前回までは、1つの物体が振動的に運動する場合を説明しました。今回は、複数の物体がお互いに影響し合いながら振動する状況について解説します。この状況では、モード、あるいは振動モードという概念が登場します。また、複数の固有振動数における共振と、反共振という現象についても紹介します。
第4回「多自由度系と振動モード」を解説していきます。
第4回もくじ
1. 多自由度系の例と運動方程式
図1のように、3つの質点(質量を持ち、大きさは無視できる物体)が、ばねとダンパで接続された系を考えましょう。このような系を3自由度系と呼び、多くの質点がある系をまとめて多自由度系と呼びます。
図1のそれぞれの質点について運動方程式を書くと、下記のようになります。
長い式が続き、難しそうに見えるかもしれません。しかし、行列とベクトルを使うことによって、この式を単純な式に落とし込むことができます。まず、式1は下式のように書き直すことができます。
ここでは、位置、速度、加速度、力とそれ以外を、それぞれグループ化して行列とベクトルに分けています。さらに、上式で登場する行列とベクトルを下記のような記号に置き換えます。
ここで太字は行列、またはベクトル(縦ベクトル、あるいはn 行1 列の行列)を表します。すると式2 は、以下のようなベクトル形式の微分方程式に落ち着きます。
ここでM、C、Kは、それぞれ慣性行列(または質量行列)、粘性行列、剛性行列と呼ばれます。また、pは変位ベクトル、fは外力ベクトルと呼ばれます。
ここで重要なのは、式1のように複雑な式が、行列とベクトルを使うことによって、式3のような単純な形に書き直すことができるということです。都合のよいことに、式3の形の数式の取り扱い方は、数学的に確立しています。ここでは、質点が3つの場合(3自由度系)を考えました。しかし、質点の数が増えても、行列とベクトルの次元が大きくなるだけで、式3の形は変わりません。図1のような系に限らず、さまざまな機械システムが、式3の形で表現することができます。
2. 自由振動と振動モード
図1の系の特殊な場合を考えてみましょう。具体的には、減衰がなく(あるいは減衰の影響が無視できるほど小さく)、かつ外力が加わらない場合です。このとき、3つの質点それぞれが振動(自由振動)するのが容易に想像できると思います。その系の運動方程式は、以下のように表されます。
多自由度系の式3において、粘性行列CをO(ゼロ行列)として、外力ベクトルf を0(ゼロベクトル)にしたものが式4です。
微分方程式4の解について考えます。途中変化を飛ばして結論を述べると、式4の解は下記のようになります。
p=ϕ 1 A 1 cos(ω 1 t+α 1 )+ϕ 2 A 2 cos(ω 2 t+α 2 )+ϕ 3 A 3 cos(ω 3 t+α 3 )・・・式5
ここに出てくる{ω 1 ,ϕ 1 }、{ω 2 ,ϕ 2 }、および{ω 3 ,ϕ 3 } は
(K-ω i 2 M)ϕ i =0 (i=1,2,3)・・・式6
を満たす正の実数とベクトルのペアです。また、A 1 、α 1 、A 2 、α 2 、A 3 、およびα 3 は、任意の(初期条件で決まる)定数です。
式5が、なぜ式4の解であるのかという理由は、式5を式4に代入すると等号が成立するからです。より親切な導出方法の説明は、他の教科書やウェブサイトなどが参考になります。ただし一般に、微分方程式の解は、結果オーライと考えて問題ありません。質点の数がn個であるとき、行列Kと行列Mはn次元正方行列になり、対{ω i ,ϕ i }はn個存在します(つまり、iは1からnまでの整数です)。そして、式5はn個の項の総和になります。なお通常は、n個あるω i の値に小さい順に番号を振って、ω i を第iモードの固有角振動数と呼びます。それに対応するϕ i は、第iモードのモードベクトルと呼びます。
線形代数に慣れている読者は、式6を、以下のように書き直したほうが理解しやすいかもしれません。
(M -1 K)ϕ i =ω i 2 ϕ i (i=1,2,3)・・・式7
この式は、正方行列M -1 Kの固有値がω i 2 、それに対応する固有ベクトルがϕ i であるということを表しています。
ここで、式5の振る舞いを見ていきます。式5より、3自由度系の自由振動は、3つの振動の和(重ね合わせ)であることが分かります。その3つの振動のそれぞれを、モード、あるいは振動モードと呼びます。それぞれの振動モードがどういうものなのかは、ベクトルϕ i の中身を見れば分かります。3自由度系のϕ i は3次元ベクトルで、3つの数字が並んでいます。これらの3つの数字が、3つの質点の振幅の比を表しています(図2)。
イメージしやすくするために、具体的な数値を入れてみます。図1の系で、ばね定数を全部1,000N/mとし、質量は左端から1kg、1kg、2kgとします。このとき、剛性行列と慣性行列は下記のようになります。
これらの行列から、各モードの固有角振動数とモードベクトルを求めると下記のようになります。
これらの数値から、この系は、図2に示すような3つの振動モードを重ね合わせた自由振動をすることが分かります。それぞれのモードにおいて、モードベクトルϕ i の3つの成分が、そのまま3つの質点の振幅比になっている(符号が-であれば増減が逆転している)ということに着目してください。
実際の振動は、これらの3つの振動のモードが混ざったものになります。図3に例を示します。3つのモードを混ぜる比率によって、さまざまな波形の振動が発生するということが分かります。周期運動ですらない、不規則な運動をしているようにも見えます。しかし、これらの不規則に見える波形も、図2の3つの振動モードに分解できるということが重要です。
3. 強制振動と共振・反共振
全6回で下記の内容を解説しています。
- 第1回 運動方程式
- 第2回 自由振動
- 第3回 強制振動と周波数応答
- 第4回 多自由度系と振動モード
- 第5回 連続体の力学
- 第6回 剛体とリンク機構の力学