前回は、船を走らせるさまざまな推進器を紹介しました。海という大自然の中で稼働する船は、時として大きく揺れ、船内の荷物は崩れ、人は船酔いになることもあります。今回は、その運動について解説し、中でも転覆にまで至ることのある危険な横揺れの同調現象を紹介します。この運動を小さくするための技術として、ビルジキール、フィンスタビライザー、アンチローリングタンクがあります。最後に、なぜ船酔いを起こすのか、そのメカニズムについても解説します。
第5回「荒れ狂う大自然の中での船体運動」を解説していきます。
第5回もくじ
1. 「6 自由度」の運動
形を変える水面、すなわち波の上に浮かぶ船舶は、時として大きな運動をします。波の高さは荒天時には10mを超すこともあり、そんな中で、船はまさに木の葉のように揺れます。この船体運動によって船内の物は動き、貨物は荷崩れし、人は船酔いにかかります。
船体の運動は、上下・左右・前後軸上の直線的な周期運動と、その3つの軸の周りの周期的な回転運動から成ります。「6自由度」の運動です。周期的直線運動は、それぞれ上下揺れ、左右揺れ、前後揺れと呼ばれます。また、各軸周りの回転運動は、船首揺れ、縦揺れ、横揺れと呼ばれます(図1)。
この運動のうち、復原力を持つ上下揺れ、縦揺れ、横揺れは、それぞれ固有周期を持っており、波から受ける外力の周期と固有周期が一致すると運動が大きくなります。これを、同調と呼びます。この中でも、同調したときの横揺れの振幅は非常に大きくなることがあり、転覆にもつながります。また、縦揺れと上下揺れは、船首船底が水面から飛び出して海面を打つスラミング、船首の甲板上に波が上がる船首冠水、スクリュープロペラが空中に露出して空転するプロペラレーシングなど、船舶の運航上、危険な現象を引き起こします。
2. 運動の制御
波の中での船体運動は、小さくするに越したことはありません。しかし、むやみに小さくしても、副作用を生じることもあります。大きな外力に対して無理に抗うと、船体自体に大きな力が働き、破壊されることもあるためです。外力に身を任せて、柳のように揺れる方がよい場合もあるのです。
しかし、危険なほどの運動は小さく制御する必要があります。まず、同調しているときの運動の制御は、運動方程式から分かるように、減衰力を増やすか、強制力を減らすかの2つの対策が可能です。
減衰力とは、運動に対する抵抗であり、運動速度に比例し、かつ運動方向と反対方向の力です。最も同調時の運動振幅が大きくなる横揺れでは、減衰力を増やすためのさまざまな装置が開発されています。最も簡単、かつ効果が大きいのが、船底と船側をつなぐ四分円状のビルジ部に、細長い平板から成るビルジキールを取り付けて、船体が運動するときに板の先で渦を発生させることで、減衰力を増やす方法です(図3)。板に働く抵抗を使う方法で、流体の中に渦を作ることにより、熱エネルギーとして横揺れの運動エネルギーを消散させています。
同じくビルジ部に、飛行機の翼のようなフィンを突き出して、その迎角を横揺れ運動速度に応じて変化させ、働く揚力で減衰力を増やすのが、フィンスタビライザーです。この装置は、日本人による発明品です。しかし、第2 次世界大戦後にイギリスに特許が売られ、その後、コンピュータによる制御技術が進んだことにより、ヨーロッパで普及しました。外洋を走る客船には、船酔い対策として取り付けられる場合が多く、横揺れを嫌うRORO 貨物船などにも付けられています。フィンスタビライザーの欠点として、高速航行時でなければ効果が出ないことが挙げられます。しかし、高速航行時には、80 ~ 90% も横揺れを減らすことができる優れものです。
船上に設置したU 字型の水槽に水を入れておき、船体運動に伴う水槽内の水の運動を同調させることで減衰力を生むのが、アンチローリングタンクです(図4)。ビルジキールと同様に、停止時も航行時にも横揺れの軽減効果があります。ただし、横揺れ同調時以外の周期では、軽減効果が限定的であるという欠点があります。
船体運動を小さくするために最も効果的なのは、波の長さに比べて、船体を大きくすることです。日本近海であれば、最大波長は約150mなので、200m 以上、さらに300m 近い長さの船であれば、揺れはかなり小さくなります。最近の大型クルーズ客船は、300m 前後の長さがあるため、揺れることなく、快適な船旅を楽しむことができます。
3. 船酔いになる訳
全6回で下記の内容を解説しています。
- 第1回 経済的で地球環境に優しい輸送機関
- 第2回 安全性の要は復原力
- 第3回 抵抗を減らしてエネルギー効率を上げる
- 第4回 船を走らせる推進器
- 第5回 荒れ狂う大自然の中での船体運動
- 第6回 船の自動運転の現状