前回は、光の干渉を解説しました。今回は、光の回折(かいせつ)について学びます。干渉性のよいレーザを、幅の狭いスリットに入射させると光が広がります。その広がり方は、スリットの幅が狭くなるにつれて大きくなります。同じように、レーザを細かな網の目状の物体に当てると、広がりのある複雑な透過パターンが見られます。このような光の直進を妨げる微小物体や開口による光の広がりを、回折と呼びます。
第5回「光の回折」を解説していきます。
1. ホイヘンス・フレネルの考え方
ホイヘンス・フレネルの原理とは、波動の伝播問題(遠方場の極限や近傍場の回折)を解析する方法です。1678年にオランダの物理学者クリスティアーン・ホイヘンスが元となるホイヘンスの原理を発見し、1836年フランスの物理学者オーギュスタン・ジャン・フレネルがこれに修正を加えた原理です。
本連載の第1回で、ピンホールカメラを例に、光の直進性を説明しました。その際、ピンホールの大きさが小さすぎると、像がボケてしまうことを述べました。これは、光が回折によって広がるために生じる現象です。物体の大きさが光の波長に近付くにつれて、回折現象は顕著に起こります。
簡単な例として、単色平面波がスリットに入射して広がる様子を見てみましょう。ホイヘンスは、光源からの2次波(素元波、球面波)が連続して発生しながら進むことで、光は伝播すると仮定しました。スリットに入射する直前まで光は遮られる物がないため、そのまま平行に進みます。スリット面内に入ると、中心部はそのまま進みます。しかし、スリットのエッジ付近は、障害物として影響を受けます。すなわち、面内の2次波が新たな球面波の光源(多数)として広がりながら進みます(図1)。
スリットからある程度離れた点Pには、スリット面内の多数の2次波光源からの光が到達します。それぞれの光の光学的距離は異なるため、点Pの位置(x)が変わると、重ね合わせた光の強度も大きく変化します(図1の強度分布)。この大きな強度変化について、ホイヘンスの考え方だけでは説明ができませんでした。そこでフレネルは、重ね合わせの際、光の干渉効果があると考え、この強度変化を説明しました。その結果、干渉性のよい単色光の回折現象を、半定量的に解くことが可能になりました。以上の考え方を、ホイヘンス・フレネルの原理と呼びます。
・回折の一般式
図2に示すように、点光源P0から出た光は球面波Σとなって伝播します。
このとき、点P 0 から距離r 0 の点Qにおける光の変位U(Q)は、複素数表示で以下のように表すことができます。
ここでAは、単位の半径を持つときの光波の振幅とします。
波面Σからは、ホイヘンスの原理に従って2次波が出ます。ここでは、時間平均を想定し、時間に関する変数を省略して話を進めます。観測点P(x,y,z)における、波面Σ上の微小面積dσからの2次波の寄与は、以下のように表せます。
ここでK(χ)は、波面Σの法線とQP(=r)との成す角χによって変わる傾斜係数(Inclination Factor)とし、χ=0で最大、χ=π/2で0と考えます。P点での光の変位は、Σ面上の全ての波源からの寄与を考えると、以下のような積分の式となります。
2. フラウンホーファー回折とフレネル回折
フラウンホーファー回折とは、回折物体から観測点までの距離(R)と波長(λ)の積(Rλ)が物体の大きさの2乗に比べ十分に大きな回折をいいます。一方、フレネル回折とは、フラウンホーファーよりも有限遠(物体の近く)に位置する回折をいいます。
前章で述べた回折の積分式を、もう少し簡単な形にしてみましょう。図3のような光軸を含む開口Sと観測面を考え、開口面から観測面までの距離をRとします。これまでの説明では、光源と開口までの距離を有限としてきました。ここでは、入射光は平面波とし、開口に垂直に入射するものとします。
球面波に対応する入射光の式は、U(z)=Ae ikz と表せます。さらに、開口が十分に小さいという条件から、開口内の任意の点Q(ξ,η)と観測点P(x,y,z)を結ぶ直線と、開口に垂直に立てた法線との成す角δは、開口内で近似的に一定と見なします。すなわち、開口内の任意の点と観測点を結ぶ直線と法線との関係はχ=δ(一定)と近似します。さらに、観測点Pから開口の座標原点Oまでの距離をr’とすると、1/r≈1/r’と近似できます。
回折積分の式は、z=0と置くことで、次のように表せます。
開口内の点Qから観測点Pまでの距離rは、図3より、
となり、級数展開すると、
と書けます。これをU(P)の式に代入すると、
となります。ここでΔ(ξ,η)は、
です。さらに、回折光の方向余弦に関して、p=x/r’、q=y/r’とし、ξ,ηの2次の項まで考えると、以下のように表せます。
2次の項が無視できる場合、すなわち、以下の条件が満たされるとき
言い換えると、開口から観測点までの距離に関して、以下が成り立つとき、
Δ(ξ,η)は、次のようになります。
このように、1次項のみで近似できる場合をフラウンホーファー回折と呼び、2次項まで含む場合をフレネル回折と呼びます。最終的に、フラウンホーファー回折は以下のように表せます。
ここで、Cは定数です。この式から、フラウンホーファー回折は、開口の透過率分布(複素数表現を含む)をフーリエ変換して求められることが分かります。
3. フラウンホーファー回折の具体的な例
4. 回折理論による望遠鏡と顕微鏡の分解能
全6回で下記の内容を解説しています。
- 第1回 光の基本的性質
- 第2回 屈折による結像
- 第3回 反射による結像光学系
- 第4回 光の干渉
- 第5回 光の回折
- 第6回 光の偏光