前回は、金属における拡散現象論や拡散機構について説明しました。今回は、拡散によって原子が移動する距離、および相互拡散を解説します。また、金属の機械的性質についても取り上げます。
第4回もくじ
1. 拡散によって原子が移動する距離
前回、無限に長い棒(x=±∞)の1 カ所(x=0)に時刻t=0で全量M(単位面積当たり)の溶質を置いたときの濃度分布C(x、t)は、以下の正規分布の形となることを示しました。
ここでD は拡散係数です。x=0に置いた原子は、時間tの間にどのくらいの距離を拡散して移動するのか評価してみましょう。時間tを経過したときの、原子のx≥0のx 軸全領域における拡散量は、以下の式で表すことができます。
一方、x'から∞の領域での拡散量は、以下の式で表すことができます。
また、xの移動距離が、この0<x<∞の全領域の拡散量の1/1,000になる場合、以下のようになります。
この式を解くと、x' ~4√Dtになります。すなわち、x=0にあった初期濃度Mの原子は、時間tの間に4√Dtだけ拡散移動したことになります。このことを覚えておくと、非常に役立ちます。例えば、Fe中のH の拡散係数D は、50℃で10 -8 m 2 /s です。そのため、Hは1時間のうちに4√Dt~24mm 動いてしまいます。一方、Fe中のFeの自己拡散係数は800℃で約10 -16 m 2 /s なので、Feが24mm移動するには、10 8 時間(1億時間)もの時間を要します。
2. 相互拡散
濃度勾配下で起こる2 種以上の原子の拡散を、相互拡散と呼びます。2元系のA-B合金中でのA、およびBの固有拡散係数を、それぞれD A i 、D B i と書くと、相互拡散係数 D はA、およびBの原子分率x A 、x B を用いて、以下のように与えられます。
D A i 、およびD B i は、それぞれ自己拡散係数D A 、D B と以下の関係があります。
ここで、γ A は、固溶体中のA の活量係数です。上の2 つの式を、式1に代入すると、以下の式が得られます。これをダーケンの式といいます。
前回示したとおり、フィックの第2 法則の方程式は、拡散係数が濃度に依存しないときに解析的に解くことができ、拡散による濃度分布式が得られます。しかし、実際には拡散係数は濃度に依存して変化するので、解析的に解くことができません。
オーストリアの物理学者ルートヴィッヒ・ボルツマンは、濃度によって拡散係数が変化する際の拡散方程式を積分する方法を示しました。そこで、日本の物理学者である俣野仲次郎は、これを用いて、濃度分布の図形から相互拡散係数を求める方法を示しました。これを、ボルツマン-マタノの解析といいます。図1 のように、金属Aと金属B に対し、斜線部の面積が等しくなるように原点x=0 を決める方法です。この面をマタノの界面と呼びます。斜線部の面積が等しい場合は、A からB に対して拡散した原子数と、B からA に拡散した原子数が等しいことを示します。
また、拡散係数を求めようとする濃度c=c' において、濃度曲線に接線を引き、斜線部の面積とその勾配より、以下の式を用いて相互拡散係数を求めることができます。
図2 に、925℃におけるAuNi 合金の相互拡散係数の測定結果と、ダーケンの式に基づいて自己拡散係数と活量係数を用いて評価された相互拡散係数の計算値を示します。両者はよく一致しています。相互拡散係数は異なる合金組成の拡散対によって測定されたものです。例えば、▽はAuとAu-20at% 合金との拡散対から得られた測定値を表します。
3. 金属の機械的性質
全6回で下記の内容を解説しています。
- 第1回金属の結晶構造
- 第2回金属合金の凝固組織と状態図
- 第3回金属における拡散
- 第4回金属における拡散と金属の機械的性質
- 第5回鉄鋼の強化法
- 第6回軽金属合金の強化法