前回は、金型や切削工具などに用いられる工具鋼の「焼入れ」と「焼戻し」について解説しました。今回は、ステンレス鋼の熱処理について解説します。ステンレス鋼は、クロムCr を11%以上含有した鋼です。耐食性を最重視する製品や部品に広く使用されています。金属組織の違いによって、「オーステナイト系」、「オーステナイト・フェライト系(二相系)」、「フェライト系」、「マルテンサイト系」および「析出硬化系」に分類されます(表1)。
第6回「ステンレス鋼の熱処理」を解説していきます。
1. オーステナイト系ステンレス鋼の熱処理
オーステナイト系ステンレス鋼は、クロムCr の他に数%以上のニッケルNi を含有し、磁石に付かないという性質があります。また、他の系に属するステンレス鋼よりも耐食性に優れています。ただし使用条件によっては、さらに高い耐食性が求められる場合があります。
JIS で規定されたオーステナイト系ステンレス鋼には、クロムCr やニッケルNi を増量したものや、モリブデンMo、銅Cu、チタンTi などを追加添付したものもあります。オーステナイト系ステンレス鋼は切削加工が困難なため、硫黄S を添加して被削性を改善したものもあります。オーステナイト系ステンレス鋼の中で最も使用量が多く、代表的なものは「SUS304」です。SUS304 を使用したステンレス鋼製品には、「18-8」という刻印や印刷が付されています。
オーステナイト系ステンレス鋼を用いた製品で、よく問題になるのは、「応力腐食割れ」と「粒界腐食」です。応力腐食割れは、塩素イオンを含む中性環境下で使用する場合、材料に「引張応力」が存在すると発生します。引張応力は、曲げ加工など塑性加工によって生じます。応力腐食割れを防止するには、固溶化熱処理を施し、塑性加工後の残留応力を除去します。
粒界腐食の事例には、溶接したSUS304 製配管における熱影響部からの液漏れなどがあります。特に600 ~ 800℃の温度領域で加熱されると、クロム炭化物Cr 6 C 23 が粒界析出し、隣接部がクロムCr 欠乏状態になることで、耐食性が劣化します(図1)。
粒界腐食を防止するには、固溶化熱処理を施します。1,000 ~ 1,150℃の温度領域で加熱後、急冷することで、炭化物を固溶します。(図2)
オーステナイト系ステンレス鋼をばねとして用いる場合、固溶化熱処理(1,000 ~ 1,100℃で加熱後、急冷(一般には水冷)する操作)後に「冷間圧延」や「引抜加工」を施して、加工硬化させます。ただし加工硬化したままでは、ばね特性が不十分なため短時間でへたってしまいます。そのため、ばね特性を改善する目的で、400℃程度での「焼なまし」を行うことが一般的です。
2. マルテンサイト系ステンレス鋼の熱処理
マルテンサイト系ステンレス鋼は、焼入れ・焼戻しによって硬化する唯一のステンレス鋼です。JIS では「13Cr 鋼」と「17Cr 鋼」が規定されています。耐摩耗性と同時に、耐食性も求められる医科用機械器具や刃物、プラスチック金型などに多用されています。
マルテンサイト系ステンレス鋼の標準的な焼入温度は1,000℃前後で、焼入れおよび低温焼戻しによって、マルテンサイト組織が得られます。焼入温度が上昇するに従い、焼入硬さは高くなります。ただし鋼の炭素量が多い場合、焼入温度が1,100℃以上になると焼入硬さは低くなります。これは、残留オーステナイト(γR)量の増加が原因で起こる現象で、「サブゼロ処理(焼入れ後に鋼材を0℃以下に冷却する処理方法)」により回復が可能です(図3)。
マルテンサイト系ステンレス鋼をばねとして利用する場合、一般的には、「SUS420J2」に焼入れ・焼戻しを施します。求められる硬さ区分に応じて焼入温度を900 ~ 1,050℃の領域で調整し、その後、300 ~ 400℃で焼戻しを行います。
3. その他のステンレス鋼の熱処理
全7回で下記の内容を解説しています。
- 第1回 新たな特性を引き出す熱処理の種類
- 第2回 鉄鋼材料の種類と性質
- 第3回 焼なましと焼ならし
- 第4回 機械構造用鋼の焼入れ・焼戻し
- 第5回 工具鋼の焼入れ・焼戻し
- 第6回 ステンレス鋼の熱処理
- 第7回 表面熱処理の種類