前回は、世界の海に漂うマイクロプラスチックについて、その調査の現状と50年後の予測を解説しました。海洋プラスチック問題を軽減するために、社会は「減プラスチック」に向かって舵(かじ)を切る必要があります。何よりプラスチック汚染の現状と見通しを市民が共有できるよう、正しい情報の発信に努めることが大切です。ところが、インターネット空間を見渡すと、減プラスチックに賛同する側、あるいは逆の立場側からであっても、必ずしも正しい情報が流れているとはいえません。今回は、これまで述べてきたような研究成果や技術的な話題から離れ、社会に広がる誤解と(今のところ最も)確かと思われる情報について説明します。
第5回「社会に事実を伝えること」を解説していきます。
1. レジ袋の有料化は無意味?
店舗で配布されるレジ袋は2020年から有料化されました(図1)。シングルユース(使い捨て)プラスチックの削減に向けて、いよいよ日本で本格的な取り組みが始まったことを、私たち研究者も高く評価しています。
ところが、これを受けてインターネット上に流れる情報には、疑わしいものが少なくありません。例えば、海洋ごみに占めるプラスチック袋の割合は0.3%に過ぎず、レジ袋有料化は無意味という記事を見かけたことがないでしょうか。情報源は、どうやら環境省のウェブサイトにある海岸調査結果のようです(参考:環境省、海洋ごみをめぐる最近の動向、平成30年9月、P.4)。
ただ、これは都市部から離れた10カ所の各海岸で、2016年に1度ずつ行われた調査によるものです。そもそも、このような数値は年ごとに大きく変わります。同じ環境省が行った7カ所の海岸調査では、切れ端を含めたプラスチック袋の個数比は、4年間の平均で6%程度に増えています(参考:磯辺篤彦、海洋プラスチック問題の真実―マイクロプラスチックの実態と未来予測、DOJIN選書86、化学同人、2020)。
さらにデータ数を増やせば、この割合はより確かな数値に近づくでしょう。世界の川から海岸、そして深海に至る1,200万件の目視調査を集計したMorales-Caselles et al.によれば、世界の水域で見つかった投棄ごみのうち、プラスチック袋の個数比は最大の14%を占めていました(参考:C. Morales-Caselles et al., Nature Sustainability, 2021)。
このような高い割合を見れば、レジ袋の有料化は、海洋プラスチックごみの削減のため合理的な判断だったといえます。ほとんどの人は、毎日のように買い物をします。2020年以降、毎日レジ袋の有料化を意識することで、海洋プラスチックごみ問題に対する人々の関心が高まったことも大きな効果でした。
2. 日本の1人当たりのプラごみ廃棄量は世界 2 位?
使い捨てプラスチックの削減に賛同する立場からも、疑わしい記事が配信されています。広く出回っている情報に、「日本は1人当たりのプラごみ廃棄量で世界2位」というものがあります。典拠は、国連環境計画が発行した報告書だとされています(参考:国連環境計画、Single-use-plastics:A Roadmap for Sustainability、Figure1.5、2018、P.5)。正確には、プラスチック製の容器包装材の廃棄量が、1人当たりに換算して日本は世界で2番目に多いという内容です。
ただ、この記事は査読論文を典拠にしたものではありません。同報告書には、廃棄量の根拠として「多くのデータセットを集めた」とあるだけです。このようにずさんな算定根拠では、見積もりを信じることなどできません。図の下には、Geyer, Jambeck, and Law, 2017と引用文献のように書き足されているものの、そもそも、この論文はプラスチック廃棄量を国別に集計したものではありません(参考:R. Geyeret al., Sci. Adv. 3, e1700782, 2017)。
各国のプラスチック廃棄量をまとめた査読論文としては、なんといって もJambeck et al. が 有 名 で す(参考:J. R. Jambeck, et al.,Science,347, 768-771, 2015)。この論文で提供されたデータを読み解くと、1日1,000トン以上の廃棄量がある国に限れば、日本の1人当たりの廃棄量は、世界15位です。もっとも、この廃棄量も決して少ないわけではないことには留意すべきでしょう。
3. 確かな情報を見分けること、発信すること
全6回で下記の内容を解説しています。
- 第1回 海洋プラスチック汚染とは
- 第2回 海洋プラスチック汚染の問題とは
- 第3回 海洋プラスチック汚染の現状1
- 第4回 海洋プラスチック汚染の現状2
- 第5回 社会に事実を伝えること
- 第6回 私たちにできること