経済的で地球環境に優しい輸送機関|船舶工学の基礎知識1

船舶工学の基礎知識

著者:大阪公立大学 客員教授 池田 良穂

日本の輸出入貨物の99.6% は船で運ばれており、船が止まれば日本経済は破綻します。船の重要性は、ウクライナ紛争で世界の穀物事情が逼迫(ひっぱく)したことでもよく分かります。エネルギー資源も食料資源も海外に頼る日本では、ことさらです。船が使われる理由は、大量の荷物を最も少ないエネルギーで運ぶことのできる輸送機関であることによります。その特性は、水から受ける浮力によっています。本連載では、6回にわたり、船舶工学の基礎知識を解説します。

第1回「経済的で地球環境に優しい輸送機関」を解説していきます。

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1. 日本の輸出入貨物の99.6% を運ぶ船

日本の輸出入貨物の99.6% は、船によって運ばれています。日本は、ほぼ全てのエネルギー資源、原料資源は輸入に頼っており、さらに食料資源はカロリーベースでおよそ70% は輸入されています。その輸入費用の多くは、加工貿易によって稼ぎだされ、加工製品は船によって輸出されています。

高価格な製品は、航空機によって輸出入されています。ただし、その量は、全体のわずか0.4%にすぎません。もし、日本に船が来なくなったら、電気は使えず、車も走れず、食料さえなくなります。これまでの幾度かの危機に対応すべく、エネルギー資源については国家備蓄が行われ、約半年は生きられる体制が構築されているものの、それ以上の期間、海運の停止が続けば、悲惨な状況となるでしょう。

国内の物流では、トンキロ(貨物の輸送量:輸送した貨物の重量(トン)に貨物の輸送距離(キロ)を乗じたもの) ベースで、約40%が船によって運ばれています。国内輸送には車や鉄道もあるため、船がなくても輸送は可能です。しかし、インフラ整備に必要なセメント、生活に必要な灯油やガソリン、そして生きるための食材を大量に運ぶには、船舶輸送は欠かせません。その最大の理由は、あらゆる輸送機関の中で、船が大量の貨物を最も少ないエネルギーで運べるためです。

2. 船が大型化できる理由(浮力)

船舶輸送の効率がよいのは、船が支えられている力の特性によっています。地上を移動する車や鉄道は、地面からの反力によって支えられています。もちろん人間もです。飛行機は、空気から受ける揚力によって支えられています。この揚力は、周りの流れの速度を利用しているため、静止していては働かないという欠点があります。

一方、船は、水からの浮力によって支えられています。浮力は、水中において深くなるほど高くなる水圧によって働く力で、何のエネルギーも必要としません。

地面反力と揚力は、接地面、あるいは翼面積に比例して大きくなります。これに対し、浮力は、没水体積に比例して大きくなります。面積は寸法の2乗、体積は寸法の3乗に比例します。一方、支えるべき物体の重さは、おおよそ、その体積に比例するため、寸法の3乗に比例することになります。

このように、重さが寸法の3乗、支える力が寸法の2乗、もしくは3乗に比例することが、輸送機関の大きさの限界に決定的な影響を及ぼします。これを「2乗3乗の法則」と呼びます。2乗曲線と3乗曲線は、値が小さいうちは2乗曲線の方が上にあり、ある点を超えると3乗曲線の方が大きくなります。このことは、3乗曲線で表される重量を、2乗曲線で表される地面反力や揚力では支えることができなくなる大きさが存在することを表しています。旅客機がジャンボジェットやA380型より大きくできないのは、この理由によっています。

一方、浮力で浮く船には大きさの限界がなく、いくらでも大きくすることが原理的には可能です。陸上のビルよりも大きな船舶が悠々と浮いていられるのはこのためです。

地球上の動物のうち、浮力、地面反力、揚力で支持されるものには、大きさの違いがみられます。浮力で支えられる動物の中ではシロナガスクジラ、地面反力ではゾウ、揚力ではワタリアホウドリが最大の大きさです(図1)。

海中、陸上、空中の生物の大きさの比較
図1:海中、陸上、空中の生物の大きさの比較

2023 年5 月現在、船で一番大きいのは、24 万総トンのクルーズ客船「ワンダー・オブ・ザ・シーズ」です(図2)。長さは400m、幅は60m、高さは18 階のビルに相当します。この巨大な船が、海上を時速40km で走ることを想像してみてください。

世界最大のクルーズ客船「ワンダー・オブ・ザ・シーズ」
図2:世界最大のクルーズ客船「ワンダー・オブ・ザ・シーズ」( 提供:Royal CaribbeanInternational )

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3. エネルギー効率は車の 10 倍、飛行機の 100 倍

輸送のためのエネルギー効率は、輸送時に働く抵抗の大きさを、輸送する物の重さと移動距離の積で割ることで決まります。自動車と飛行機と船の抵抗を比べると、水の抵抗を受ける船が最も大きく、空気中を移動する飛行機が最も小さくなります。抵抗は周りの流体の密度に比例し、水の密度は空気の800 倍もあるためです。

水から抵抗を受ける船はエネルギー効率が低いのでは、と思う人もいるでしょう。しかし、抵抗は面積に比例するという特性があり、単位体積当たりの抵抗は、大型化するに従って小さくなります。すなわち、エネルギー効率の分母にある重量は体積に比例するため、寸法の3乗に比例し、大型化するにしたがって、急速にエネルギー効率が良くなるのです。実際の船のエネルギー効率を、船が積める貨物の重さを表す載貨重量トンを横軸にして表すと、図3 のようになります。

船のエネルギー効率と大きさの関係(縦軸の指標が小さいほどエネルギー効率が高いことを表す)
図3:船のエネルギー効率と大きさの関係(縦軸の指標が小さいほどエネルギー効率が高いことを表す)( 参考:「らん」15号、関西造船協会、1992年)

交通機関のエネルギー効率を測る指標に、エンジン出力を、その輸送機関の重さと速度の積で割った値がよく使われます。この値を、速度を横軸にしてプロットしてみると、図4 のようになります。

各種の交通機関のエネルギー効率の比較
図4:各種の交通機関のエネルギー効率の比較

各輸送機関のエネルギー効率が比較でき、船(バルクキャリア~ライナー)は0.05 ~ 0.01 程度なのに対して、車(トラック~乗用車)は0.1 ~ 0.3 程度、飛行機(プロペラ機~ジェット機)は0.5 ~ 1 程度の値です。つまり、船に比べると車は約10 倍、飛行機は約100 倍エネルギー効率が悪いことがわかります。また、各速度域で最もエネルギー効率が高い輸送機関が違うことが分かります。低速では大型の船が、中速では鉄道が、そして高速では飛行機が、最もエネルギー効率が高くなるのです。このような基本的な特性を知り、速度域に合わせて、使う輸送機関を選ぶことが重要です。

いかがでしたか? 今回は、大型船が輸送機関として経済的で、高いエネルギー効率を示す理由を解説しました。次回は、船を直立状態にする復原力について取り上げます。お楽しみに!

全6回で下記の内容を解説しています。

  • 第1回 経済的で地球環境に優しい輸送機関
  • 第2回 安全性の要は復原力
  • 第3回 抵抗を減らしてエネルギー効率を上げる
  • 第4回 船を走らせる推進器
  • 第5回 荒れ狂う大自然の中での船体運動
  • 第6回 船の自動運転の現状

第2回~第6回の続きはこちらより資料をご覧ください!

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