前回は、顧客重視のマーケティングとして、市場に新製品を出していく際の企業の取り組みを紹介しました。マーケティング戦略では、セグメンテーション、ターゲティング、そしてポジショニングが重要になります。これらをSTPと表現することもあります。今回は、市場のSTPとの関わりについて解説します。
第4回「市場の選定」を解説していきます。
第4回もくじ
1. セグメンテーションとは
STP(Segmentation、Targeting、Positioning)とは、市場を細分化し、細分化した市場の中でどの市場を狙うかを決め、自社の立ち位置を決めるフレームワークです。図1にSTPを示します。
セグメンテーションは、市場の細分化を指し、市場において同じようなニーズを持ち、マーケティングアプローチに反応する集団に分けることをいいます。STPの最初の項目Segmentationに該当します。消費者のニーズを全て満たすような製品の提供は、コンセプトが不明確で訴求効果(買い手への訴えかけ)が低下します。ニーズが多様化した現代において、不特定多数に向けたマーケティングを行うことは効果的ではありません。自社にとって最適なセグメントを見つけ、戦略を立てることが必要となっています。セグメンテーションでは、セグメントの有効性を判断し、セグメンテーション変数をもとに分類していきます。
・セグメントにおける有効性の判断
自社のターゲットとして最適な層を選ぶために、測定可能性、実質性、到達可能性、実行可能性の4つの基準からセグメントの有効性を判断することが大切になります。闇雲に細分化を行っていても最適な層は見つからないため、この4つを確認してセグメントを行います。
測定可能性:
測定可能性とは、そのセグメントの市場規模と購買力を容易に測定することができるかどうかという可能性です。ターゲットの反応が測定できればその後の方針に反映できるため、重要な指標となります。
実質性:
実質性とは、事業を行う上で、最低限の利益を得られ、事業を持続的に成長させられる可能性を示します。
到達可能性:
到達可能性とは、そのセグメントへ効果的に到達できる可能性です。例えば、海外向けの製品ならば言葉の壁を超える必要があり、費用についても検討しなければなりません。目標を細かく絞り込む程、到達の難易度は上がる傾向にあります。
実行可能性:
実行可能性とは、そのセグメントに向けて、効果的なマーケティング戦略を行うに値する能力や資源が備わっているかどうかという可能性です。
まず、ターゲットとなる市場の規模の大きさが、自社にとって十分に成長できるものかどうかということを検討します。大きすぎても、他社の参入が多くなるため、競争が激化し成長や収益が見込めないという結果になってしまいます。一方、競争を避けるために小さすぎる市場を選定してしまうと、需要も利益率も低くなることになります。ただし、今後の成長性が見込まれると評価されれば、魅力的な市場ということができます。その他、市場が自社の目標に合致しているか、実行するのに優位性(経営資源など)は備わっているかというのが評価されます。
・セグメンテーション変数
セグメンテーションを行うには、市場や顧客をどのように分類するかの切り口が必要となります。その切り口を変数と呼びます。地理的変数、人口統計的変数、心理的変数、行動的変数の4つを表1に示します。表の上にいくほど外面的で把握しやすく、下にいくほど内面的で把握が困難である傾向があります。
地理的変数:
地理的変数は、ジオグラフィック変数ともいい、エリアや都市規模、人口密度、気候など地理的な要素を使ってセグメンテーションを行う方法です。例えば、地方であれば、車社会であるため交通量を考慮して国道寄りに出店した方が有利である一方、都市部では、主な交通量は電車であるため、駅の近くに出店する方が利用者の呼び込みには有利です。最近では、オンラインによる販売が増えているため、それほどまで地理的変数にこだわらなくてもよいケースも増えています。
人口統計的変数:
人口統計的変数は、デモグラフィック変数ともいい、年齢や性別、所得、職業、家族ライフサイクルなどにより分類する方法です。子育て世帯に向けて塾や習い事など入会の広告を出したり、高所得者に向けて高級物件の案内などを送るといった戦略が考えられます。また、F1層(20 ~ 34歳の女性)やM1層(20 ~ 34歳の男性)というように顧客の性別や年齢層に分け、行動を分析したりする手法もあります。
心理的変数:
心理的変数とは、サイコグラフィック変数ともいい、社会階層、ライフスタイル、性格といった心理的な面を基準とした分類です。例えば、健康志向の消費者向けに無農薬野菜を販売することなどが該当します。
行動的変数:
行動的変数は、ビヘイビアル変数ともいい、ターゲットの行動パターンからセグメンテーションを行う手法です。購入履歴や使用状況、購入経路や頻度、ロイヤルティなどを切り口とします。例えば、毎朝コーヒーを飲む習慣のあるビジネスマンを対象とした、朝専用の缶コーヒーなどが該当します。また、ウェブサイトの閲覧ログやメールの開封ログなど行動に関するデータを利用し、マーケティングオートメーション(MA)によってセグメントに活用することなどが可能になってきています。
2. ターゲティングとは
ターゲティングとは、細分化した中からどの市場を狙うかきめることをいいます。大企業であっても、経営資源には限りがあります。このため、全ての市場をカバーするのではなく、魅力的な市場を狙うことが重要です。少数にターゲットを絞り、市場機会の発見や効果的なマーケティング・ミックスを策定することにより、戦略的にマーケティングとして進めることができます。
マーケティング・ミックスについては次回で詳細に解説を行います。4P(Product、Price、Place、Promotion)といわれるキーワードから成ります。
製品政策(Product):製品群の設定
価格政策(Price):価格表示と利益創出
チャネル政策(Place):流通の効率化(ロジスティック)
プロモーション政策(Promotion):PRの最適化
ターゲティングには、無差別マーケティング、差別的マーケティング、集中的マーケティングの3種類の方法があります。
無差別マーケティング:
無差別型マーケティングとは、セグメンテーションで分類した市場をあえて無視して、さまざまな市場に共通の商品を提供する戦略です。市場向けに単一製品、単一のマーケティング・ミックスのみを用意するため、経済性の利点がある一方、多様化社会の中で、顧客のニーズを満たせないというリスクがあります。
差別的マーケティング:
差別的マーケティングとは、複数の市場に対して、それぞれ異なる商品を提供する戦略です。マーケティング・ミックスの展開により市場に適した商品を提供するため、多様性のある顧客のニーズを満たせる可能性は高くなるものの、商品種類の複数化により、製品改良コスト、生産コスト、プロモーションコストなどが増加することが考えられます。
集中的マーケティング:
集中型マーケティングとは、ごく少数のセグメントにターゲットを絞る戦略です。マーケティング・ミックスの展開により狙う市場を絞るため、高級ブランドやニッチな商品を販売するなど、コアなファンを抱える企業によく見られます。
注目すべき点は、購買決定要因(KBF:Key Buying Factor)です。製品が発売された当初にはKBFは単純であり、セグメンテーションもシンプルです。市場が成長するにつれて、顧客のニーズも複雑化し、多様化してきます。上に挙げた3つの方法は、自社または事業部として、どのセグメントを絞り込むのかを考えるためのフレームワークです。次に競争上自社が優位になるか、自社の経済性、理念・目標・戦略に合うかで考慮します。
3. ポジショニングとは
全6回で下記の内容を解説しています。
- 第1回 マーケティングの基本
- 第2回 マーケティングと分析
- 第3回 顧客重視のマーケティング
- 第4回 市場の選定
- 第5回 マーケティングミックス
- 第6回 DXとマーケティング