前回は、ジャイロセンサのメカニズムについて解説しました。今回は、MEMSジャイロの作り方を紹介します。MEMSジャイロはシリコンウェハ上に形成された微細構造からできています。この小さなメカニズムを、フォトリソグラフィ、エッチング、成膜といった半導体微細加工技術を駆使して作ります。
第4回「MEMSジャイロの作り方(前編)」を解説していきます。
1. SOIプロセス
最も単純な作り方は SOIプロセスと呼ばれ、SOIウェハを使用します(図 1)。SOIプロセスは、SOIウェハの準備、Siデバイス層の加工、SiO2エッチングによるMEMS 構造のリリースの 3 つの過程を経て作製されます。
1:SOIウェハの準備
SOIはSilicon On Insulatorの意味で、デバイスが作られる比較的薄いシリコン層(デバイス層)が、酸化シリコン層(BOX層)を間に挟んで、厚いシリコン層(ハンドル層)で支えられた構造のことです。MEMSジャイロの場合、デバイス層の厚さは数10μm程度かそれ以下です。
2:Siデバイス層の加工
SOIウェハの表面に電極や配線を形成した後、デバイス層をジャイロのメカニズムに加工します。このとき、デバイス層を垂直にエッチングしなくてはならないため、ボッシュプロセスと呼ばれる方法を使います。これはドイツの自動車部品企業大手ロバート・ボッシュによって発明されたことに由来します。ちなみに、その創業者は火花点火の巨人ロバート・ボッシュ(1861~1942)であり、彼の甥(おい)にはハーバー・ボッシュ法の発明者の一人で、ノーベル化学賞受賞者のカール・ボッシュ(1874 ~ 1940)がいます。
3:SiO2エッチングによるMEMS構造のリリース
MEMSジャイロの構造はできたものの、現状ではBOX層を介してハンドル層に固定されているため、メカニズムは動きません。そこで、MEMS構造の下にあるBOX層を、フッ酸を使ったエッチングで取り除きます。ただ、BOX層を全てエッチングしてしまうと、デバイス層のMEMS構造がハンドル基板から分離してしまうので、可動部下のBOX層は完全に取り除きつつ、基板に固定するアンカーは残るようにエッチング時間を調整します。もちろん、そうなるようにMEMS構造を設計しておく必要があります。
このようにして、MEMSジャイロを作製できます(図2)。しかし、この方法は少し古めかしく、特に多軸ジャイロを作るのに競争力のある方法とはいえません。いくつかある問題点の一つは、一般的に厚さ2μm程度と薄いBOX層で、面外方向の動きを大きくできないことです。前回説明したように、3軸ジャイロのメカニズムでは面外方向(z方向)の振動が必要です。
2. キャビティSOIプロセスとエピポリシリコンプロセス
SOIプロセスを改良した作り方が、図3に示すキャビティ SOIプロセスです。この方法は、SOIウェハの代わりに、あらかじめ空洞が作られたキャビティ SOIウェハを用います(1)。この空洞の上に、MEMS構造の可動部が作られます。キャビティ SOIウェハは、エッチングによって空洞となる凹(へこ)みを形成しておいたシリコンウェハに、別のシリコンウェハを接合して作ります(2)。ウェハ接合後、研削・研磨によってデバイス層の厚さを所望の値にします。その後の加工手順は、図1の説明から類推できると思います(3)。
図4に示した3軸MEMSジャイロは、キャビティ SOIプロセスで作られています。
さらに別の作り方であるエピポリシリコンプロセスを、図5に示します。シリコンウェハに酸化シリコンSiO2とポリシリコンを成膜し、ポリシリコンを電極や配線の構造にパターニングします(1、2)。その上に酸化シリコンを成膜し、エッチングによって固定部の足(アンカー)となる部分に孔(あな)を開けておきます(3)。その上に、MEMS構造となる厚いポリシリコンであるエピポリシリコンを成膜します(4)。その厚さは20 ~30μm程度です。アルミホイルの厚さが12μmなので、その2倍程度となるエピポリシリコンは薄いと感じるかもしれませんが、半導体製造技術ではとても厚い膜といえます。その後の加工手順は、図1の説明から類推できると思います(5、6)。
3. エピポリシリコンプロセスの利点
全6回で下記の内容を解説しています。
- 第1回 ジャイロセンサとは
- 第2回 MEMSジャイロの原理
- 第3回 MEMSジャイロのメカニズム
- 第4回 MEMSジャイロの作り方(前編)
- 第5回 MEMSジャイロの作り方(後編)
- 第6回 MEMSジャイロの高性能化