次の世紀に求められる病院建築とは|病院建築の基礎知識7

病院建築の基礎知識
著者:東京大学名誉教授 工学院大学名誉教授 一般財団法人ハピネス財団理事長 長澤 泰

これまで第5回目までは、現代の病院建築の基本的な考え方について解説し、前回の第6回では、20世紀後半までの病院の歴史を振り返りました。最終回となる今回は、Covid-19の蔓延への対応を含めて、今後の病院建築の進路について考えます。

第7回「次の世紀に求められる病院建築とは」を解説していきます。

基礎知識DL

1. 求められる全室完全個室化

前回述べたように、古代から20世紀までの病院の歴史には5つの波がありました。では、第6波となる21世紀以降の病院はどうなるのでしょうか。Covid-19感染症対策に関して、建築の面から見た問題としては、まず個室病室の不足がありました。福祉介護の分野では、特別養護老人ホームを見ても分かるように、大抵は個室です。ところが、病院では「個室は贅沢だ」という古い考えをいまだに引きずっています。明治時代では、有料病院には個室が、無料の慈善病院には大部屋が中心でした。このため、個室は裕福な人たちが入る所であり、その他の社会階層の人たちには、大部屋が一般的と考える風潮となりました。

一方、カナダの病院を見ると個室は当然であり、入口には手洗い器があります。これは患者用ではなく、看護師や医師が出入りに際して使うもので、しっかりとした感染症対策がとられています(図1)。

オタワ総合病院、病室入口のスタッフ用手洗い器
図 1:オタワ総合病院、病室入口のスタッフ用手洗い器(写真:筆者撮影)

日本では、第1回で紹介した足利赤十字病院(2011年竣工)が、一般病床を全室個室としました(図2)。トイレや手洗い器も、個別にあります(計画には筆者も関わりました)。感染対策が容易なため、Covid-19感染症の患者も数多く受け入れました。移転新築から11年の間、病床稼働率は90%を超えています。院内動線も分離できるため、Covid-19感染症患者の受け入れ後も、これまで通り一般患者の入院診療が可能でした。

足利赤十字病院、個室病室
図2:足利赤十字病院、個室病室(資料提供:日建設計)

日本初の全個室の病院は、1992年に全面改築された聖路加国際病院で、約半分の病室には差額室料がかかります。次が、足利赤十字病院で、無料の個室(全体の60%)と、差額室料の個室(全体の40%)があります。その後、2014年には県立病院では初めて下呂温泉病院が、2016年には社会医療法人で初めての北九州総合病院と、市立病院で初めての加賀市医療センターが、全個室の病院として竣工しました。この3病院では、差額料金は徴収していません。

こうした変化は、アメリカでも10年程前から見られます。「病院は全病室をICU化すべきだ」という考えで、アキュイティ・アダプタブル・ルーム(AAR: Acuity Adaptable Room)と呼ばれる個室病室が増えています。大規模な手術でなければ、患者の移動をせずに病室で処置ができるようになっています。

Covid-19のようなパンデミックにおいては、病院は全室個室化すべきだと考えます。日本における病院建築の障害は、第4回の病棟部門で述べたように、看護単位が大き過ぎることです。多くの病院で50床の病床を抱えています。前述の足利赤十字病院では、1看護単位は35床です。病院スタッフの意見を聞いても、これまでに大きな問題は起きていないということです。ちなみに19世紀のナイチンゲール病棟は、看護師長の観察が行き届く規模として、看護単位を30床にとどめています。

近年の医療機器やIT機器の進展によって、個室の患者観察はさらに容易になっています。全室個室化をすぐに達成することは困難なため、現状の建築的課題を3つ挙げます。

1つ目は、空調システムです。空調とは、もともと冷暖房と機械換気を同時に行うシステムであるものの、実際は経済性を考慮して、温めたり冷やしたりした空気を全て排出せず、およそ半分はフィルタを通して室内に戻しています。ただし解剖室やRI(放射性同位元素)管理区域など特殊な部屋だけは、完全に空気を入れ替える規定になっている一方、その他の部屋はそうなっていません。今後は、利用者にとって病室の換気状態の見える化が必要といえます。2つ目は、トイレです。院内感染を防ぐには、トイレも病室に付設しなければなりません。3つ目は、感染者受け入れ動線と汚染区画を、非汚染エリアと分離することです。これらが、当面の建築的な感染対策として重要になります。

既存の病院を、このような条件に合わせて改装するには時間を要します。日本では、感染者用の独立病棟を新設した例もありました。また、イギリスのマンチェスターでは、かつての駅舎(ガラス張りの高い天井を持つターミナル駅)をNHS (National Health Service:国営医療制度)ナイチンゲール病棟と呼んで、Covid-19感染者用に使用しました。

2. 健康のための「健院」

ここでいう健院とは、病院に対義する言葉として使用されます。かつて、日常生活行為の全ては、住居とその周辺で行われました。冠婚葬祭は座敷で、教育は祖父が孫に行っていました。病気になれば家族が寝室で世話をし、医師が往診してくれました。ところが、都市への人口集中が発生し、生活全般の効率性を求めた結果、結婚式場や葬祭場、学校や病院などの施設が発生しました。

こうした施設では、三密の状態が発生しやすくなります。また、トータル・インスティテューション(全制的施設)が問題として指摘されるようにもなりました。これは、カナダの社会学者ゴッフマン(Irvin Goffman)による1960年代の指摘です。似通った境遇の人たちが一緒に、長期間、スタッフに管理されて日常生活を送っていると、その施設が本来果たすべき目的を阻害してしまうというのです。その代表例が刑務所であり、認知症高齢者がこのような施設に入居することで、症状が悪化するともいわれます。これを施設病(Institutionalism)と呼びます。

20世紀の病院はどうでしょう。中央化の方針で、患者は検査・処置のために院内を歩き回り、各所で待たされています。また、死を回避するために、治療で苦痛を受け入れることも常識化しました。病院は、身体的病気を治すことだけを目的とした病気の館(やかた)になってしまったようです。

前回紹介した、古代ギリシャの神殿での医療には癒やしの要素が入っており、身体的な病気を治すだけの場ではありませんでした。同じように、これからは病院、すなわち病気の館だけではなく、健康になるための施設である健院が必要になってくるでしょう。とはいえ、病院がいらないという訳ではありません。病院は、いつの時代でもどこにおいても、あそこに行けば命が助かるという、傷病人にとって闇の中の灯台のような場所です。しかし、これからは健康の館も必要ではないでしょうか。

ナイチンゲールは、「急性期の治療を終えたら、患者をすぐに病院から出しなさい」と言い残しました。その理由は、患者自身が治る過程にあると自覚できるからです。さらに、「将来、病人は家庭と社会の中で治す。病院は、なくなっているのではないか」とも言っています。彼女は、在宅での治療が最良だと考えていました。筆者も、将来的に病院が必要なくなるのではなく、「病院が全てをやる必要はない、ある程度回復したら、患者は地域や家に戻って治療できる」ことが必要だと考えています。

イギリスには、地域の中核病院とは別に、コミュニティホスピタルという医療機関があります。ここは、ちょっと具合が悪い程度の人や、病院での治療を終えてリハビリが必要な人たちを受け入れる場所で、出産時の正常分娩にも対応します(図3)。今後、高度な医療に対応する病院の機能を維持するには、地域ごとにこうした医療機関が必要です。

イギリスのコミュニティホスピタル、正常分娩は病院に行かずここで扱う
図3:イギリスのコミュニティホスピタル、正常分娩は病院に行かずここで扱う(写真:筆者撮影、1978年)

昨今、日本でも地域包括ケアシステムを進めているものの、病院の役割分担をより明確にしなければ、Covid-19蔓延のような事態で病院自体がもたなくなります。筆者は、20世紀の病院に「デパート病院」とか「寄せ鍋病院」といった、かなりひどい、皮肉めいたニックネームを付けました。要するに、さまざまな目的の人が大勢やって来る、何でも入っているという意味で、そうした病院の実情を理解してもらうためです。

イギリスやアメリカでは、病気はまず家庭医に診てもらいます。病院は、入院が主体です。そうした役割分担がしっかりできています。しかし、日本では多くの人がデパート病院を望み、そこに行けば何でも治してもらえると思っています。そうした社会全体の考え方を是正していく必要があります。

2020年から、イギリスでは英国国営医療システム(NHS)前長官のニジェール・クリスプ卿3. 健院の 3 要素、自然・空間・社会(Lord Nigel Crisp、an independent crossbenchmember of the House of Lords and former chief executive of the NHS. )が主導して、「健康は家で作られる、病院は修理する場所」と題したシンポジウムが開かれ、関連した著作も発行されています(図4)。日本でも参考になるでしょう。

書籍「HEALTH ISMADE AT HOME , HOSPITALS ARE FOR REPAIRS(健康は家で作られる、病院は修理する場所)」のシンポジウムの案内
図4:書籍「HEALTH ISMADE AT HOME , HOSPITALS ARE FOR REPAIRS(健康は家で作られる、病院は修理する場所)」のシンポジウムの案内

3. 健院の 3 要素、自然・空間・社会

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全7回で下記の内容を解説しています。

  • 第1回 病院建築・設備の特徴
  • 第2回 病院の地域施設計画
  • 第3回 病院単体の全体計画・設計
  • 第4回 病院の部門計画
  • 第5回 ライフサイクルとファシリティマネジメント
  • 第6回 20世紀型病院建築までに至る変遷
  • 第7回 次の世紀に求められる病院建築とは

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