健康経営の歴史と経済産業省の役割|健康経営の基礎知識2

健康経営の基礎知識
著者:山野美容芸術短期大学 教授 新井研究室主宰 新井 卓二

前回は、健康経営がもたらす好影響を紹介しました。今回は、健康経営の歴史と経済産業省の果たした役割について紹介します。特に日本の顕彰制度の基になった、ACOMが主催しているCHAAと、その活動について詳細に紹介します。「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」とはドイツの鉄血宰相ビスマルクの言葉です。歴史を学び、健康経営の将来を見据え、俯瞰(ふかん)してみましょう。

第2回「健康経営の歴史と経済産業省の役割」を解説していきます。

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1. 健康経営の歴史

健康経営は、アメリカのロバート・ローゼンが「ヘルシー・カンパニー―人的資源の活用とストレス管理」(宗像恒次監訳、産能大学出版部、1994年)という本の中で、同義の概念を提唱したことが発端とされています。日本では2006年に、元大阪ガス株式会社の産業医である岡田邦夫がNPO法人健康経営研究会を発足させたことで、広く知られるようになりました(第1回)。

その後、アメリカでは、American College of Occupational and Environmental Medicine(ACOEM)が主催の、社員の健康、安全、職場環境に配慮した優良健康経営表彰制度(CHAA:Corporate HealthAchievement Award)が、1996年から始まりました。日本の経済産業省はこのCHAAを参考に、2015年の健康経営銘柄をはじめ、顕彰制度を開始しています。CHAAは、2019年に制度の変更があり、名称がExcellence in Corporate Health Achievement Award(ECHAA)に変更されたものの、現在も続いています。表1に、1997年からのCHAA受賞企業を示します。

優良健康経営表彰制度(CHAA)の受賞企業
表1:優良健康経営表彰制度(CHAA)の受賞企業(ACOEMのウェブサイトより筆者作成、2021、2020、2019、2018、2014、2008、2006年は該当企業な し。Baptist Health South Florida、Bristol- Meyers Squibb、Johnson & Johnson、IBMは2度受賞している。)

CHAAの特徴としては、主催者が医療系の学術団体であることや、活動内容が学術団体の活動にとどまらないことが挙げられます。2013年には、CHAA企業群と、アメリカの代表的な株価指数であるS&P500(Standard & Poor's 500)との、13年後における株価のパフォーマンス比較が行われました。その結果、CHAA企業群がS&P500より、約1.8倍に上昇した報告がなされました(参考:FAST TRACK ARTICLE,Volume 55, Figure 1, Number 9, September 2013, P.997)。

さらに2017年には、投資家向けに株式市場における投資信託である健康安全指数(Integrated Health and Safety Index)を作りました。安全衛生や健康に配慮している企業は株価が高い、つまり企業価値が高いと判断したためです。一般的に、Index(指数)は株式での運用成果を表すため、メディアや証券会社、投資会社が作る動機があります。これを学術団体が作り、発表してしまうのがすごいところです。なお、日本では同様の医療系学術団体が仕切っているIndexは、現時点ではありません。

一方、日本では、2010年から経済産業省が主体的に健康経営の普及に取り組んできました。表2に、主な経済産業省周りの取り組みを示します。

経済産業省の健康経営普及への取り組みなど主な施策
表2:経済産業省の健康経営普及への取り組みなど主な施策

経済産業省による取り組みの特徴は、表彰制度を整備した点と、普及のため委託事業を活用している点が挙げられます。筆者も、2019年に「経営戦略としての健康経営」を発刊した際、協力いただきました。このように、経済産業省は、民間団体の支援も含め普及活動に関してさまざまな取り組みを行っています。

もう一つ、特徴として挙げられるのが、活動の主体が経済産業省など、政府機関である点です。アメリカでは民間の学術団体が主体者です。これは、日本では、いわゆる大きな政府(政府・行政の規模・権限を拡大しようとする思想、または政策)が原因となり、民間の活動が制限されているためとも受けとれます。しかし一方で、日本政府の機関である経済産業省が主催しているため、民間企業が安心して参加できるという考え方もできます。個人的には、日本での普及において経済産業省が主導したことは、メリットが大きかったのではないかと考えています。ただし、デメリットがないわけではありません、経済産業省は今後、認定制度の主体者を民間へ移行する方針を示しています。

2. 健康経営のこれから

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全6回で下記の内容を解説しています。

  • 第1回 健康経営とは?~バズワード化しつつある「健康経営」と期待される効果~
  • 第2回 健康経営の歴史と経済産業省の役割
  • 第3回 健康経営とは?~2022年度健康経営顕彰制度の見どころ~
  • 第4回 ものづくりと健康経営~産業衛生・安全衛生からの発展~
  • 第5回 健康経営を使った都市づくり
  • 第6回 健康経営の取り組み3ステップ~医療や食品を使った健康経営

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