願してから数カ月後に「特許性に関する見解書」というものを得ることができます。これは、出願した発明の特許性について、特許庁がある程度の判断を行った結果を示した書類です。この判断結果によって、出願した内容で特許を取れそうかどうか分かるのです。この判断の結果、特許が取れそうであれば多くの国へ国内移行を行って特許を取ればよいのです。逆に特許が取れそうもなければ、補正して特許が取れるように修正したり、費用のムダを省くために国内移行する国の数を減らしたり、という判断ができます。
このようなことから、直接出願よりも国際出願の方が、費用はかかるものの、リスクを回避できるという点では優れています。また国際出願は、日本語で書類を作って日本の特許庁へ出願手続を行えばよいという点でも有利です。さらに、通常、直接出願より翻訳文の提出期限が遅くなるため、じっくりと翻訳文を作成できるという点でも、国際出願は有利といえます。
2. 実用新案
実用新案と特許について、「保護対象」「出願から権利化までの流れ」「権利化後」の観点から比較して説明します。以下を読めば、実用新案と特許は大きく異なることが理解できるはずです。
<保護対象>
特許では、「物」「方法」「製造方法」の3種類の発明が保護対象です。これに対して、実用新案では「物」のみが保護対象です。例えば、洗濯ばさみ、快眠まくら、ダイエットスリッパなどの日用品や、自動車、パソコン、携帯電話などは「物」なので、実用新案権を取れる可能性があります。つまり、「物の発明」であれば、特許と実用新案のいずれでも権利を取得できる可能性があるので、出願する際はどちらで出願するかを考えるべきです。一方、口臭の測定方法や時計の製造方法などは「物」ではなく、「単純方法」や「製造方法」のため、実用新案権を取ることはできません。考える余地はなく、特許出願をするしかないのです。
<出願から権利化までの流れの違い>
特許の場合、出願後3年以内に出願審査請求を行います。すると、特許庁で審査官が発明の特許性について審査します。そして、審査に合格すれば(審査官が特許性を有する発明であると判断すれば)特許権が付与されます。審査に合格しなければ、拒絶査定がなされます。これに対して実用新案の場合は、特許庁での審査は行われず、最低限の要件さえ備えていれば、出願後すぐに登録されます。つまり実用新案は、出願すれば内容がどうであろうと、権利(実用新案権)が取れるのです(図1)。
<権利化後の違い>
他人が自分の特許権を侵害しているとします。この場合、特許権を持っている者は、その他人に対してすぐに権利行使(損害賠償を請求したり、差止を請求したりすること)ができます。一方、実用新案権を持っている者は、すぐに権利行使をすることができません。まず、対象となる発明(考案)に特許性(登録性)があるか否かを評価する「実用新案技術評価書」というものを特許庁に発行してもらう必要があります。侵害者に実用新案技術評価書を提示して警告した後でなければ、権利行使することができないのです。
なお、特許庁による実用新案技術評価書の評価が「特許性はない」という結果であった場合、権利行使の後に実用新案権が無効になると、それによって他人に与えた損害を実用新案権者が賠償しなければなりません。また、実用新案技術評価書の評価結果が「特許性はない」であった場合、無効審判を請求すれば、その実用新案は非常に高い確率で無効になります。したがって、実質的には、実用新案技術評価書の評価結果が「特許性がある」でないと、権利行使はできません。
以上の理由から、実用新案権の方が、特許よりも権利行使しにくいといえます。
3. 意匠・商標
全6回で下記の内容を解説しています。
- 第1回 特許制度はなぜ、存在するのか?
- 第2回 そもそも特許とは何か?
- 第3回 特許を取るまでの流れ
- 第4回 どのような発明であれば特許が取れるのか
- 第5回 知っておくと得する手続き
- 第6回 外国出願および関連する他の制度