前回は、光の基本的な性質を紹介しました。光学機器には多くのレンズや反射鏡が用いられています。光学素子の結像性能は、光の位相情報が素子によってどのように伝達されていくかを計算することで正確に求めることができます。ただし、像の出来方の理解や、その位置を求める程度であれば、多くの場合、光線の幾何学的な性質のみを取り扱えば十分です。今回は、幾何光学を利用し、レンズの結像公式といくつかの組み合わせ光学系を紹介します。
第3回「屈折による結像」を解説していきます。
1. 球面による屈折
図 1 に、屈折面を利用して光を収束させる様子を示します。光源 S 側の媒質の屈折率をn₀とし、像点I側の媒質の屈折率をnとします。図では、n₀<nとして描いています。また、等位相面を実線で示しています。
点光源 S から出た発散球面波の光は境界面で屈折し、収束波となって像点 I に集光します。境界面で連続的に結ばれている等位相波面は、屈折後、像点 I に収束します。光源点 S から像点 I に至る全ての経路が等しい光学的距離を持てば理想的な結像となります。ただし、通常は球面で近似した屈折面が使われます。
・凸と凹の球面による屈折
図 2 の左に示すような入射光線に対して、凸の境界面(曲率半径 r₁>0の球面)、あるいは、図 2 の右の凹の境界面(曲率半径 r₂<0 の球面)における屈折を考えてみましょう。2 つの異なる媒質の屈折率を n₀ と n(n₀<n)とし、物点(O)、像点(I)、球の中心(C)が 1 つの直線上(光軸:x 軸)にあるものとします。また、物点から境界面までの距離を a、境界面から像点までの距離を b とします。
結像式を求める際は、以下に示すように、いくつかの符号の取り決めをします。
1:入射光線は左側から入射するとする
2:物体の位置を表す距離は境界面より左側にある場合は正、右側にある場合は負とする
3:像の位置を表す距離は境界面より右側にある場合は正、左側にある場合は負とする
4:入射光線に対して凸の球面の半径の符号は正、凹の球面の場合は負とする
光軸上の物点 O からの光線が球面上の点 B で屈折し、光軸上の点 I で像を結ぶものとします。物点が原点より右側になったり、像点が左側になったりすることもあります。ただし、符号の付け方を約束通り忠実に実行すれば、計算上問題は生じません。また、屈折面の入射点 B の座標 h(y 軸)は、x 軸より上方なら正、下方なら負とします。入射光線と屈折光線が光軸と成す角度(鋭角)をそれぞれ u、uʼ とし、境界面における入射角、屈折角を i、および iʼ とします。u、および uʼ の符号は形式的に座標の符号に基づいて決めます。このように定義した角を、一般に角度α(ラジアン)で表したとき、以下のように近似できるような光線群を近軸光線と呼びます。
tanα≈sinα≈α
ここで、3 つの三角形、ΔOVB、ΔIVB、ΔCVB に注目して結像式を求めます。点 B から光軸に垂直に下した線分と光軸との交点は、厳密には頂点 V に一致しません。しかし、近軸光線近似では、計算を簡単にするために、この 2 つの点が一致するものとして計算を行います。入射角 iと屈折角 iʼ をスネルの法則の近似式(n₀i=niʼ)に代入すると、以下のようになります。
物点と像点の位置が、境界面の曲率半径とどのような関係にあるかを見るには、以下のように、式を変形して見やすくします。
特に、n₀=1(真空、あるいは大気中)の場合、与式は以下となります。
得られる像は、凸の球面では物点から広がった光が境界面(屈折面)によって曲げられ、像点 I に収束します。この位置にスクリーンを置くと集光点が輝いて見えるので、この像を実像と呼びます。凹の球面(r₁ をr₂ に置き換える)では、図 2 の右から明らかなように像は収束せず、光は屈折面を介して点 I から来たかのように伝播(でんぱ)します。このような像 I を虚像と呼びます。
2. 薄レンズの結像公式
上で述べたように、球面の屈折面を利用すると実像、あるいは虚像が得られます。レンズの形はさまざまなものが考えられます。一般に厚みを無視できるレンズを総称して、薄レンズと呼びます。薄レンズには、中心部が周辺より厚い凸レンズと、中心部が周辺より薄い凹レンズに分けられます。以下に、薄レンズの結像公式の求め方を示します。
・凸レンズ
図 3 に示すように、一様な媒質中(屈折率 n₀)に置かれた凸レンズ(屈折率 n)を考えます。屈折率の大きさは n₀0)、出射側の曲率半径を r₂(<0)とします。物点 Oの位置を a、第一屈折面による像点 I₁ の位置を aʼ とし、第二屈折面による像点 I₂ の位置を b とします。
第一屈折面による結像式は前出の式より、以下のようになります。
次に、第二屈折面に対しては、像点 I₁ を物点と見なして計算を進めます。像点 I₁ の位置が屈折面の右側なので、物点が屈折面の右側にあるとしてマイナスの符号を付けます。第二屈折面における結像式は、屈折率n の媒質から屈折率 n₀ の媒質に向かうので、
となり、上の 2 つの式を両辺共に加え合わせると、以下の式が求められます。
ここで、b→∞のとき、
となります。f を焦点距離と呼び、凸レンズでは正になります。焦点距離 f を使ってまとめると、レンズの結像公式が得られます。
・凹レンズ
図 4 に示す凹レンズの結像式も、符号の取り決めを守ると、凸レンズと同じ式が得られます。ただし、レンズの曲率半径の符号は、入射側の曲率半径 r₁(<0)、出射側の曲率半径 r₂(>0)となります。
計算の過程において、凹レンズでは像点 I₁ の位置が第一屈折面の左側になるので、符号の取り決め 3 より、aʼ 自身が負の値になります。第二屈折面に対して、像点 I₁ は物点と見なされるので、符号の取り決め 2より、aʼ を正の値 -aʼ に変更します。この符号の変更によって、結像式が凸レンズと同じ形になります。同様にして、焦点距離 f が凹レンズでは負となることが分かります。
・光軸上にない物体の結像
これまで述べてきた結像の関係式は、光軸上にない物点に対しても、近軸光線近似が成り立つ場合には有効です。上に述べた特別な光線を利用すれば、作図によって像を求めることができます。これまでの議論から次の 3 つの光線の利用が便利です。
1:レンズの中心を通る光線はそのまま直進する
2:光軸に平行な入射光線はレンズを通った後に焦点を通る
3:物体側の焦点を通る光線はレンズを通った後に光軸に平行に進む
これらのうち、2 つの光線の進み方を利用すれば、作図によって容易に像の位置が決定できます。凸レンズの場合、物体の位置が焦点前後で極端に異なる像になります。図 5 の左は物体が焦点より左側にある場合で、得られる像は倒立の実像になります。物体の位置が焦点よりレンズに近い場合、図 5 の右のように正立の虚像ができます。
これらの像の横倍率(光軸に垂直な方向)は、像の長さの変化で表されます。元の物体の長さを l、像の長さを lʼ とすると横倍率 M は、M=lʼ /l=b/a と表されます。
凹レンズの場合にも、光軸近辺の物体の像は代表的な光線を利用して作図で得られます。凹レンズによる結像の様子を図 6 に示します。図からも明らかなように、物体の位置が凹レンズの左側にある場合、像は全て虚像になります。凹レンズによる像の横倍率も、焦点距離の符号を考慮すれば凸レンズと同じ式で表されます。
3. 屈折型望遠鏡
全6回で下記の内容を解説しています。
- 第1回 光の基本的性質
- 第2回 屈折による結像
- 第3回 反射による結像光学系
- 第4回 光の干渉
- 第5回 光の回折
- 第6回 光の偏光