前回は、国際スマートシティのメインプレイヤーとしてのヨーロッパ、中国、日本と、新興国や発展途上国との関係を解説しました。今回は、日本におけるスマートシティについて取り上げます。国際的なスマートシティの定義は、新しい都市づくりのビジネスです。しかし、日本国内では、ITやハイテクを用いて、都市OSを導入することと考えられています。また、スマートシティの定義を明確にしないままプロジェクトが進められるため、さまざまな取り組みが分散してあるように見えます。
第3回「日本のスマートシティ」を解説していきます。
1. 日本ではIT やハイテク、都市OS?
国際的に、スマートシティは都市づくりのビジネスとして考えられ、巨大な資本が投下されています。ただし、他のまちづくりと若干異なるのは、スマートという言葉に表されるように、何かしら目玉となる売り物や、土木工事も含めた新しい技術が含まれ、それらが特長として前面に出されることです。
戦後の日本で大規模に進められてきた、田中角栄元首相の日本列島改造論に従ったプロジェクトの多くは、現在の国際的スマートシティプロジェクトと酷似しています。1964年に開通した東海道新幹線は、当時、世界で最も速い鉄道でした。その停車駅周辺は猛スピードで開発され、素晴らしいハイテクのまちとなりました。既にあった国鉄の駅の隣に新幹線の駅が作られ、その駅の未来的なデザインは人々の目を引きました。
同時に作られた高速道路は、これまでに見たこともない土木技術により、地震大国の空中に道路を作るという夢のプロジェクトでした(図1)。
これらの道路は、密集した首都圏や阪神地区に、半ば強引に建設されました。住民が多く住む土地の買収や、用途地域の変更作業も、今では考えられないスピードで行われました。さらに、地方都市から東京都心の六本木まで数百か所で駅前再開発が行われ、すさまじい数のスマートな駅前タウンが、あっという間に作られました。
このように、日本はこれまで世界で最も多くのスマートシティを、最速で作ってきた国であるということができます。実際、アジアの多くの国で、日本のスマートシティは尊敬、信頼され、建設を委ねられています。インドネシアや、マレーシアのイスカンダルで行われている日本製スマートシティによる開発事業は、日本の戦後開発と比べると、その類似点の多さに驚かされます。
現在、日本で行われているスマートシティの議論や、政府から出る指示は、都市OSを持ってデータ利活用を行うこと、できれば法改正を伴うこと、ITやDXを利用したまちを考えることなどに基づいて構成されています。果たして、日本のお家芸ともいえるこれらのスマートシティは、その強みを正確に認識しているのでしょうか? ここ10年来の日本国内におけるITやハイテク、都市OSは、本当にスマートなまちづくりといえるのでしょうか?
2. 3種類の日本のスマートシティ
国内では、スマートシティは分かりにくい、パターンが多すぎてつかみどころがない、ビジネスとして成立するのか分からないなどといわれることがあります。実は、その実態はそれほど複雑ではありません。日本におけるスマートシティは、大きく3種類に分けて考えることができます。
1つ目は、前述した日本列島改造論時代に始まり、膨大な駅前再開発など多くの実績を持つ、日本が得意とするスマートなまちづくりです。
2つ目は、企業の広報宣伝のためのスマートシティです。トヨタのウーブン・シティや、パナソニックのスマートシティ、海外では、グーグルのスマートシティ(カナダ・トロント)、双日のデルタマス・シティ(インドネシア)などが挙げられます。
トヨタ:ウーブン・シティ
トヨタは静岡県裾野市に、ウーブン・シティと呼ばれる実験都市を開発し、社会生活に関してさまざまなソリューションやサービスを作り上げ、展示しています。もちろん、関連会社の社員が移り住むことも可能で、実際の利用実績を作る試みも行われています。
パナソニック:スマートシティ
パナソニックのスマートシティは、藤沢、綱島、吹田の3か所の、いずれも自社関連工場があった土地を更地にし、そこにパナホーム(元々は松下電工のブランド名。関連3社の合併により、パナソニックのビジネスの一つとなった)の分譲住宅を建設しました。そこに、パナホーム用に開発されたセキュリティや通信システム、自動化された家、発電設備など、さまざまなハイテクソリューションを埋め込みました。さらに、このハイテク住宅や街は一般に販売され、人々は身近にパナソニックの製品やサービスを体感できるようになりました。
グーグル:スマートシティ(カナダ・トロント)
上記2つの取り組みに酷似しているのが、カナダ・トロントで行われ収束させた、グーグルのスマートシティです。ここで、ある期間進められたグーグルのスマートシティの目的は、明確に都市における次世代移動手段の実証広報です。自動運転を中心にした新しい技術の実証実験は、研究所内だけではその安全性や先進性が立証できません。そこで考え出されたのが、自動運転車の開発と、その地域実装です。トロントの海岸の一部の地域に、最先端で最も商品力が高いグーグルの自動運転車を走らせ、人々に利用してもらい、その実装可能性を披露したと考えられます。
グーグルのスマートシティがある期間で閉鎖したことを見て、それは失敗だったと言う人がいます。しかし、これは全くの誤解です。彼らはスマートシティをビジネスと捉えているため、その実装可能性証明という投資案件が終われば、直ちに撤退し、その実験の場を閉じるのです。
双日:デルタマス・シティ(インドネシア)
双日株式会社が進めているインドネシアのデルタマス・シティは、山手線内の半分面積に当たる巨大なジャングルを、最大15万人のまちにしようとする取り組みで、現在2万5千人の人口を有しています(図2)。ここに、パナソニックのパナホームが、350棟建てられました。ここでは、自社製品をまちで展示することが、実際のビジネスになっています。これは、スマートシティにおける企業の広報宣伝として、正しいビジネス展開であるといえます。
3つ目は、日本でこの10年間続いている、国際理解とは異なった日本固有のスマートシティです。ITやコンサルティング企業主導で進められ、ビジネスとしての国際標準とは違い国内のみで独自に広められ、一般に解釈されています。ガラパゴス携帯電話のように日本国内だけで都市OS導入、ハイテクやIT、コンサルティングビジネスに特化し、固有に進められているモデルです。IT企業は1990年から2000年代に、大企業の広範囲なIT化が進んだことで空前の好景気を迎えていました。その後、全社統合ソフトウェアERPなどの導入が一巡すると、だんだんと開発SIのビジネスは小さくなっていきます。さらに、1台数億円で売れていたサーバの価格が10分の1に下がり、IT企業は次の目標を探していました。
IBM:スマータープラネット
2008年にIBMが発表したスマータープラネットは、次の目標として提唱された事業の一つです。これは、もはや企業をビジネスターゲットにせず、企業が集まるまちをターゲットにしようという戦略でした。図3は、当時、スマータープラネットの説明に用いられていたチャートです。これは、先進的な国々が既に成功を収めているインテリジェント・オペレーション・センターを導入するという考え方でした。水資源、交通、ガス、電気、医療などが、相互につながりやすいシステムにより、都市を活性化することを目的としていました。
IBM では筆者を中心に、この路線でのスマートシティの宣伝を進めたにもかかわらず、スマートシティとは都市OS などを入れたIT のまちであるという定義が広まってしまいました。
この3 つ目のスマートシティの誤解が一般にはとても分かりやすく、今でもスマートシティはIT や都市OS を入れる実証実験プロジェクトであるといわれ続けている理由です。このIBM も2015 年に、日本では組織を閉じてしまいました。国際的スマートシティから見ると、1 つ目と2 つ目のスマートシティには何の違和感もありません。しかし、3つ目は明らかに日本を間違った方向にリードしたように思われます。
3. 健全なビジネスの考え方
全12回で下記の内容を解説しています。
- 第1回 スマートシティの本来の意味
- 第2回 国際的なスマートシティとは
- 第3回 日本のスマートシティ
- 第4回 実は強い日本のスマートシティビジネス
- 第5回 日本製スマートシティチームの勝ち組み例
- 第6回 国際的スマートシティプロジェクトにおける日本モデル、コングロマリット
- 第7回 スマートシティ戦争、コングロマリット各国モデルで激戦
- 第8回 実ビジネスの事業者とアプローチを考える
- 第9回 スマートシティで日本が強い売り物とは(前編)不動産
- 第10回 スマートシティで日本が強い売り物とは(後編)ハイテクインフラ産業
- 第11回 日本が強いエリア、弱いエリアを冷静に見極める
- 第12回 日本と世界のスマートシティ、迫り来るこの産業の焦点