前回は、海洋プラスチック汚染とは何なのか、その発生源や新たな問題となっているマイクロプラスチックについて解説しました。今回は、海洋プラスチックごみが環境や海洋生物、人体に与える影響を説明します。
第2回「海洋プラスチック汚染の問題とは」を解説していきます。
第2回もくじ
1. 海洋プラスチックごみの問題とは
前回述べたとおり、ほぼ腐食分解しないプラスチックごみは、海岸に漂着することで景観を損ねてしまいます。現在、日本の海岸では10万トン規模の漂着ごみが散乱しており、景勝地や海水浴場の観光価値を維持するための海岸清掃事業に、毎年30億円程度の予算が費やされています(参考:磯辺篤彦、海洋プラスチック問題の真実‒マイクロプラスチックの実態と未来予測、DOJIN選書86化学同人、2020)。しかし、海洋プラスチックごみの影響は景観を損ねるだけにはとどまりません。まず、海洋生物への影響として、絡まりと誤食が挙げられます。腐食分解しないプラスチックごみが、ひとたび海洋生物に絡まってしまえば、劣化して砕けるまで体から離れることがありません。インターネットで「海洋プラスチックごみ」と画像検索をかければ、ロープやビニール袋に絡まったウミガメなどの写真がヒットします。あるいは、海に投棄され海底に沈んだ化学繊維の漁網が海洋生物を捉え、死に至らしめるゴースト・フィッシングの事例も多く報告されています(図1)。
また、ある種の海鳥は、プラスチック片を好んで食べてしまうようです。理由は、色か匂いか判然としないままとなっています。現在では、世界の海鳥のうち 59%の種類で、プラスチック片の誤食が確認されています(参考:Wilcox, C. et al., PNAS, 112, 11899-11904, 2015)。誤食による食欲の減退や消化管の損傷が体長低下を招くと報告されています(参考:Spear, L. B. et al. Marine Environmental Research, 40, 123-146,1995)。また、海鳥に限らず、ウミガメに至っては、わずか 2.5gのプラスチック片の誤食でも消化管が詰まって死んでしまうそうです(参考:Santos, R. G., R. et al., Marine pollution Bulletin, 93, 37-43, 2015)。
プラスチックには汚染物質を吸着させやすい特性があるため、海を漂ううち、プラスチック表面には PCB(Poly Chlorinated Biphenyl:ポリ塩化ビフェニル)などの汚染物質が吸着します。それを誤食した海鳥の体内には、PCBが移行します(参考:Yamashita, R., H. et al., MarinePollution Bulletin, 62, 2845-2849, 2011)。最近では、プラスチックに含まれる添加剤が誤食した海洋生物に移っているという報告も増えています(参考:Tanaka, K. et al., Current Biology, 30, 723‒728, 2020)。
プラスチックを介して生物体内へ移行した化学汚染物質の影響について、今後とも注視する必要があります。それでは、マイクロプラスチックについてはどうでしょうか?
2. マイクロプラスチックの問題とは
小さなマイクロプラスチックは砂に紛れて人目に付きづらく、それが海岸に散乱しても観光価値を損なうことはないでしょう(図 2)。ただ、その小さいということは別の問題を呼んでしまいます。大きなプラスチックごみを誤食できる生物は限られています。しかし、小さなマイクロプラスチックであれば、プランクトン(参考:Frias, J. P. G. L. et al.Marine Environmental Research, 95, 89‒95, 2014)からクジラ(参考:Lusher, A. L., G. et al., Environmental Pollution, 199, 185‒191, 2015)まで、さまざまな海洋生物が誤食することになります。実際に、世界の海からマイクロプラスチックの誤食例が続々と報告されています。要するに、プラスチックのみならずマイクロプラスチックも、既に海洋生態系に深く入り込んでしまっているということです。
先に述べたとおり、海を漂流するマイクロプラスチックの表面には、周囲の海水に広がっている汚染物質が吸着します。汚染物質は、誤食したマイクロプラスチックとともに海洋生物の体内に運び込まれ、死亡率の上昇を含むさまざまな障害の要因となるといわれています(参考:de Sá, L. C. et al., Science of the Total Environment, 645,1029‒1039, 2018)。誤食したプラスチック片から体内へ溶け出していく添加剤も、蓄積が進めば障害の要因となるでしょう。また、たとえ汚染物質の含有がなくても、消化できないプラスチックを大量に摂食することは、生物にとって粒子毒性、粒子影響などの負担になるとの報告も数多くあります(参考:de Sá, L. C. et al., Science of the TotalEnvironment, 645, 1029‒1039, 2018)。
ただし、このような報告は全て実験室での研究結果に基づいたもので、今のところマイクロプラスチック由来のダメージが、実際の海で生物に見つかったという報告はありません。1つには、海での浮遊量が実験室で用いられるほど多くないためでしょう。これまで行われてきた粒子毒性実験の結果を、図3にまとめています。
実験室の水槽で飼育するさまざまな生物に対して、餌がわりにマイクロプラスチックを与え、そこに現れた障害を観察する実験です。障害が現れたところに、生物の種類によって異なるマークを付けています。障害の種類は、体長や生存率の低下などさまざまです。図の横軸は与えたマイクロプラスチックの直径を、縦軸は濃度を表します。図を見ると、1,000mg/m3あたりの濃度で行われた実験が多いことが分かります。つまり、この程度の濃度でマイクロプラスチックが浮く海に生物が棲(す)めば、誤食が過ぎて障害が現れるということです。現状での濃度や将来予測については、第4回で報告します。
3. 人体への影響
全6回で下記の内容を解説しています。
- 第1回 海洋プラスチック汚染とは
- 第2回 海洋プラスチック汚染の問題とは
- 第3回 海洋プラスチック汚染の現状1
- 第4回 海洋プラスチック汚染の現状2
- 第5回 社会に事実を伝えること
- 第6回 私たちにできること