第3 回~第5 回では、水溶液を用いた湿式表面処理を紹介しました。今回からは、乾式表面処理を解説します。今回取り上げるのは、真空や熱を利用したドライコーティング技術、PVD(物理蒸着:PhysicalVapor Deposition)およびCVD(化学蒸着:Chemical Vapor Deposition)の、主に機械部品や工具類を対象とした硬質膜の生成技術です。
PVD とCVD は、自社製品用の内製加工から受託加工まで、広範囲の分野で利用されています。内製加工は、レンズやフィルタなどを対象とした光学特性の付加や、圧電素子やコンデンサを対象とした電気的特性の付加など、膜自体の機能性を利用する際に多く用いられます。受託加工は切削工具や金型、機械部品に多く用いられます。共通の採用目的は、耐摩耗性および摺動特性の付与です。
第6回「PVDとCVD」を解説していきます。
第6回もくじ
1. PVD による成膜法
PVD(Physical Vapor Deposition)は物理蒸着とも呼ばれる成膜法です。真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティングの3 つの種類があります。
真空蒸着
真空蒸着は、高真空(10
-2
Pa 以下)で蒸発材料を加熱して蒸発させ、処理物に皮膜を堆積させます(図1)。
蒸発源の加熱方式には、抵抗加熱と電子ビーム加熱があり、装置規模や蒸発材料によって使い分けられます。抵抗加熱方式は、タングステンなど高融点金属製のボート状のヒータを使い、蒸発材料を直接加熱します。または、蒸発材料を入れたセラミック製るつぼをヒータで加熱します。真空蒸着はガラスやプラスチック製品への適用例が多く、アルミニウム蒸着したミラーやコンパクトディスク、レンズへの反射防止膜、フィルタなど光学部品への酸化物薄膜などの生成に利用されています。
スパッタリング
スパッタリングの代表的な種類には、直流二極スパッタリングや、マグネトロンスパッタリングなどがあります(図2)。
平行平板型の直流二極スパッタリングでは、イオン衝撃によって陰極側のターゲットから叩きだされた原子または分子が、陽極である処理物に叩きつけられて堆積し、皮膜を形成します。マグネトロンスパッタリングでは、ターゲットの裏面にマグネットを配置し、成膜速度の高速化を図ります。現在では、チタンTi 系やクロムCr 系など硬質膜の生成にも利用されています。
イオンプレーティング
イオンプレーティングは、真空中で加熱蒸発した金属や化合物のガスをイオン化し、負の電圧を印加した処理物に叩きつけて皮膜を形成します。中空陰極放電法(HCD 法:Hollow Cathode Discharge)とアーク蒸発法は、チタンTi 系硬質膜(TiN、TiAlN など)やクロムCr 系硬質膜(CrN、CrAlN など)の生成によく利用されています(図3)。
イオンプレーティングは他のPVD 法に比べて皮膜の密着性に優れ、使用条件の厳しい切削工具や金型などにも適用されています。装置のインライン化や膜種の多様化が進み、現在では機械部品や自動車部品などにも応用分野は広がっています。
2. CVD による成膜法
全8回で下記の内容を解説しています。
- 第1回 表面処理の種類と選定方法
- 第2回 金属の腐食と防錆(せい)・防食法
- 第3回 電気めっき
- 第4回 化学めっき
- 第5回 化成処理と陽極酸化
- 第6回 PVDとCVD
- 第7回 硬質膜の種類と特性
- 第8回 溶融めっきと溶射