前回は、マーケティング戦略で用いられる各種の分析方法について説明しました。今回は、顧客重視のマーケティングと題して、市場に新製品を出していく企業の取り組みを考えていきます。企業の得意とする技術を前面に押し出すだけでは、市場(顧客)は受け入れないかもしれません(プロダウトアウト)。それに対して市場のニーズを分析調査して、顧客の求めるものをタイムリーに提供すれば売れ行きもよくなるでしょう(マーケットイン)。要は、顧客のニーズと自社のコア技術をしっかり見定めることが必要です。
第3回「顧客重視のマーケティング」を解説していきます。
1. 顧客重視とは
顧客重視とは、顧客が求めているものを調査し、それに基づいた製品を開発するマーケティング手法です。マーケットインともいいます。顧客にとって何が必要か、また多様化するニーズは何かなどを探ることが重要です。
ISO品質マネジメント7原則(ISO9001)では、以下の7項目から構成されており、第一原則に顧客重視があります。
1:顧客重視
2:リーダーシップ
3:人びとの積極的参画
4:プロセスアプローチ
5:継続的な改善
6:客観的な事実に基づく意思決定
7:関係性管理
1:顧客重視には、「組織はその顧客に依存しており、そのために現在および将来の顧客ニーズを理解し、顧客要求事項を満たし、顧客の期待を超えるように努力すべきである」と定義されています。しかし、7:関係性管理では、「相互の関連するプロセスを一つのシステムとして明確にし、理解し、運営管理することが組織の目標を効果的で効率よく達成することに寄与する」と定義されています。
つまり、原則1では、企業に利益をもたらしてくれる顧客を重視し、企業は努力すべきであると説きながら、原則7では、プロジェクトに関わる人々が協力し合い目標を達成することが大切だといっています。プロジェクトに関わる人々とは、マーケティング用語で利害関係者(ステークホルダー)のことを指します。利害関係者には、顧客を含みます。その他、株主(投資家)、従業員、取引先・仕入先、地域社会・地域住民などの非常に広い範囲で関わる人たちも指しています(図1)。
ISO品質マネジメント7原則では、企業が顧客のために犠牲になるというのではなく、顧客の要望を徹底的に把握し、利害関係者たち全てと良い関係を築き、品質に反映するべきであると示しています。企業独特の伝統やルールを守ることに固執しすぎたり、競合他社への意識が強すぎても顧客重視は達成できず、品質を高めることもできません。
2. 顧客のニーズ、志向はどのように知ることができるのか?
顧客のニーズや志向を知るためには、顧客との良好な関係を構築することが大切です。従来からあるモニター募集やインタビュー、アンケートなどでは、企業と顧客が時間を共有し、そこで顧客の声を集める方法として有効です。しかし、これらの方法では、数に限りがあります。また、質問項目は企業側が用意するものが多く、得られる情報も限定的なものになるでしょう。前述の、「顧客の期待を超える」とは、まだ顧客が気付いていないニーズに応えるということでもあります。企業は、どのようにしてこの顧客の期待を超えるニーズに応えていくのでしょうか。ここでは、CRMとソーシャルリスニングの2つについて説明します。
・CRM
CRM(Customer Relationship Management:顧客管理)とは、顧客との関係性やコミュニケーションを管理し、顧客と企業の相互利益を向上させることを目指すマーケティング手法です。システムやツールなどで顧客の連絡先や購入履歴、フォーマットやSNSでのやりとり、クレームなどまで管理でき、体系化して把握できます。こうした情報の一元化により、顧客をより深く理解し、営業活動の向上の他、経営戦略などに役立てられるようになっています。
・ソーシャルリスニング
ソーシャルリスニングとは、SNSなどに発信された日常的な会話や行動データなどの情報を収集して分析し、商品開発やサービスに生かしていく方法です(図2)。SNSが普及されるまで、情報の発信はほぼ企業側からされていました。そのため、製品開発においては、企業重視(プロダクトアウト)で進められてきました。しかし、SNS普及後は、個人個人が世界に向けて情報を発信するようになり、企業側の施策は、顧客重視(マーケットイン)に向けられるようになりました。
ソーシャルリスニングでは、何気ない日常での本音などが含まれており、顧客の顕在ニーズだけでなく、潜在ニーズも探ることができます。また、顧客理解にスピードが求められている昨今では、より必要性が高くなることでしょう。
CRMやソーシャルリスニングにより、さまざまな方向から細かく分析することが可能です。例えば、RFM分析で、Recency( 最近の購入日)、Frequency(利用頻度)、Monetary(金額の大きさ)を分析したり、CTB分析で、Category(カテゴリ)、Taste(テイスト)、Brand(ブランド)を分析することができます。また、顧客のロイヤルティを基準にグループ分けをしたり、顧客がどのような商品を購入するのか購入予測を行うことなどもできます。ロイヤルティの高いユーザーには、特別なベネフィットを与えることで、より愛着心や信頼を高めるマーケティング手法を実施する企業も増えています。マーケティングにおいては、「100万人が1個買うよりも、1万人が買い続けてくれるものを目指す」ことだといわれます。これをファンマーケティングといいます。顧客が製品を愛してくれて、ロイヤルティを持ってくれることがマーケッターにとっては望外の喜びかと思います。
3. 顧客重視のメリットとデメリット
全6回で下記の内容を解説しています。
- 第1回 マーケティングの基本
- 第2回 マーケティングと分析
- 第3回 顧客重視のマーケティング
- 第4回 市場の選定
- 第5回 マーケティングミックス
- 第6回 DXとマーケティング