前回は、水の中を進む船に働く抵抗について紹介しました。海上で船を走らせるには、そのための動力を生むエンジンと共に、推進力を生む推進器が必要となります。船の推進器は、水車を回して推進力を得る外輪に始まり、現在では、回転軸の周りに羽根を付けたスクリュープロペラが一般的に使われています。今回は、スクリュープロペラのほか、可変ピッチプロペラ、高速船用ウォータージェットなど、船を走らせるさまざまな推進器を紹介します。
第4回「船を走らせる推進器」を解説していきます。
1. 外輪とスクリュープロペラ
発明家のジェームズ・ワットが実用化した蒸気機関が船の動力源として最初に使われたのは、左右両舷、または船尾に取り付けられた水車であり、外車、または外輪と呼ばれました。これは、水車に取り付けられた多くの板が水をかいて、その反力によって、船を動かす推力を得る推進器でした(図1)。
続いて、前後に伸びる回転する軸の周りに、翼を斜めに取り付けたスクリュープロペラが登場しました。スクリューとは、ねじのことです。すなわち、スクリュープロペラとは、ねじ式推進器という意味です。大きな外輪はゆっくりと回す必要があります。しかし、スクリュープロペラは高速回転にも対応できたため、特に高速船には適した推進器でした。また、水中深くに設置されるので、波が当たって壊れることもなく、さらに軍艦の場合には、敵の砲撃によって破壊されるリスクも小さくできました。外輪が板に働く抗力(Drag)を利用するのに対して、スクリュープロペラは翼に働く揚力(Lift)を利用するという、流体力学的な違いもあります。
外車船がよいか、スクリュープロペラがよいかについては、なかなか決着がつきませんでした。1845年に、ほぼ同じ大きさで、ほぼ同じ馬力のエンジンを持つ2隻の蒸気船の綱引きで決着したという逸話も残っています。
2. スクリュープロペラが船尾にある理由
ほとんどの船のスクリュープロペラは船尾に付いています(図2)。これには理由があります。船尾に置くと、稼働効率がアップするためです。これは、スクリュープロペラは、遅い流速の中で稼働する方が、効率がよくなるという特性から来ています。
水の中を進む船体の周りには、船首から次第に成長する流速の遅い層、すなわち境界層が成長して、船尾に行くほど厚くなります。この境界層の中でスクリュープロペラを動かすことにより、推進効率を上げることができるのです。この境界層で形成される、船の速さよりも遅い流れを伴流(ウェーク)と呼び、推進効率が上がることを伴流効果といいます。
多くの貨物船では、船尾の中心船上にスクリュープロペラを1 つだけ設置した1軸船が好まれます。これは、船体が作った境界層の中にすっぽりとスクリュープロペラが入り、推進効率がよくなるためです。スクリュープロペラを2 つにすると、プロペラの一部が伴流の外側に出てしまい、推進効率が低下します。
ただし、乗客を乗せた客船では、スクリュープロペラを2 つ左右に並べた2 軸船が多くなっています。これは、多くの乗客を乗せた客船が、万一のエンジンや推進器の故障で動けなくなるリスクを減らして、安全性に冗長性を持たせるためです。
最近では、カーフェリーなどの客船でも、効率の良い1 軸船が登場しています。この場合、1 軸の回転軸からエネルギーを取り出して発電する軸発電機を取り付けておき、万一、機関が停止しても、軸発電機を電気モーターとして使い、船内発電機でもスクリュープロペラを回すことができるようにしたり、1 軸のスクリュープロペラの両横に360度回転可能な電動推進器を設置したりすることで、発電機により補助推進器を稼動して船を動かせるようにしています。エネルギー効率と冗長性を兼ね備えた推進システムといえるでしょう。
3. 可変ピッチプロペラ
4. 高速船の推進器
全6回で下記の内容を解説しています。
- 第1回 経済的で地球環境に優しい輸送機関
- 第2回 安全性の要は復原力
- 第3回 抵抗を減らしてエネルギー効率を上げる
- 第4回 船を走らせる推進器
- 第5回 荒れ狂う大自然の中での船体運動
- 第6回 船の自動運転の現状