今回から8 回にわたり、金属製品を対象にした表面処理の連載を始めます。主に防錆(せい)・防食や耐摩耗性付与を目的とした表面処理を取り上げていきます。別の連載「金属熱処理の基礎知識(全7回)」では、表面熱処理について詳しく解説していますので、そちらも併せてお読みください。
第1回「表面処理の種類と選定方法」を解説していきます。
第1回もくじ
1. 表面処理とは? さまざまな表面処理の種類
材料の表面を研磨や塗装、めっき、熱・化学処理などの方法で処理加工することを「表面処理」と呼び、その種類は多岐にわたります(表1)。
表面処理による材料表面の改質形態には、除去加工と付加加工の2 つがあります。除去加工は、材料表面の付着物、もしくは材料そのものを削る処理方法です。付加加工のための前処理として利用される「洗浄」や「除錆(せい)」、表面の特定部分だけを物理的または化学的に削ってパターン化する「エッチング」、表面を鏡面化する「電解研磨」や「化学研磨」などが該当します。
付加加工は、除去加工以外の全ての表面処理が該当し、表面処理の本質といえます。付加加工は表面の改質現象の違いによって次の5 つに分類できます。
1:表面の化学成分は変わらず、金属組織が変わる付加加工
「高周波焼入れ」や「炎焼入れ」などの表面焼入れが該当します。表面焼入れは表面を急速加熱・急速冷却するだけで、表面の組成は全く変化しません。しかし、表面の金属組織は変化し焼入硬化するため、耐摩耗性および耐疲労性は著しく向上します。
2:表面で化学反応する付加加工
「陽極酸化」や「化成処理」などが該当します。アルミニウムを陽極酸化した場合、表面にアルミニウム酸化物Al2O3 層を生成して、耐摩耗性や耐食性が向上します。また、化成処理で得られるリン酸亜鉛層は、防錆(せい)、塗装下地、塑性加工時の潤滑などの効果を発揮します。
3:表面に他の物質を載せる付加加工
「めっき」、「塗装」、「ライニング」など、多くの種類の表面処理が該当します。材料表面に基材とは全く異なる処理層を形成する表面処理です。基材と処理層の境界が明確なのが特徴です。
4:表面から他の元素を染み込ませる付加加工
熱拡散によって他の元素が表面から染み込む表面処理で、「浸炭処理」や「窒化処理」が該当します。元素濃度は表面から内部に向かって減少し、基材との明確な境界は存在しません。
5:表面に他の物質を載せ、さらに基材との境界には元素を染み込ませる付加加工
「溶融亜鉛めっき」や「熱CVD」などが該当します。一般的な溶融亜鉛めっきの場合、純亜鉛によって形成された最表層の下に、亜鉛と鉄の合金層が生成されます。
前掲の表1 の「主な採用目的」欄を見ても分かるように、表面処理の目的は、複数存在します。これには、次のような理由があります。
・1 つの表面処理から複数の効果が得られるため
・同じ表面処理を施しても、対象となる製品や部品の使い方によって目的が異なるため・表面処理の種類(表1 の「中分類」)によって、採用目的が異なるため
2. 表面処理の選定方法
既存の製品や部品に対して、常にそのままの状態で表面処理ができるとは限りません。製品や部品を構成している材質や、寸法、形状、作業工程の変更が求められるなど、表面処理を利用するための条件はさまざまです(図1)。
表面処理により、優れた特性が得られるとしても、製品や部品との相性が悪く、また使用環境や使用条件に適合していなければ、その効果は半減してしまいます。それどころか、逆効果となった事例もありました。それを防ぐには、個々の表面処理の特性を十分に理解しなければなりません(表2)。
実際には、次に挙げる6つのチェックポイントに十分に留意した上で、表面処理実施の可否を決定し、最適な表面処理を選定します。
ポイント1:基材(製品や部品を構成している材料)と利用したい表面処理との相性はよいか?
銅製品には「めっき」は有効であるものの、「浸炭処理」や「窒化処理」との相性は悪く、不可とされています。
ポイント2:利用したい表面処理によって、基材の劣化は生じないか?
処理温度が高い場合、材料の種類によっては基材が軟化、脆化、変形などを生じる恐れがあります。
ポイント3:対象製品や部品の表面状態は、利用したい表面処理に適しているか?
表面が油脂類やさびなどで汚染している場合は、全ての表面処理の障害になるため、あらかじめ除去する必要があります。また対象製品の表面粗さは、「塗装」や「溶射」のように粗い方が有利な場合と、「PVD」のように滑らかな方が有利な場合があります。
ポイント4:対象製品や部品の形状は、利用したい表面処理に適しているか?
形状が複雑な製品や、細孔内面や隙間側面などに表面処理を施さなければならない場合、「電気めっき」や「PVD」によって、全面を均一に処理することは難しく、不可とされています。
ポイント5:利用したい表面処理は、処理対象となる製品や部品の使用環境に適合しているか?
「高周波焼入品」は、使用温度が200℃以上になると軟化現象を呈するなど、注意が必要です。
ポイント6:利用したい表面処理によって得られる効果は、コスト面で過剰品質にならないか?
表面処理を施すことで効果が得られる半面、当然コストアップになります。モノづくりにおいては、見過ごすことはできません。
いかがでしたか? 今回は、表面処理の種類と、表面処理の選定方法を解説しました。次回は、金属製品の腐食現象や防錆(せい)、防食のための金属被覆法について解説します。お楽しみに!
全8回で下記の内容を解説しています。
- 第1回 表面処理の種類と選定方法
- 第2回 金属の腐食と防錆(せい)・防食法
- 第3回 電気めっき
- 第4回 化学めっき
- 第5回 化成処理と陽極酸化
- 第6回 PVDとCVD
- 第7回 硬質膜の種類と特性
- 第8回 溶融めっきと溶射