前回は、船を直立状態に戻す復原力を紹介しました。今回は、水の中を進む船に働く抵抗について解説します。この抵抗は、摩擦抵抗、造波抵抗、粘性圧力抵抗という異なる成分から成っており、小さな模型船の実験によって、大きな実船の抵抗を求めることは簡単ではありません。そのため、抵抗成分の特性に応じて換算方法を変えることで、正確な抵抗を求める方法が確立され、用いられています。また、各抵抗の成分を減らして、船に働く抵抗を小さくする方法も紹介します。
第3回「抵抗を減らしてエネルギー効率を上げる」を解説していきます。
1. 船の抵抗成分
大きな船は、実船で抵抗を計測することはできないため、建造前に縮尺模型を使って抵抗を測る試験が行われます。エンジン馬力の不足で、建造したものの計画した速力が出ないということを避けるためです。しかし、かつては模型実験で得られた結果から、実船の抵抗を推測することが困難でした。それは、船に働く抵抗にはさまざまな成分が含まれているため、成分ごとに縮尺模型の値から実船の値に換算する方法が違っていたことに起因していました。
例えば、水が船体表面をこすることによって生ずる摩擦抵抗はレイノルズ数に支配されています。一方、水面に波を起こすことによる造波抵抗はフルード数に支配されています。この2つを実験と実船で合わせることはできないため、模型実験で得られた値から、実船の抵抗へ単純に縮尺倍して換算することは不可能です。
この困難を乗り越える技術を構築したのが、イギリスの造船技術者ウィリアム・フルードでした。模型実験結果から摩擦抵抗を差し引いて造波抵抗係数を求め、それを実船の大きさの抵抗に換算してから、実船の大きさに対する摩擦抵抗を足し合わせるという巧妙な方法を確立しました。この方法は、今でも造船の世界で用いられ、高い精度で模型実験結果から実船のエンジン馬力が求められるようになりました。
2. 摩擦抵抗と、その低減法
流体による摩擦抵抗を研究し、その特性を明らかにしたのが、物理学者のオズボーン・レイノルズです。彼は、摩擦抵抗係数が、レイノルズ数と名付けた無次元数(単位を持たない数)に支配されていることを明らかにしました。レイノルズ数は、速度と物体の長さの積を、流体の動粘性係数で割ったもので、この値が同じであれば、どのような流体の中でも摩擦抵抗係数は同じになります。摩擦抵抗係数が分かれば、以下の式により、働く摩擦抵抗の値を求めることができます。
ここで、Fは摩擦抵抗、C d は摩擦抵抗係数、ρは流体の密度、さらにAは流体と触れる物体の表面積、Uは速度を示します。
まず、流れの中に平行に置かれた平板の摩擦抵抗係数が実験的に求められ、船を含めた物体に働く摩擦抵抗も、同係数を用いることで、精度よく求められるようになりました。そして、図2に示すように、レイノルズ数が低いと層流(整った流れ) となって、図中の(1)のように摩擦抵抗係数は低くなり、レイノルズ数が大きいと乱流になって、(2)(3)のように摩擦抵抗係数が高くなることが分かってきました。
また、摩擦抵抗係数は、表面の状態によって大きく変わることも明らかになりました。表面が汚れたり、フジツボなどの海洋生物が付いたり、腐食で凸凹が付くと、摩擦抵抗係数は大きくなります。こうした表面の凹凸を制御することで、摩擦抵抗係数は小さくできます。他にも、凹凸をなくすために船体表面を磨いたり、さらに小さな凹凸を利用して摩擦を減らす特殊な方法も開発されたりしました。
また、イルカなどの生物では、分泌物を出すことで摩擦抵抗係数を減らしているらしいことも分かってきました。船では、船底から小さな空気の泡を出し、船体表面を覆うことで、摩擦抵抗を減らす装置も開発され、実用化されています。
摩擦抵抗は表面積に比例するため、高速船では断面の形を丸くして、内部体積の割に船体表面積を減らし、摩擦抵抗を減らすことも有効です。摩擦抵抗がほとんどである飛行機の胴体の断面が丸いのも、表面積を最小にして摩擦抵抗を減らすための工夫といえます。
3. 造波抵抗と、その低減法
4. 粘性圧力抵抗と、その低減法
全6回で下記の内容を解説しています。
- 第1回 経済的で地球環境に優しい輸送機関
- 第2回 安全性の要は復原力
- 第3回 抵抗を減らしてエネルギー効率を上げる
- 第4回 船を走らせる推進器
- 第5回 荒れ狂う大自然の中での船体運動
- 第6回 船の自動運転の現状