特許制度はなぜ、存在するのか?|特許出願の基礎知識1

特許出願の基礎知識

著者:ソナーレ特許事務所 弁理士・技術士 高橋政治

この連載では、特許の基礎知識について全6回で解説していきます。「発明すると儲かる」と考えている方も多いかもしれません。しかし、「発明すること」と「儲かること」は決して直結しているわけではなく、間接的につながっているものです。この連載が、そうしたことの理解につながっていけばと思います。

第1回の今回は、特許制度はなぜ、存在するのか、という根本的な点を解説します。

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1. 特許制度はなぜ、存在しているのか

技術者・研究者は、程度の差こそあれ、おそらくほとんどの方が特許に関する業務に関わっていると思います。日頃の業務を進めて行く上で、発明が発生すれば特許出願をするでしょう。また、競合他社からの特許出願を監視することもあるでしょう。もしかしたら、「1年に2件以上、特許出願すべし」といったノルマが決まっていて、年度末には特許出願のネタを無理やり考え出すのに毎年、苦労しているかもしれません。

そして、競合他社の特許権を調べたり、特許権を侵害しないように製品設計を見直したり、競合他社に対抗するために無理やり特許出願したりすることに何の意味があるのか、と感じている方もいるでしょう。そもそも特許制度というものが悪の根源であり、こんなものが存在するために無駄な仕事が発生して困る、と思っている方もいるかもしれません。

そこで、まず、特許制度はなぜ、存在しているのか? について説明します。

例えば、あなたが良いアイデアを思いついたとします。では、あなたはそのアイデアを世のため人のために、無料で人々(競合他社を含む)に教えるでしょうか。

教える人もいるでしょう。しかし、教えない人も少なからずいると思います。特に、会社の業務として見出したアイデア(発明)を、無料で競合他社へ教える人はいないでしょう。何とかバレないようにしつつ、そのアイデアに基づいて利益を上げる方法を考えるはずです。

ここで、良いアイデアが他人にバレないようすることができたとします。この場合、他人からすると、それを知ることができないのですから、そのアイデアにたどり着くためには、先にそのアイデアを思いついた人と同程度の時間やコストをかける必要があります。そうすると、社会全体としてみたときに、同じアイデアを創出するために無駄な時間やコストをかけていることになります。最初にそのアイデアを思いついた人がそれを公開してくれれば、他の人は容易にそのアイデアを知った上で、そのアイデアに基づいた、さらに良いアイデアを創出するために時間やコストをかけることができます。

そこで、このような無駄な時間やコストを抑制し、社会全体での産業の発達スピードを高めるために、特許制度というものが創設されました。

特許制度によると、アイデアを見出した人には、そのアイデアを公開してもらう代わりに、一定期間、一定の条件のもとに、それを独占的に利用する権利が与えられます。世の中の人は公開されたアイデアを容易に知ることができるため、それに基づいてさらに良いアイデアを創出することができます。こうすることで世の中の技術の進歩を促進し、産業の発達スピードを高めようというものが特許制度です(図1)。

より簡単にいえば、世の中の人々がより良い便利な暮らしをするために特許制度が存在している、ということです。

特許制度の目的 (引用:高橋政治、技術者・研究者のための特許知識と実務(第4版)、秀和システム、2022年、P.204)
図1:特許制度の目的 (引用:高橋政治、技術者・研究者のための特許知識と実務(第4版)、秀和システム、2022年、P.204)

2. 発明すると儲かるのか?

これは、知り合いの弁理士から聞いた実話です。

昔、ある弁理士に特許出願の依頼があり、その準備として、発明者から発明内容の説明を受けるための打ち合わせをしたそうです。なお、弁理士とは、特許を取りたい人から依頼を受けて、以下のことを主な仕事としている人です。
・発明者から発明内容の説明を受ける
・特許出願するための書類(願書、明細書、図面、要約書)の作成を代行する
・特許庁への出願を行う
・依頼者に有利な特許権を取得できるようにサポートする
通常、弁理士は特許出願の書類を作成したり、特許庁から来た指令に対応したりすることで、依頼者から手数料をもらいます。

そして、その依頼者は弁理士へ発明内容を説明した後、弁理士に向かってこう言ったそうです。

「ところで先生。私は先生にアイデアを教えました。先生は私にいくらくれるのですか?」

つまり、この発明者は、アイデアを教えれば金がもらえる、と考えていたのです。弁理士としては、たまったものではありません。発明者から手数料をもらわなければならないところを、逆に、この発明者は金を払えと言っているのです。

これは極端な例かもしれません。しかし、世の中には少なからず、良いアイデアを思いつけば金がもらえる、と勘違いしている人がいるようです。

良いアイデアを思いついて特許権を取得した場合、もちろん、お金を稼げる場合もある一方、稼げない場合もあります。上記のとおり、特許権が成立すると、他者はそのアイデアを知ったとしても、一定期間はそのアイデアに基づいた製品を製造販売することができません。特許権者が、それを独占できるわけです。特許権者は、独占して製造販売することができ、かつ、競合がいないため値段を高くすることもできるので、結果として儲かることになります。つまり、良いアイデアを思いついたということが、金がもらえることに直結するのではなく、アイデアの利用を独占できるということで、結果として、儲かる場合がある、ということになるのです。

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3. 会社員の場合は発明すると儲かる

一方、会社員である技術者・研究者が、会社の業務として特許出願をすると、通常は会社からお金(発明報奨金)をもらえます。これは、前章で説明したような、発明して特許権を取る→独占して製造販売できる→儲かる、という流れにのっとってお金がもらえるということではありません。

発明した人には、特許を受ける権利が発生します。これは、出願する権利とも考えられ、この権利を有していない人が、その発明について特許出願することはできません。仮に、他人のアイデアを盗んで(つまり、他人の特許を受ける権利を盗んで)特許出願しても、特許は成立しないことになっています。

会社員である技術者・研究者が、会社の業務として発明をした場合、発明の瞬間に、会社員自身がその発明についての特許を受ける権利を有することになります。そして、会社はその特許を受ける権利を買い取って、会社名義で(出願人を会社名として)特許出願します。会社員からすると、その特許を受ける権利を、自分が所属している会社へ有償で譲渡していることになります(図2)。

したがって、特許出願をすると、最終的に会社からお金(発明報奨金)をもらえることになります。

「特許を受ける権利」の譲渡について
図2:「特許を受ける権利」の譲渡について

いかがでしたか? 今回は、特許制度は、なぜ存在するのかをテーマに、発明がいかにして儲けにつながるのかという仕組みを解説しました。次回は、発明を儲けにつなげる特許に関して、より詳しく説明していきます。お楽しみに!

全6回で下記の内容を解説しています。

  • 第1回 特許制度はなぜ、存在するのか?
  • 第2回 そもそも特許とは何か?
  • 第3回 特許を取るまでの流れ
  • 第4回 どのような発明であれば特許が取れるのか
  • 第5回 知っておくと得する手続き
  • 第6回 外国出願および関連する他の制度

第2回~第6回の続きはこちらより資料をご覧ください!

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