前回は、組織開発の定義を紹介しました。組織開発とは、組織を健全な、よい方向に変えていくための取り組みです。今回は、経営学の視点から組織開発の歴史を紹介します。組織開発を実現するために、これまでにさまざまな取り組みが行われ、多くの分野やアプローチが開発されてきました。本稿では、現在の組織開発の源流となった、2つの組織開発の源流と、それに続く4つの重要なアプローチ、また近年の動向を紹介します。
第2回もくじ
1. 組織開発の2 つの源流
表1に、組織開発のアプローチを年代別に示します。表が示すさまざまな組織開発の背後にあるのは、B=f(p, e)という考え方です。これを、クルト・レヴィンの法則(場の理論)といいます。クルト・レヴィンは、組織開発のレジェンドであり、社会心理学者の父とも呼ばれています。B(Behavior)は個人の行動、p(Personality)は性格や能力、あるいは態度などの個人的要因、e(Environment)は現在の社会的環境を意味します。ここでいう社会的環境は、経営組織を念頭にいえば、一緒に働く仲間や同僚、マネージャーやその集団を指します。f(Function)は関数です。つまり、個人の行動は、個人的要因と職場や同僚の社会的環境の関数であると考えられます。
組織開発の念頭に置かれているのは、B(個人の行動)です。そのため、取り組みの働きかけは、個人に働きかけるか、個人が置かれている社会的環境に働きかけるかの2種類になります。もう少し踏み込んでいえば、組織開発では、より社会的環境への働きかけを意識しています。ここでは、現在の社会的環境に働きかけることで、個人の行動を変えていく例として、Tグループとコンサルティングの2つについて説明します。
・Tグループ
Tグループは、クルト・レヴィンを中心としたNTL(National TrainingLaboratories)研究所による手法です。Tグループは、現在でも研修などで行われるチームビルディングに似た手法です。議題を決めずに自由に対話し、お互いにフィードバックや気付きを共有することで、グループそのものやプロセスを見直し、コミュニケーションなどを改善します(図1)。
当初、クルト・レヴィンは、Tグループによって、アメリカ人とユダヤ人の雇用差別を解消しようと試みました。これ以外にも、Tグループの手法によって、さまざまな社会課題や経営課題が解決されています。
また、現在でも、当事者同士がお互いのプロセスを見直すための手法として、Tグループは多く用いられています。このように、Tグループの手法は、p(性格や能力、あるいは態度などの個人的要因)とともにe(現在の社会的環境)にも働きかけることで、B(個人の行動)を変えていく取り組みと捉えることができます。
・コンサルティング
コンサルティングは、イギリスのタビストック人間関係研究所による、社会技術システム論をベースにした方法です。タビストック人間関係研究所といえば、南ヨークシャーの炭鉱における事例が最も有名です。この炭鉱では、かつて小さな作業集団による、短壁方式の採掘を行っていました。しかし、機械化技術の発展により、より大量に採掘ができる長壁方式による採掘に変更したところ、むしろ生産性が減少してしまいました。これは、長壁式採炭に置き換わったことで、短壁式採炭における作業集団の親密なコミュニケーションがなくなってしまったからです。
そこで研究チームは、両方のよさを取り入れた、混成型長壁方式の導入を提案します。これは、技術の発展だけではなく、それに伴う社会的な要素が必要であるという、社会技術システムの考え方のスタートにもなりました。現在でも、原発や鉄道など高度な技術と安全を扱う分野では、技術だけではなく、それを扱う人や集団の問題との兼ね合いが考えられています。すなわち、このアプローチは、主にe(現在の社会的環境)を変えることで、B(個人の行動)をよりよくしようとする取り組みといえます。
2. 組織開発の4 つのアプローチ
Tグループ、コンサルティングといった初期の取り組みに続いて、現在の組織開発のさまざまなアプローチにつながる4つの組織開発のアプローチが生まれます。表1に沿って説明します。
・サーベイリサーチ
サーベイリサーチの一つに、サーベイフィードバックがあります。サーベイフィードバックとは、組織全体に対してサーベイ調査を行い、そのフィードバックを通じて、組織をよい方向へ変えていこうとするアプローチです。システム4と呼ばれる従業員参加型のマネジメントを提唱したアメリカのレンシス・リッカートが主導しました。私たちも、健康診断の数値をきっかけに自分の行動を変えようとすることがあります。サーベイフィードバックは、これと同様の考え方です。次回以降で触れるAI(Appreciative Inquiry)という手法も、この延長線上にあるアプローチです。
・グループダイナミクス
グループダイナミクス(集団の力学)とは、集団における個人の行動や思考・価値観などは、集団から影響を受け、また逆に、集団に対しても影響を与えるというような、力学的特性をいいます。Tグループの研究チームからは、グループダイナミクスに着目するアプローチも生まれました。B=f(p,e)でいえば、e(現在の社会的環境)の部分により着目するアプローチです。チームビルディングやワークショップなどは、研修などの場面でより効果的な集団を形成することにフォーカスを当てます。品質向上に向けたTQM(Total Quality of Management)や、仕事生活への満足感を高めるQWL(Quality of Work of Life)活動などもこの一環といえます。
・個人(間)のスキル
個人や個人間のスキルに着目するアプローチとして登場したものもあります。その一つがリーダーシップトレーニングです。リーダーシップトレーニングは、リーダーが自分のリーダーシップ行動を振り返り、改善するものです。アメリカのロバート・R・ブレイクとジェーン・S・ムートンによるマネジリアル・グリッド理論も、このアプローチの一つであると位置付けられています。
2000年代に、日本でも導入した企業がある360度フィードバックや、近年見られるコーチングも、組織開発のアプローチの一つとして位置付けることができます。360度フィードバックとは、上司や同僚、部下、他部署や他社の担当者など立場の違うさまざまな人から多角的に評価を受ける制度をいいます(図2)。コーチングとは相手の話に耳を傾け、質問を投げかけながら、相手の内面にある答えを引き出したり、潜在能力を解放させ、最大限に力を発揮させることを目指す能力開発法です。
・組織変革
組織変革には、タビストック研究所による社会技術システム論から派生したものとして、ワークフローなどを見直すプロセスリデザインや、近年注目されている学習する組織(環境変化に適応しながら、個人の自発的な革新と創造により進化し続ける組織)など、組織全体をターゲットとする組織開発のアプローチもあります。
3. 近年の動き
全6回で下記の内容を解説しています。
- 第1回 組織開発とは
- 第2回 組織開発の歴史
- 第3回 人材開発と組織開発の違い
- 第4回 組織開発の方法
- 第5回 AIという手法
- 第6回 組織開発でよくある失敗例