前回は、海洋プラスチック汚染の現状と今後の見通しについて、正しい情報発信と確かな情報の見極めが大切であることを説明しました。今回は、最終回です。世界の海を海洋プラスチック汚染から守るために、これから私たちにできることを考えてみます。
第6回「私たちにできること」を解説していきます。
1. 一人ひとりのモラルの問題ではない
連載第1回にも述べたとおり、現在、日本では年間で約900万トンのプラスチックを廃棄しています。ただ、そのほとんどは焼却や埋め立て、あるいは再利用を経て適正に処理されます。日本における廃棄プラスチックの流れを、図1に示します。
ここで、どの処理方法がよいのかといったことは、海洋プラスチックごみの軽減において本質的な議論にはなりません。年間で10万トン(すなわち廃棄量の1~2%)規模のプラスチックが、どの処理経路にも乗らず、環境中に流出することこそが問題です。例えば、中国や東南アジアで今後、適正な処理が進んだとしても、単純に人口比を掛ければ年間で100万トン超の流出となってしまいます。これを世界で合わせれば、数百万トンを超えるでしょう。
一般論として、廃棄プラスチックの適正処理を99%から100%にまで高めることは、コストを考えても困難です。私たちは、「プラスチックごみは環境中に漏れるもの」といった前提に立つ必要がありそうです。特に、処理が個人に委ねられるシングル・ユース(使い捨て)プラスチックの環境流出をゼロにするという考えは、いかにも楽観的すぎるでしょう。
海洋プラスチックごみ問題が、「プラスチックの問題ではなく、一人ひとりのモラルの問題だ」との意見には賛成できません。最大の問題は、消費され廃棄されるプラスチックの量が膨大になりすぎて、わずか1%の漏れが積み上がっていくことにあるのです。漂流ごみやマイクロプラスチックはもちろん、大型の海岸漂着ごみであっても、いったん漏れてしまえばその回収は容易ではありません。そうであれば、私たちは、焼却やリユース・リサイクルに過大な期待を寄せず、社会に出回るプラスチックの総量を縮小させるより他ないでしょう。数値目標を設定した上で、プラスチックの使用量削減を行うことが重要です。
2. プラスチックは富裕層の贅沢品ではない
世界の海を海洋プラスチック汚染から守るためには、プラスチック使用量を制限することを考えなければなりません。しかし、プラスチックが清潔な容器や食器、あるいは包装材を提供し、不衛生な生活環境を改善している事実を無視するべきではありません。ペットボトルは、誰にでも清潔で安全な水を提供します。軽くて輸送コストが安く保存も利くため、地球上のどんな場所でも届けることができます。ペットボトルがなくなってしまうと、安全な水が行き渡ることが難しくなり、汚染された飲料水により病人が出る国もでてくるでしょう。食品包装にプラスチック包装材が普及した理由は、それが安価で、かつ清潔であるためです。これらがなくなってしまえば、安全な食事を人々に届けることが滞ってしまいます。
性急なプラスチックの削減は、経済的な弱者であるほど大きな負担となるでしょう。弱者がプラスチックを使えないというリスクを回避するため、一定の配慮が必要です。社会におけるプラスチックの使用削減は、発展途上国を巻き込んだ持続的な削減への合意形成を経てのち、科学的な証拠に基づいて実施されるべきでしょう。海洋プラスチック汚染は、問題の構造が気候変動と類似しています。ともに、人間が排出する廃棄物質が地球環境を変質させる問題です。従って、気候変動と同様に、科学的な証拠に基づいて弱者に配慮しつつも、確実に原因物質の削減に取り組む必要があります。
3. 私たちにできること
全6回で下記の内容を解説しています。
- 第1回 海洋プラスチック汚染とは
- 第2回 海洋プラスチック汚染の問題とは
- 第3回 海洋プラスチック汚染の現状1
- 第4回 海洋プラスチック汚染の現状2
- 第5回 社会に事実を伝えること
- 第6回 私たちにできること