第3 回、第4 回では、電気めっきと化学めっきを解説しました。両処理共に、基材とは全く異なる皮膜を形成する表面処理でした。今回は、基材と薬品との化学反応を利用する化成処理と、電解反応を利用する陽極酸化について解説します。
第5回「化成処理と陽極酸化」を解説していきます。
1. 化成処理
化成処理は、化学反応のみで金属の表面に化合物層を生成させる表面処理です。金属を低温(常温~ 70℃)の薬品に短時間(数秒~数分)浸せきします。安価に行うことができ、小物の大量生産に適しています。
化成処理の種類は多く、リン酸塩処理を主体として、シュウ酸塩処理、クロメート処理、黒染め処理、不導態化処理などがあります。その多くは防錆(せい)をはじめ、塗装下地や塑性加工用の潤滑を目的に利用されています(表1)。
リン酸塩処理
リン酸塩処理は、適用材料や用途によって処理法が使い分けられています。最も一般的な処理法はリン酸亜鉛処理です。表面処理層は、リン酸亜鉛 Zn
3
(PO
4
)2・4H
2
O を主体とする含水リン酸亜鉛で構成されています(図1)。主な適用目的は、防錆(せい)や塑性加工する際の潤滑です。また、塗装の下地処理としても利用されています。リン酸亜鉛処理された鋼板はボンデ処理鋼板と呼ばれ、冷間圧延など塑性加工用に用いられています。
クロメート処理
クロメート処理は、電気亜鉛めっきには欠かせない表面処理です。第3回で説明したように、その目的は耐食性の向上です。色合いは、皮膜質量が小さい場合は透明光沢で、質量が大きくなるにつれ、淡黄色、黄色、緑色などの装飾効果も得られます(表2)。
装飾効果の一例として、以下に2 種類の有色クロメート皮膜の表面状態を示します(図2)。ただしクロメート処理は、特定第一種指定化学物質である六価クロムを使用するため、三価クロムへの転換が急がれています。
黒染め処理
黒染め処理は、ほとんどの鉄鋼材料に適用可能です。鉄鋼材料を水酸化ナトリウム NaOH(苛性ソーダ)水溶液などの高濃度アルカリ溶液に浸せきすることで、表面に黒色の緻密な四三酸化鉄 Fe
3
O
4
皮膜を生成させます。主な適用目的は着色(黒色)です。ただし、表面層は緻密な酸化物なので、耐食性の向上も期待できます。また皮膜表面に多数の微細孔が存在し、保油効果があるため、焼き付き防止を目的として工具類にもよく適用されています。
不働態化処理
不働態化処理はパッシベーションとも呼ばれ、機械加工や真空熱処理などで不働態膜が破壊されたステンレス鋼(SUS304 など)を対象として行う表面処理です。不働態膜は自然に放置しても生成します。人工的に生成促進するには、ステンレス鋼を硝酸 HNO
3
などの酸化性酸に浸せきします。これにより、表面に安定な不働態膜(クロム酸化物)を生成し、耐食性を復活させます。
2. 陽極酸化
酸水溶液などの電解液中で直流電解を行うと、陽極では酸化反応、陰極では還元反応を生じます。すなわち、陽極側の金属は金属イオンとして電解液中に溶出するか、表面に安定な酸化物層を形成します。この酸化物層を形成する現象を利用した表面処理が陽極酸化です。アルミニウム Al やチタン Ti の表面処理として利用されています。
アルミニウム Al の酸化皮膜やその製品は、アルマイト(商品名)という通称で呼ばれています。この陽極酸化の主な用途は、防食です。処理条件を調整することで硬質皮膜も得られるため、耐摩耗性も要求される機械部品や航空機部品などにも適用されています。
アルマイトの種類は電解液として使用する水溶液によって分類され、主なものに硫酸皮膜とシュウ酸皮膜などがあります。最も一般的なものは硫酸皮膜で、硫酸濃度15 ~ 20%の電解液を用いて、20 ~ 25℃で電解します。この場合、厚さ数μm の無色透明皮膜が得られます。色を要求される場合には、陽極酸化処理後に着色処理を行います(硫酸皮膜は無色透明、シュウ酸皮膜は黄色透明)。
着色したアルマイト皮膜の生成過程を、以下に示します(図3)。着色には、金属化合物を析出させる電解着色法や、無機または有機染料による染色法などが利用され、これらはカラーアルマイトの名称で多用されています。アルマイト皮膜は、表面に多数の細孔が存在するポーラス(多孔質体)です。そのため耐食性を重視したり、着色処理を施したりする場合は、封孔処理(孔をふさぐ処理)を行います。
アルマイトの封孔処理には、硫酸ニッケル NiSO 4 を添加した沸騰水による方法がよく利用されています。この沸騰水処理によって、皮膜表面では水和反応が生じ、水和物(Al 2 O 3 ・H 2 O)が生成されます。水和物が生成されると膨張するため、孔がふさがり耐食性は著しく向上します。ただし、耐摩耗性は低下します。そのため、耐摩耗性を重視する工業用硬質陽極酸化皮膜には、耐食性を重視しない限り封孔処理は適用しません。
3. 酸化皮膜による着色
全8回で下記の内容を解説しています。
- 第1回 表面処理の種類と選定方法
- 第2回 金属の腐食と防錆(せい)・防食法
- 第3回 電気めっき
- 第4回 化学めっき
- 第5回 化成処理と陽極酸化
- 第6回 PVDとCVD
- 第7回 硬質膜の種類と特性
- 第8回 溶融めっきと溶射